HigterFrequency パーティーレポート

ENGLISH PARTY REPORT

HigterFrequency パーティーレポート

THE LABYRINTH 2009 @ 苗場グリーンランド, 新潟

DATE : 19〜22 September 2009 (Sat〜Tue)
LIVE : Donnacha Costello, Vince Watson, Function, Peter Van Hoesen, Koss a.k.a Kuniyuki
DJ : Donato Dozzy, Marcus a.k.a Minilogue, Three, Dave Mothersole, Daniel Bell, Peter Van Hoesen, Marcel Fengler, Will Saul, Eric Cloutier, Natural/Electronic.System , Eavesdropper, So, Hiyoshi
MIDNIGHT LOUNGE : KZA a.k.a Force of Nature, Maxxrelax, Sendai Dj Set-Eavesdropper & Peter Van Hoesen, Natural/Electronic.Sound, Eric Cloutier
VISUAL & SPACE DESIGN : Hibiki, Interstella, Akariya
PHOTO : KAZ
TEXT : Yuki Murai (HigherFrequency), Ryoko Misawa (HigherFrequency)

イベント詳細

今年で9年目を迎えた Mindgames presents The Labyrinth。移り変わりの早いクラブミュージックシーンの中でも揺るぎない信念と個性を確立しており、世界的に見てもトップクオリティを誇るイベントと言えるだろう。これまでAdam Beyer や Mathew Jonson、Minilogue、Matthew Dear、Pier Bucci といったテクノ/ミニマル〜ハウスシーンで注目を集めるアーティストから今や Labyrinth の顔ともいえる Three や Donato Dozzy など日本では無名に近かったアーティストも招聘するなど、幅広く、且つこだわり抜かれたラインナップは今日のクラブミュージックシーンに少なからず影響を与えているように思われる。「ベストな空間で音に浸かること」をコンセプトにこれまで入場者数が制限されチケットが入手困難な年が続いたが今年はより広大な地を求め苗場へと会場を移し、キャンプサイト・ダンスフロア共に広々としており慣れ親しんだ川場キャンプ場とはまた違った魅力のある空間が広がっていた。

晴れ渡る秋空が広がる中、続々とキャンプインしてゆく来場者に目をやると、3泊4日の長旅に備え沢山の食材をこしらえた人や大きなテントを持つ人を多く見かけた。会場に足を踏み入れた人々の表情はどれも清々しく開放的で、その光景を見ると誰もが自然体に還ってゆくようでもあった。新天地・苗場グリーンランドはエントランスをくぐりボードウォークを渡り終えると大きく口を開けて私たちを出迎えているかのようなダンスフロアが目に飛び込んでくる。音が舞い降りる瞬間に想いを馳せつつショップエリアを横切り更に奥へと進むとキャンプサイトがどこまでも連なっており、くつろぐには十分なスペースが広がっている。
日が差す日中はまだ夏を感じる程の暑さであったが、夕暮れを過ぎ夜闇に包まれると会場を清めるかのような冷たい空気が流れ出した。メインブースであるティピの周りにキャンドルの暖かな光が灯り、Hiyoshi の4時間に渡るロングアンビエントで迷宮への入り口が開かれた。

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Hiyoshi のサウンドが山々と呼応する中、また The Labyrinth に戻ってきた!という充実感が身体いっぱいに満ちているのを感じながら、これから4日間共にキャンプを過ごす仲間たちと乾杯、他愛もない話で散々騒ぎ、笑った後、明日朝5時からのダンスに備えて深夜2時ごろにテントに退散。同じ時期というのに川場とは全く違う乾いた寒さの中、さんざん重ね着をしてシュラフに潜り込んだ。

一瞬たりとも見逃すまいと、朝6時の Marcel Fengler のセットスタートに合わせてアラームをかけていたのだが、そんなものは必要ないほどの豪快なキックが気持ちよい朝の空気に響き渡り、The Labyrinth 2日目がスタートした。 キャンプサイトからダッシュでメインに向かい、寝坊のパーティー・バード、目を覚ませ!とばかりに景気よくアップしていく Marcel Fengler のサウンドで寝起きの身体をほぐし(まさにラジオ体操感覚!)、いったんテントに戻って朝食を。徐々に日が昇ると、昨夜の晩秋のような寒さが嘘のように暖かくなってきた。食事や身支度であわただしく過ごしながらも、響いてくる音はかなり確実。3時間セットの最後の1時間には何とかメインに戻れたものの、ようやく盛り上がったところで次のアクト、Eric Clotier と交代となった。「この人(Marcel Fengler)はもっとしっかり聞きたかったね」と後でも仲間とも語り合うような好セットだった。

昼前にはもはや「暑い」という言葉が出てくるほどの熱気に。Eric Clotier のセットはディープで美しく、どんどん増えていく人々の賑わいや強烈な日差しと不思議なバランスをとりながら、頭上をするりと抜けていく。飲み物片手に踊りながら、いつもは薄暗いフロアで出会う見知った顔たちと次々とすれ違い、それぞれが気合を入れて持ってきた美味しいお酒、お手製の食べ物、そしてパーティーの喜びを分かち合う。

そうこうしているうちにDJは Will Saul に交代。高品質なディープ・テック・ハウスのスタイルに定評ある彼、スタートはまさに Will Saul 節のディープハウスセットで、筆者の個人的趣向のまさにど真ん中!夢中で音を追いかけながら踊る。セット中盤からは徐々にパーティー・セットに移行。前半でハッスルしすぎた筆者は芝生に座って踊る人々を眺めているうち、一体ここはどこなんだろう?という妙な気持ちにとらわれた。そのときの音は、いうならばイビサあたりのビッグ・パーティーを彷彿させるような雰囲気、でも実際には山の中。音楽が好きで仕方ない人々が真昼間からとにかく踊るために集まってきている…完全に日常とは隔離された世界。これこそが The Labyrinth なんだよな、と改めて納得してしまった。

Koss のライブが始まったのだが、このあともう一度夜にもあるしな…とテントに戻り、椅子に座ってチルアウト時間に。筆者一行は今回、とにかく『アウトドアで食事を楽しむ』ことにかなり力を入れていたので、ここからはしばらく10人近い仲間達と料理と雑談、アルコールを楽しみながら日が暮れていくこととなる…。前評判も高かったイタリアからのニューカマー natural/electronic.system のサウンドを堪能しきれなかったことが本当に悔やまれる。Donnacha Costello のセットは最終日に!と、名物のキャンドルに照らされたティピに後ろ髪をひかれつつ温泉へと出かけ、テントに戻った後は生音をふんだんに取り入れた Koss のアンビエントライブセットを遠くに聴きながら、少々雲は目立っていても東京の空とは比較にならない程の星空の下、再びチルアウト…。今回初の試みとなる Midnight Lounge に向けて仮眠をとった。

KZA aka Force of Nature の中盤あたりにようやく目が覚め、肌から染みてくるような寒さに服の上からブランケットを巻いて Midnight Lounge へ。アンビエントフロアの名目でセットされたサブフロア的な位置づけであったが、フタをあけてみると音量もかなり大きく、モンゴルゲルの中に作られたDJブースの周りに予想よりはるかに多く人々が集まっていた。KZA のサウンドも人々の期待に押されるように比較的アップテンポで、筆者と同じようにブランケットや厚手のポンチョなどを着込んだ面々がもぞもぞと踊っているのはちょっぴりシュールな光景だ。

続く Midnight Lounge の担い手は Sendai DJ Team こと Eavesdropper と Peter Van Hoesen に。昨年の The Labyrinth ですっかり Peter Van Hoesen のファンになってしまった筆者にとって、今回個人的に非常に楽しみにしていた時間帯がやってきた。ある意味一番「アンビエント的」とも言える抑えた音であったが、何とも形容しがたい、何かが渦巻いているようなダビーでカオスなサウンドに完全に飲み込まれ、得体の知れない深みの中で静かに熱狂。気がつくとすでに空が白みはじめていた。

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結局寝る間もなく、筆者は Midnight Lounge の時間から引き続きとなる Eavesdropper のライブをそのまま鑑賞することとなった。空色がグラデーションを描いてじわじわと変わり、山々から白い蒸気が立ちのぼる幻想的な雰囲気を尻目に、真夜中からのテンションをそのまま引っ張ってきたかのようなドロドロの変態サウンドには思わず笑ってしまった。

そしてお待ちかねの Peter Van Hoesen ライブセット!まだ人もまばらなメインで、DJ ブースから発生した大地を静かに揺らすような深いキックが靴底から伝わってきて、足が地面にくっついてしまったような奇妙な感覚を覚える。上げていくというよりは積み重ねるような静かなテンションに、すっかり魂を抜かれたような気持ちでただひたすら、音に浸る…。1時間半のライブのうち、贅沢に1時間を費やして積み重ねられたエネルギーを開放するかのように、うす曇りの空がようやく明るくなるころ、ラスト30分というところから徐々にピッチを上げていき、今度は地面に杭をうがつような重いキックが響いてきた。最高!と心の中で何度つぶやいたことか…。

休む間もなく Three が登場!Threeが出るから The Labyrinth に来た、という程の強烈なファンも存在する位の大人気ぶりは今年も健在のようで、メインにどんどん人が集まってきた。Three のDJの決め手は、とにかく踊る側が楽しくなるような、文字通りの意味でダンス・オリエンテッドなセット組み。クラウドを踊らせるために膨大な中から曲をピックアップし、それを組み合わせていくDJという職業に、改めて心から感謝したくなった。カラフルなコスチュームや、思い思いのおしゃれで集まってきた人たちが、心からの笑顔で踊りまわっている風景は平和そのもの。絶対にここまで来ないと見られないものを見ている満足感、この感動を知らない人が可哀想になってしまう。

3時間まるまるのセットを心から楽しんだ後、やはり昨晩から寝ずにいた筆者の体力はすっかり限界に。しかも昨日以上に突き刺さるような日差しは痛く、暑くて目が回るほどで、さすがにテントに戻って休むことにした。

休憩から目覚めてみると、炎天下のまっただ中、グルーヴ・マスター Daniel Bell が登場。一層もりあがるメインに何度か戻ってはみたものの、結局テントといったりきたりを繰り返すはめに…。椅子に座ってぼんやりとしながら緩やかめに組まれた音を追い、こんなにいい音、自分も大好きな感じの音なのに、踊れないのが悔しく思えて仕方ない…。ようやく夕方になるころ少しずつアップテンポな曲が増えてきた。昼の時間に緩めにしていたのはクラウドが暑さにやられないように考えてのことだったのではないだろうか?と気づき、さすがのベテランの采配に思わずうなった。

Function に交代する頃には大分体力も回復し、フロアへ戻ることに。前半がライブ、後半が DJ だった模様。ライブはとにかく硬質なエレクトロニックで、BPM的にはそう早くないところでガシガシと上げていく感じがかなり格好良く、後半の DJ へも音色は巧みに繋がってゆきその力強いサウンドはまるでダンスフロアに爆弾を投下したかのようであった。すっかり彼のサウンドに操られていたオーディエンスからは歓声が絶えず上がっており、個人的には後述する Donato Dozzy の最終日のセットと肩を並べるベストアクトであった。

夕食を食べたあと、本日のトリの Donato Dozzy のアンビエントセットへ。キャンドルの光の中で聞く厳選された曲たちはひたすら静かに優しい宇宙を広げる。3時間いっぱい美しい音像の中にただ酔いつくし大満足の筆者であったが、まだまだ踊り足りない人にとっては物足りず、その後知人たちと話してみてもかなり賛否両論が分かれたようであった。

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ファイナルとなる今日一日は最初から最後までダンスフロアから離れまいと心に決め、Midnight Lounge をテントから聴くことにした筆者であったが、昼間では味わえない怪しげなナイトサウンドと歓声に自然と耳が反応してなかなか眠りにつくことができず、朝5時から始まる Peter Van Hoesen には少々遅刻してしまったが、朝日が昇るにつれて深みにハメてゆくテクノセットはモーニングコーヒー替わりに流し込んだワインととても相性がよかった。

次に登場したのは今や Labyrinth ではお馴染みになった Dave Mothersole。昨年のいぶし銀のプレイにすっかり心を奪われた筆者であるが、今年もテクノ〜プログレッシヴハウスの中にもトランス感覚を散りばめた職人技が光るセットで徐々に集まってきたオーディエンスの体を更なる迷宮へと引きずり込むのであった。昨日までの刺すような日差しは程よく雲に遮られ流れてくる涼しい風で火照った体を休ませながら、これまで参加してきた Labyrinth は天候もドラマチックに変動していたことをふと思い出した。晴れ日が続きアンコールで雷雨に見舞われたり、干上がってしまうと思うほど灼熱が続いたり、雨が続いた最終日に晴れて空が茜色に染まったり…それなのに今年はずっと晴れが続いている。良いことなのにどことなく物足りなさを感じてしまったが、快晴続きの Labyrinth というのもこれまた新鮮な感じがした。

Dave Mothersole から流れの良いバトンと受け取ったのは Donnacha Costello。3年ぶりに Labyrinth の舞台へと戻ってきた彼のライブセットを心待ちにしていたオーディエンスも続々とフロアへ集まり何ともいえぬ熱気が漂っている。日曜の夜には星が煌く夜空に溶け込むアンビエントサウンドを奏でてくれた Donnacha であったが、最終日の今日は彼らしい幻想的な美しいプログレッシヴセット。叙景的なメロディーに身を委ね音の粒がフロアに降り注ぐのを感じながらいつまでも心地よく踊る筆者であった。

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一息つく間もなく気がつくとブースには Marcus がスタンバイしていた。Labyrinth にはおそらく最多で出演している彼であるが、残念なことに今回のプレイを期に Marcus 単独での DJ 活動はしばらく休止するというニュースが来日直前に飛び込んできた。ファンには悲しい知らせであったが、彼のプレイを見届けるためにフロアには溢れ返るほどのオーディエンスが集っていた。ミニマルをベースにプログレッシヴ〜テックハウスなどその瞬間に合う音でフロアを巧みにコントロールしてゆく Marcus のセットは、これまで筆者が見てきた彼のセットの中でもとりわけエモーショナルであり、エネルギーに満ちており、そしてそれはフロアにいた全ての人に伝心していたように思えた。Kate Bush/Running Up That Hill(Infusion Remix)や2006年 Labyrinth のラストセットでもプレイしてくれた Kirsty Hawkshaw/Fine Day(James Holden Remix)など新旧こだわらず彼のこれまでの軌跡を印したかのような今回のセットは力強く、ハートウォーミングで、ダンスミュージックの素晴らしさが素直に伝わってくる最高のプレイだった。プレイ終了後も鳴り止まない拍手と「ありがとう!」という声援が絶えずフロアに響き渡り、今回の Labyrinth のハイライトともいえるこの場面には筆者も胸が熱くなった。

Marcus のプレイで胸がいっぱいになりながら迎えたラストセットは Donato Dozzy。「マイクロトランス」と銘打った彼のスタイルは Labyrinth にぴったり合っているように思う。鋭く重厚に響き渡るサウンドは実に頭脳的で、徐々に構築されてゆく音のパズルはテクノの中のテクノと呼ぶに相応しく、再び夜闇に包まれ怪しげな雰囲気が漂いだしたフロアをより深部へと引きずり込むのであった。終演時間が過ぎても出口を見せない彼のセット。気がつくとなんと23時をまわろうとしているではないか!!彼の集中力とレコードの多さにまず驚かされたが、7時間にも及んだ Donato の圧巻のプレイにフロアからは絶えず歓声が上がっていた。迷宮の出口だったはずの Donato のセットは、実は更なる迷宮の入り口へと繋がっていたのだと7時間経ってようやく気が付いた筆者であった。

Donato のセットが終わるのとほぼ同時に気が付くとしとしとと小雨が降り出していた。迷宮を彷徨い続ける私たちに、この雨は「今日はもう終わりにしなさい」という一つのタイミングを与えてくれたように思えた。Donato の思いもよらぬロングセットに加え、小雨と夜闇のおかげですっかり帰るタイミングを失った筆者は静寂につつまれたラビリンス村にてもう一泊することに。翌朝、朝靄に包まれ神秘的にすら見えるティピに別れを惜しみながら、沢山の感動をくれた3泊4日に感謝をしつつ会場をあとにした。 来年で10周年を向かえる Labyrinth。どんな奇跡に遭遇するのか、今から楽しみでならない。

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