HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Kieran Hebden Interview

電子音だけで構成されたサウンドの中にも、どこか素朴でオーガニックな味わいを感じさせる独自の音楽性を打ち立てたことでカリスマ的な人気を誇っているイギリス出身のクリエーター Four Tet こと Kieran Hebden が、数々の前衛的セッションに参加してきた大御所ジャズ・ドラマー Steve Reid とタッグを組んで生み出したアルバム "The Exchange Session" のインパクトは強烈なものであった。超変則的なリズムでありながらもグルーヴィーな Steve のドラムと、それに引っ張られるようにテンションを上げていく Kieran のエレクトロニック・サウンドの洪水が織り成す未知の興奮に溢れたサウンドは、Kieran らしい先鋭性を保ったものでありながらも、同時に彼のフリー・ジャズへの憧憬を強く感じさせる原点回帰的な懐かしさも兼ね備えた、多層的な魅力に持ったものだったからである。

そんなただの前衛的作品とは一味も二味も違ったアルバムをリリースしたばかりの Kieran と Steve の2人が揃って来日を果たすということで、 HigherFrequency では Kieran に単独インタビューを決行。ハードなスケジュールで疲れているであろう Kieran であったが、気さくな笑顔と共に、Steve とのコラボレーション、Four Tet での活動、そして DJ のことなどについて話を聞かせてくれた。

> Interview : Nick Lawrence (HigherFrequency) _ Translation & Introducion : Yoshiharu Kobayashi (HigherFrequency)

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HigherFrequency (HRFQ) : 本日はさぞお疲れのことでしょう。土曜日は Taico Club に出演して、昨晩の日曜日は東京でライブをしたのですからね。

Kieran Hebden : そうなんだ、しかも金曜は大阪で DJ もやったしさ。かなり忙しい週末だったけど、昨日はよく眠れたから問題ないよ。

HRFQ : ちょうどあなたの DJ 活動について質問したいと思っていたんです。あなたは The End や DC 10 でも DJ をしていますが、DJ と作品制作やライブ活動との間はどういった違いがあると思いますか?

Kieran Hebden : DJ は全くの別物だね。元々 DJ は趣味的に始めたもので、ロンドンのクラブでよくやっていたんだけど、プロデュース業もやっている人間にとっては DJ をするのはいいことだと感じたよ。というのも、DJ をしていると音楽の持つ影響力の大きさを改めて思い知らされるからね。大きな音で音楽を流して、それに合わせてすぐ踊って反応を返してくる人を見るのは、ただ家で音楽を聴いているのとはまた違った音楽の側面だと感じるんだ。ヒップホップのレコードでもテクノのレコードでも何でもいいんだけど、買ってきたものを家で聴くのも一つの音楽の楽しみ方さ。でも、クラブでそういった音楽を聴くのは全く別物の体験なんだ。

どうしてか分からないんだけど、最近はもっと真剣に DJ をやらなきゃいけないようなオファーを受けるようになってきてね。例えば、Timo Maas は僕を DC 10 でプレイさせてくれて、しかもその後に彼とはロンドンで一緒にレジデントを始めることになったんだ。僕は DJ が好きでやっているだけだったから、こういったハードコアなクラバーたちを相手にプレイするのは、本当に新鮮な経験だったね。これまでにやったことのない8時間のロング・セットに挑戦したこともあったよ。でも普段 DJ をするときは、ミニマルやエクスペリメンタル、それにデトロイトもののクラシックスなんかをもっとプレイしているんだ。

HRFQ : あなたのバックグランドについて少しお話を訊かせてください。あなたはバンドでギターをプレイしていましたし、Four Tet として音楽のプロデュースもしています。そして、現在はジャズにも足を踏み入れており、また Badly Drawn Boy のバック・バンドでプレイをしたこともありますね。そんな自身の音楽性をあなたはどのように表現しますか?

Kieran Hebden : なんでもありって感じかな…本当にいろいろな音楽に影響されてきたからね。でも、僕の年齢や年代、それに育ってきたロンドンの地域を考えてみれば、それもそんなに驚くことではないんだよ。僕は13,14歳のころからバンドでプレイしていたんだ。僕はロック・バンドをやっていたけど、ちょうどそのころはドラムンベースが流行し始めた頃でもあったから、そっちも毎日学校で聴いていたしね。ありとあらゆる音楽が身の回りにあって、その全てに夢中になるのは別におかしなことではなかったんだよ。それに、父が大の音楽好きであったというのも出発点としては重要だったね。彼の影響で家では古いジャズやソウル、ファンクなんかを聴いていたからさ。僕は本当に色々な音楽に囲まれて育ってきたから、色んなジャンルの音楽を聴くのは何もおかしなことではないし、それが僕の音楽の聴き方でもあるんだ。

HRFQ : どんな音楽にも夢中になっていたということですね?

Kieran Hebden : そうだね。要するに、僕にとっては、ある週はギターをプレイして、次の週にはイビザで DJ をして、その次の週には日本で実験的なエレクトロニック・ミュージックをプレイしているっていう方が楽しいというだけなのさ。

HRFQ : これまでに Four Tet が Kieran Hebden のことだと分かっていない人はいましたか?

Kieran Hebden : いや、特にそういったことはなかったよ。その音楽が本当に好きだけど、まだそれがどんなものかもよく知らない、でもそこからちょっと調べてみたら色んなものが関係し合っていることを発見できるというのは、僕は結構好きだけどね。みんな自分の興味があるぶんだけ深く知ることができる、ただそれだけのことなのさ。

HRFQ : Four Tet について少しお話を伺ってもよろしいですか?

Kieran Hebden : Four Tet の活動があったからこそ、僕はエレクトロニック・ミュージックに夢中になっている自分に気づいたし、ジャンルの壁を破ったり、他とは違ったことをする方法をみつけることができたんだ。もしバンドでギターをプレイするとしたら、これまでに聴いたこともないような音楽をつくるのって難しいことだと思わない?でも、コンピューターで音楽をつくってみると、そこにはあらゆる可能性が潜んでいて、バンドでやるよりも個性的な音楽をつくることができると僕は感じたんだ。しかもそれで成功を収めることができたから、余計にやる気が出たところもあったね。突然みんなが僕のつくる音楽に夢中になって、あらゆることを試してみるチャンスを与えてくれたんだ。そういったこともあったから、僕はここ数年は全力を尽くして Four Tet の活動に打ち込んでみたのさ。ツアーもたくさんやって、去年は100本近くはやったんじゃないかと思うね。だから、今度は他のことにも意識的にチャレンジしてみようと思って、これまでにオファーは受けていたんだけど時間がなくて出来なかったコラボレーションやコンピレーションへの参加をやってみることにしたんだ。

Kieran Hebden Interview

HRFQ : Four Tet には大成功を収めたアルバムが幾つかありますよね。"Rounds" はその中でも代表的なものとして挙げられると思います。これらの成功したアルバムにはどういったものが込められているのか教えてもらえますか?

Kieran Hebden : "Dialogue" はジャズから強い影響を受けた作品で、"Pause" はフォークからの影響が強いものだった。この2枚のアルバムについて自分でよくないと思う点があるとすれば、それは一つのジャンルからの影響が強く出過ぎた作品になってしまっているということだろうね。でも "Rounds" の制作にとりかかったときには、もっと自分らしいサウンドを確立していたし、より強く自分のパーソナリティを音楽の中に落とし込もうとしたんだ。

HRFQ : では、それらのアルバムをつくったことはあなたにとってプラスとなりましたか?

Kieran Hebden : そうだね。"Rounds" の成功は僕の活動の全てに大きな影響を及ぼしたよ。成功したアルバムをつくると、自分に関わる仕事をしている人みんなが自分のやりたいことに対して協力的になってくれるんだ。つまり、コンサートのプロモーターからレコード会社の人間まで、僕の決めたことが上手くいこうが駄目だろうが気にしなくなるということさ。今 Steve Reid とやっているようなプロジェクトも、もし Four Tet のアルバムを出す前に始めていたら、一緒に働いてくれる人をみつけるのはもっと大変だったと思うよ。このプロジェクトが日の目を見たのが昨年で、本当にラッキーだったね。おかげでツアーとかも組みやすくて、すぐに活動に弾みをつけることができたんだ。

HRFQ : Steve とは元々どのようにして出会ったのですか?

Kieran Hebden : 僕はドラムとサックスだけでやっているようなフリー・ジャズのデュオが大好きだから、一緒にプレイできるドラマーがいないかと探していたんだよね。それで、ある日僕はジャズ・フェスティバルに行って、フリー・ジャズのデュオのライブを観に行くことにしたんだ。そのときは Four Tet としてツアーをしていたんだけど、音楽的には段々と即興のようなものになっていたから、僕もドラマーと一緒にフリー・ジャズのデュオみたいなことができるんじゃないかと思ってね。それでフランスにいる友達にそういったことを言ってみたら、ヨーロッパに住んでる Steve のことをみつけてきてくれたのさ。彼はジャズ・アンサンブルとしてロンドンにライブをしに来ていたんで、そこで顔を合わせてみたら「よし、やってみよう!」ということになったわけさ。それからたった1ヵ月後には、僕たちはパリで一緒にプレイしていたよ。あれはまだ今から1年くらい前のことだね。

HRFQ : Taico Club で観たあなたたちのライブは凄いエネルギーに満ちたものでした。あのエネルギーは一体どこから生まれてくるのですか?

Kieran Hebden : 僕ら2人とも本当に打ち込んでプレイをしているからね。僕たちのプレイを実験的なフリー・ジャズみたいなものとして捉える人もいるみたいだけど、少なくとも自分たちでは全然そういう風には思ってないよ。僕たちは2人とも本質的にはダンス・ミュージックのバックグランドを持っているんだ。Steve は、James Brown や Wilson Pickett、それに Motown の全てのアーティストとプレイしているんだよ。当時は、決まってバンドがプレイしているような、そういったミュージシャンやレーベルのダンス・ミュージックで彼もプレイしていたと言っていたね。自分のやっていることに何か特別な力のようなものを感じながら、いつもプレイしていたらしいよ。オーディエンスは座ってじっくりと聴くようなジャズとかをプレイするのを期待していると思うけど、Taico Club みたいなフェスティバルではもっと自分たちらしいやり方ができたんじゃないかと思うんだ。僕たちはヒップホップのグループとか色々なジャンルの人たちとツアーを回っていたんだけど、僕は若いオーディエンスにも入って来やすい音楽をやっていきたいと思うんだよね。そうすることによって、現代的なエレクトロ・ミュージックにも違った要素を加えることができるし、即興でプレイをしたりしても違ったものができると思うしさ。

HRFQ : これまでに Steve とのコラボレーションで2枚のアルバムを発表しましたが、他にも制作中の作品はありますか、それとも今はツアーに専念しているのですか?

Kieran Hebden : 今はツアーを中心に活動しているけど、来年くらいに出る予定の新作にも取り掛かっているところだよ。これまでに出した2枚のアルバム "The Exchange Session Vol. 1" と "Vol.2" は、本当に始めてのレコーディング・セッションで出来たものだったんだ。あのアルバムが2枚に分かれているのは、レコーディング・スタジオの中で一体何が起こるのか全く分かっていなかったからさ。ああいった形で誰かと初めてレコーディングしたりプレイをしたりすると、そこにはもう二度と起こらないだろうマジックや純粋な何かが生まれるものなんだ。だから、アルバムのコンセプトや、この初めてのセッションのドキュメントといった観点から考えたいことは置いといて、これを最初の作品としてリリースすることに決めたのさ。このアルバムには、あの日起きたことの全てが収められているよ。何年かしたら、ああいった本当に最初のセッションの純粋なドキュメントというのは重要なものになってくると思うんだ。それに、これまで1年間一緒にプレイしてきたんだけど、2人で生み出す音楽は進化していると感じるね。例えば昨日のプレイなんかは、アルバムのものとは全く違っていたしさ。今、僕たちは最初の2枚とは全く違った感触を持ったアルバムをつくっているところなんだ。僕ら2人の音楽性は本当に凄いスピードで変わっていると思うね。

HRFQ : ということは、二人の音楽的な感性が本当によく合ってると感じているわけですね?

Kieran Hebden : そうだね。これまで一緒にやってきたミュージシャンの中で、一番自然な音楽的つながりがあるように感じるよ。実際、音楽について何か話し合う必要さえなくて、ただプレイをすればいいんだからね。自分がやりたいかたちや方向で、僕たちの音楽は変化や進化をしているんだ。僕がベースラインを演奏すると、Steve は夢のように凄いビートをその上にかぶせてくるといった感じでね。彼は今まで一緒にやってきた中でも最高のミュージシャンさ。仕事が凄い速くて、ライブもレコーディングも一発でオーケーだしね。僕と Steve はそういった感じでこれまで一緒に仕事をしてきたし、きっとこれからもそういった感じで続けていくのだと思うよ。

End of the interview

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