HigterFrequency パーティーレポート

ENGLISH PARTY REPORT

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TAICOCLUB’09 @ KODAMA NO MORI, NAGANO

DATE : 6 & 7 June 2009 (Sat & Sun)
【特設ステージ】
ACT : Squarepusher, Ricardo Villalobos, Sis, Atom TM, Daniel Wang, Zazen Boys, Takkyu Ishino, Fumiya Tanaka, Moodman
【野外音楽堂】
ACT : Alex Under, Serge Santiago, Special Others, World's End Girlfriend, Tujiko Noriko, Jel, Themselves, De De Mouse, DJ Mitsu The Beats, Matmos, Nick The Record, クボタタケシ
PHOTOGRAPHER : J.Harley, and more
TEXT : Yuki Murai (HigherFrequency), Ryoko Misawa (HigherFrequency)




今年で4度目の開催を迎えた Taicoclub。数日前からの雨続きで天候が危ぶまれていたが、当日は日中の曇天から夜にかけて晴れ上がり、開催中を通して雨にみまわれること無く、これまでになく快適に過ごすことができた。

筆者は初回から第二回をのぞき、3回目の Taicoclub 参加。人気の年々の過熱ぶりを見越して昨年よりも早めに会場入りしたのだが、まだ空の明るい夕方の時点で、メインとなる特設会場奥の芝生のキャンプエリアは満杯。他の場所を使うようにスタッフから指示され少々面食らうと同時に、今年のお客の並々ならぬ気合の入りっぷりを頼もしく感じたりもした。

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そんな前のめりな雰囲気を受け止めたのか、夕刻の特設会場を担当するMoodmanもシックなテック・ハウスから次第にテンションを上げてゆき、セット終盤はディスコ・テイストでがっちりとクラウドを盛り上げて、次のアクト・Zazen Boys にバトンタッチ。

これまでにも数々のロック・フェスのステージを飾ってきた実力派バンド Zazen Boyz は、今回のライブ・アクトの中でも異色の存在感を放っていた。オルタナティブ・ロック、ファンク、オールドスクール・ヒップホップなどを下敷きとし、そこに詩吟のような節回しのフローが乗る独自の音楽性は、フロントマンの向井氏が過去に所属していたバンド・Number Girl 時代から筆者が個人的にファンだったこともあり、会場一杯に詰めかけたクラウドからの「Zazen! Zazen!」というコールに否応なしにテンションが上がる。 向井氏の「タイコー!!」という雄叫びから始まり、構築されたリズム隊から繰り出されるタイトなうねりは変幻自在、まさに圧巻。はじめは後ろから遠巻きに見ていた、4つ打ち専門風な雰囲気を漂わす人々も思わず踊りだした様子についつい嬉しくなってしまった。

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夕暮れすぐからいきなり重量感ある一発をくらわされた気分だったが、すぐにディスコ・マスター Daniel Wang がブースin。先程までの緊張感を一気に崩す軽快なMCで、Zazen Boyz のライブを「ビーフステーキ!」と形容、「ここからはお茶漬けテイストのディスコテックですよ。DJブースを見ないで踊ってね!」と、笑いを誘いながらスタート。表面上の面白トークやリアクションについ惑わされがちだが、新旧、ジャンル問わず名曲を紹介しながらつないでいく様や、ダンスや音楽に対する熱い心意気を語る様は、元々DJってこういう存在なんだよなあ…と思わぬところから感動。特設ステージの左右に配置されたミラーボールが月や星空と共演するゴージャスさは、この野外の空間がWang氏の思惑通り、まるごとディスコになってしまったように感じられた。

さて、国外からも評価の高いツジコノリコのライブを是非体感したく、野外音楽堂へ向かう。透明な歌声、繊細な音が、柔らかい芝生や周囲の木々と響きあい、全ての音が満月の光と溶け合うような優しい異世界へ一気にトリップ。うっとりしている間に時が過ぎていった。

名物・ジャンボ滑り台に大のオトナ達が列をなして並ぶ様に、誰もがうっかり童心に帰ってしまうこだまの森のマジックを感じながら、SIS のライブセットを目当てに特設会場へ戻る。

Daniel Wang のアッパーな華やかさから一点、ベルベット生地のようなしっとりした闇の質感を感じさせる SIS のセットがスタート。確実なキックとベースラインに支えられた上に、軽く、重く、様々なドラムとパーカッションがラテンでファンキーな彩りを添えていく絶妙さに即、全身で埋没。あっという間のセットのおわりまでひたすら踊りつくした筆者、その後会う人ごとに「SIS 物足りない…」とつぶやく可哀相な人になってしまっていたとかいないとか(笑)。

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そしてお待ちかね、石野卓球氏のDJセットがスタート!十分に人が集まったと思っていた会場にさらに人が増えていき、改めて氏の人気の高さが露見した。セットのはじまりは会場の様子をうかがうようにクールめに数曲、そこから一気にこれぞテクノ!な卓球節に展開。満員の会場からブレイクのたびに歓喜の声が上がり、途切れないグルーヴにステージ後方からレーザー光が広がる様はいわば『一人でもWIRE』なパワフルさと、長年の経験からのスキルの高さを否応なしに感じさせ、あとの休憩中にも「卓球さんかっこいい!」という声をあちらこちらから聞くことができた。

Special Others のライブ後半で、野外音楽堂へ再び戻る。SIS、卓球氏と連続で踊ってきた疲れで大勢のファンが固めているステージ前方にはさすがに行けなかったものの、周囲の空気を瞬時に音に変えていっているように感じられる自在さ、そこから生まれる強烈な一体感に思わず涙が出そうになる。バンド系、クラブ系を問わず野外フェスの常連にカウントされる実力を体感させられた。

今回のラインナップの中で、筆者にとって恥ずかしながら全く初耳だったJelのライブがそのままスタート。それが事実か冗談なのか全く分からずじまいではあったが、「PCが壊れたから今日は全部ハードウェアとMPCでやるよ」というようなMCからはじまったセットは、ヒップホップと聞いてつい想像しがちな商業化されたものとは全く違う、実験精神と深みに溢れた強烈なものだった。ハードウェアからの音をMPCにサンプリングしては、即興的に曲が出来上がっていく様は、日ごろこういった音にあまり親しんでこなかっただけにとても新鮮に響き、結局最後までそのMPCさばきに目も耳も釘付けになってしまった。

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Atom TM のライブに間に合わせるために急いで特設会場に戻ると、先程までは無かった巨大電光掲示板がステージ左右に置かれ、映画『マトリックス』を髣髴させる黄緑色の文字列が表示中。突然南米に移住してみたり、Senor Coconut など色々な名義を使い分けては(いい意味で)そのたびに客をケムに巻くようなスタイルを編み出すAtom 氏のこと、一体何が始まるのか…?

心配されていた雨も降らず、少々熱いくらいの中にも関わらず、びしっとスーツにネクタイで現れたAtom TM。直立不動の状態で、無表情で2つの電光掲示板の間に立ち、ライブ用の機材を置くにはちょっと小さすぎるのでは?と思うような譜面台くらいのサイズの台を置き、摩訶不思議なエレクトロニック・ミュージックを奏ではじめた。この時点で筆者の頭の中はハテナマークとワクワク感で破裂寸前!やがて、どうやら左側の数値が機材のパラメーターで、右側にはグラフィックイコライザー的な動きをするアスキーアートなのではないか、という予想がついてきたのだが、じっと見ていると突然別な動き、別な画像が表示される始末。Kraftwerk 直系を思わせる硬派なエレクトロニックを基調としつつも全く読めない展開に恍惚としていたところ、急に能天気な南国風の曲が流れ出し、アロハシャツを着た Atom がのんびり過ごしているビデオが…。ご丁寧に、その間はパラメーターもしっかり停止中(つまりビデオが流れているだけ)。そして、何事もなかったかのように又エレクトロニック・パートに戻っていく…。

今このように書いていても全く何がどう素晴らしかったのか説明がうまくできないほど、とにかく言葉も何もかも超えてしまった Atom氏のライブは、とにかく凄すぎる、とんでもない衝撃であったとしか言いようがない。音が止まったあと、普通ならイェー!とかキャー!といった声が出てきそうなところだというのに、筆者の口から出た叫びは「うわーーーーーー!?」だった。…なんとなく、わかっていただけただろうか?

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圧倒されきった脳をクールダウンすべく、お楽しみの屋台めぐりを満喫したあと、テントでしばしの休憩。毎年思うのだが、今年も屋台のレベルが総じて高くて嬉しい。ひとしきりのキャンプライフを満喫した筆者はお目当ての一つでもある Alex Under を見るため野外音楽堂へと足を運んだ。

ダンスフロアからは歓声が聞こえ自然と期待も高まる。フロア前方には、同じく彼のプレイを待ち望んでいた観客が集まり独特のテンションが漂っている。まだ夜も深まる前のプレイということだからであろうか、アッパーなハウスチューン〜テックハウスを中心に幅広い選曲で徐々にダンスフロアを温めていった。これからディープなテクノにハメて行くのかと期待した瞬間に音が打ち切られてしまい、もっと踊らせてほしかったのが本音であるが、持ち時間が1時間というDJには短すぎる時間の中に今の彼の方向性を十分に詰め込んだセットであった。

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野外音楽堂を後にした筆者はもちろん Squarepusher を見る為に特設会場へ。Alex Under と少々時間がかぶっていた為前半は見逃してしまったのだが、途中からでも存分に彼の奇天烈な一面を垣間見ることができた。約5年ぶりの来日ということもあり、待ち望んでいたファンの熱気がフロアに溢れている。
中盤は踊るには程遠いハードコアなノイズ〜究極のドラム生打ち込みなど、クラウドを一体どこへ連れて行こうとしているのか見えない、良い意味でハラハラするプレイが続く。Atom TM のセットからセッティングされているステージには大きな電光掲示板も引き続き稼働中、これにやられてしまった方も多いのではないだろうか。音に反応して幾重にも変形を続け、音と映像の融合が叶った壮大なショーケースは正に圧巻の一言。

そろそろエンディングを迎える時間だな、と思った矢先に涙モノの名曲 'A Journey To Reedham' がかかりフロアには歓喜の嵐が吹き荒れた。これまでのハードな演奏のモチベーションは保たれたままに、よりエモーショナルな気持ちを喚起する最高のエンディングであった。普段はあまり雄叫びを上げない筆者であるがこの時ばかりは感謝の意を込め大声援を送った。予想を遙かに上回る神がかったプレイにフロアからは歓声が耐えず響いていた。

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フロアに熱気が溢れたままに続いてはいよいよ Ricardo Villalobos が登場!思ったよりもスローな始まりでマットな質感のミニマル〜ハウスチューンで幕を開けた。空にはまだくっきりと満月が顔を出しているが徐々に明るくなりだしている。クリックやミニマル寄りな印象を醸しつつも、彼の基本スタイルはハウスミュージック。朝方には丁度よいといった具合のセットでそろそろ踊り疲れてきた観客の体をいたわるかのような優しいセット であった。

朝の光の中、野外音楽堂で Matmos をのんびりと鑑賞。「Good Morning」を連発しつつ、楽しげな生楽器がたくさん取り揃えられたステージ上から、まずは笛が響いてスタート。あらゆる文化、あらゆるスタイルの音楽を掘り下げて作り出されたような彼らの音楽は、本来であればもっと難解なものであってもよいように思われるのだが、不思議と聞きやすく、心地よく心に響いてくる。時折両手を広げてベルを鳴らす動作など、耳にも目にも純粋に「楽しいな」「気持ちいいな」と思える要素が沢山散りばめられ、朝日が降り注ぐ中、音で作られた宝石箱を覗き込んだような気持ちにさせられた。

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ラストは Sis, Ricardo Villalobos, Fumiya Tanaka のトリプルB2B!!フィナーレに向け徐々にテンションを上げるプレイが続く。石野卓球氏も夜中のセットで使用した Gel Abril 'Spells Of Yoruba' を1曲目に持ってきたのは Fumiya Tanaka。即興で繋がれていく独特のダイナミズムは、まるでダンスフロアを挑発しているかのようで3人のじらされ甲斐のあるプレイがその後も続いた。すっかり日が昇り雲ひとつない青空が広がるなか耐久戦はまだまだ続いていたが、一足お先にフロアを後にしテントで火照った体を休ませ後ろ髪を引かれる思いで会場をあとにしたのであった。

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