HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Tim Deluxe Interview

9月27日に自身のレーベル AT Records から発売されたニュー・アルバム "Ego Death" では、前作 "The Little Ginger Club Kid" をリリースした時点より何皮も剥けたクリエイターとしての成長ぶりと、イビザを始め世界中からオファーの耐えないギグをこなし栄華を極めながらも、あの Underwater から離れるなど、混沌としたここ数年の出来事を通し、しっかりと自分に向き合った結果生まれた世界観を披露してくれた Tim Deluxe。

ここ日本でも何万人というフォロアーを抱える彼が、そんな彼のアーティスト人生における新たなスタートとも言えるアルバムのリリースを前に、日本全国を横断するツアーを決行。忙しいスケジュールの合間を縫って当サイトのインタビューに応え、彼の心の内を明らかにしてくれた。また、今回 HigherFrequency では、アルバムの収録曲が試聴できるブースを設置している。興味のある人はこちらをチェックして欲しい。

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HigherFrequency (HRFQ) : まず、今日はありがとうございます。

Tim Deluxe : 問題ないよ。

HRFQ : ニュー・アルバムについてお伺いしていきたいと思います。近々リリースが予定されているそうですね。

Tim Deluxe :そう、9月なんだ。

HRFQ : アルバムの名前は “Ego Death” だそうですが、このタイトルに決められたのには何か特別な理由があったんでしょうか?

Tim Deluxe : このタイトルをつけたのは、ネットでこの言葉を見つけて、「何だろこれ?」と思ったからなんだ。それでその言葉についてリサーチし始めたら、自分の気持ちにピッタリだったからタイトルにすることにしたのさ。Ego Death ってかなり深い意味でもあるんだけど、ここ数年で起こったことや、自分の感情にぴったりはまる部分があったんだ。決して悲しかったり、陰気な意味じゃなくて、もっと自由や啓発的なことを表してるんだけどね。そういう感じかな。

この新しいアルバムをつくり始めた時、どこかで戦ってる自分がいたんだ。それはきっと自分のエゴな部分だったんだろうけど、ただグルーヴに任せて曲を書いても、後で「こんなんじゃダメだ。クズだ。これで売れるわけがない」って思ってしまってね。かなり間違った考え方をしてしまってたんだ。だからもう何も気にしないって決めたのさ。曲はそんな風につくるもんじゃないしね。

HRFQ : では、このタイトルはパーソナルな意味合いで付けられたということですか?それとも音楽的な意味も込められているんですか?

Tim Deluxe : 音楽的な意味もあるよ。簡単に言えば、以前より成熟したアルバムって感じかな。以前より楽しい感じはしないし…

HRFQ : もう“ジンジャー・キッド”ではないと?

Tim Deluxe : その通り。ジンジャー・キッドは成長したのさ。それが根本にある考えかな。メロディックではあるし、キャッチーな部分もたくさんあるけど、メロディーのタイプがちょっと違うんだ。以前よりディープな感じなのかもしれないね。

HRFQ : アルバムからのシングルとして ‘Espoo’s Rose’ をリリースされましたね。.

Tim Deluxe :ファースト・シングルというよりは、ちょっとした“ティーザー”かな。

HRFQ : そうですね。750枚限定でリリースされたそうですが、それについてお話していただけますか?

Tim Deluxe : これはアルバムのトラックで、シングルにはならないだろうなって思ってたんだ。だから仕掛けをしたってわけさ。結構クラブっぽい曲でもあったし、それにクラブでも前からプレイしてたんだけど、すごくリアクションが良かったから、何とかしてリリースしたかったんだ。だからちょうどアルバムの仕上げに入ってる時に、750枚限定のナンバリングしてあるシングル・レコードをプレスしようって決めて、リリースしたのさ。500枚はイギリスとその他のヨーロッパの国、それであと250枚は日本で売ったんだ。だからかなりの限定品というわけさ。

以前だったら僕のレコードなんてプレイしそうになかったアーティストがサポートしてくれてるのもすごく嬉しくてね。Laurant GarnierやSasha 、Nic Fanciulli といったいろんなタイプのDJ がプレイしてくれてるんだ。Laurent Garnier なんて、今まで一度たりとも僕のトラックをプレイしたことなかったんじゃないかな。そう考えるとクールだよね。

HRFQ : ‘Espoo’s Rose’ はかなりディープでテッキーですよね。‘I Don’t Care’ といったトラックもそうだと思います。こういった音が完成したのには、あなたがクラブで過ごす時間が多くなったことが関係しているのでしょうか?

Tim Deluxe : いいや、実は最近クラブで過ごす時間は逆に少なくなったんだ。アルバムを制作してる最中は、ギグも一ヶ月に2〜3個にカットしたし、アルバムにフォーカスするために全くギグを入れない月もあったよ。こういう雰囲気になったのは、レコード・ショッピングに行くことで、再びクラブ・ミュージックにインスパイアされたからじゃないかな。いろんなことに鈍感になってしまっていたから、しばらくレコードも買っていなかったんだけど、最近またショップに通うようになっていたんだ。多分ツアーをやりすぎたんだろうね。前のアルバムを出してから、いろんなことが起こり過ぎたんだ。仕事が一息ついてから、休みも取らずに次のアルバムに取り掛かったんだけど、全然ダメだったよ。感覚が鈍っていて、どのハウス・ミュージックも全部同じに聴こえてしまったんだ。だから休みを取るべきだと思って、またレコード・ショップに通うようになって、そこで自分の好きなレコードを見つけるようになってね。そこで気に入ったトラックのほとんどが尖った音をした、アンダーグラウンドなレコードだったというわけさ。

HRFQ : アルバムの他の曲についてはどうですか?以前のインタビューでは今度のアルバムは“バンドっぽい音”になると話されていましたが…

Tim Deluxe : 去年はそういう感じで音作りをしてたんだけど、結局ダメになっちゃってね。何でダメになったかと言うと、曲は何曲がつくって、音もいい感じだったんだ。でも、僕よりも作品が前に出てしまってね。結局どの曲もプレイすることが出来なかったんだ。せっかく曲をつくったのに、どの曲もプレイ出来なかったのさ。

でも、‘I Don’t Care’ と ‘U Got Tha Touch’ はそういったセッションの中から生まれたんだ。去年書いた曲の中で残ったのはこの2曲と ‘Blotter’ だけだったな。‘D.O.A.’ はギター・ベースだけど、“バンドっぽい”というよりかは、もっとエレクトロ寄りだしね。

HRFQ : では多少の変更があったわけですね。

Tim Deluxe : そうだね。ただ、いい勉強になったし、今回のアルバムにその経験が生かされてる部分もあるとは思うんだ。去年インタビューした時と同じ度合いではないけどね。

HRFQ : 最近は AT Records を通しての活動を中心に行われていますが、なぜ新たに自分のレーベルをスタートしようと思われたのですか?

Tim Deluxe : 新たなレーベル…そうだね。まず Underwater との関係がすこし変わったんだ。それに、契約上最後のアルバムのリリースも終わっていたしね。シングルのリリースもすべて済んでいたし、リリースに関しては、あのアルバムが契約上シメのような感じだったんだ。それに舞台裏の 経営者の3人 - Darren (Emerson)、 Amy、Gary の間にもいろいろあってね。自分で物事を始めるいい機会だと思ったのさ。

だからDarrenと話し合いの場を作って、自分の気持ちを話したんだ。彼は少しがっかりしてたけど、友達だし、最終的には僕が独り立ちしなきゃならないってことを理解してくれたよ。Darren とはものすごくいい関係が持てていたし、Underwater を離れたことを寂しく感じることもあるんだ。レーベルの人数も多かったしね。AT で働いてるのは僕と Andy の二人だけなんだ。だからすごく大変だし、コンスタントに作品をリリース出来ないしね。でも何とかやってるし、いい感じだよ。

Tim Deluxe Interview

HRFQ : 今後あなたの作品はすべて AT Records からリリースされる予定ですか?

Tim Deluxe : そうだね。ただ UK でリリースするアルバムに関しては他のところにヘルプを出すけど、12インチに関してはすべて AT からリリースするよ。すでに何作品かリリースが決まっているものもあるんだ。Double 99 (Tim と Omar Adimora によるプロジェクト)の ‘RIP Groove’ を再発するんだけど、それをEric Prydz がCirez D としてリミックスをしてくれていて、Talvin Singh の新しいトラックにCarl Cox のテッキーなリミックスが入った作品もリリースする予定。まぁそんな感じで少しずつリリースしていくよ。出来れば4〜6週間に一回は何かをリリースしたいんだけど、それには相当な時間と体力が必要で、今の自分にはとても無理なんだ。最近はアルバム制作にフォーカスしてたってのもあるしね。

HRFQ : ‘Rip Groove’ がリリースされたのは今から随分前でしたよね?

Tim Deluxe : 10年近く経つね。だから再リリースすることにしたのさ。

HRFQ : その当時の音と数年前の音は大きく異なっていますし、またその数年前の音も、現在のあなたのサウンド・スタイルとは異なっています。そういった変化で、もちろん新しいファンも増えたことと思いますが、同時に何人かのファンを失ったとも思われますか?

Tim Deluxe : そういうこともあっただろうね。間違いないよ。でも、そういうものじゃないのかな?一つのドアが閉まれば、また他のドアが開く。一番大事なのは自分がハッピーでいることであって、その他のことは全部後から自然についてくるんだ。自分がハッピーじゃなければ、すべてが違った方向に進んでしまって、本来なら自分の音楽に興味を持ってくれそうな人々をひきつけることが出来ないのさ。素のままの自分を表現するほうがいいし、そうすれば自分と同じ考えを持った人々やファンも注目してくれるようになるんだ。

HRFQ : すべての人を満足させることは出来ないですからね。

Tim Deluxe : 出来るわけないさ。‘It Just Won’t Do’ はある特定の人々には素晴しいレコードだったんだ。そういう人々には心底愛されて、死ぬほどプレイされた。でも、他のDJには単なるダサいレコードでしかなかったんだよね。結局そういうものなのさ。最終的に2種類の評価を受けることになる。同じ曲でもある人には“ダサい”、そしてある人には“最高”って言われるんだ。だからそれに慣れなくちゃならない。僕はもうあまりそういうことを気にしないようにしたんだ。ちょうど ‘It Just Won’t Do’ がリリースされた時は、コマーシャルだとかメインストリームだとかそういう扱いをされて批判されたけど、そんなの関係ない。勝手に過去でも何でも調べてくれよ。どうでもいいんだ。

スタイルを変えたりする時も同じだと思っていてね。特にダンス・ミュージックの世界には純正主義者が多いから、僕が’95年に在籍してた Cross Section Records のようなハウスのレーベルからリリースしていた人が、スピード・ガラージをやったり、ラテン・ヴォーカルの入ったレコードをリリースしたりってことが理解できないのさ。時々、自分の理解できないものを単に否定するところが人にはあるんだ。僕にしてみれば、それはただ異なったスタイルの音楽をプロデュースできるってことを表してるだけだと思うんだけどね。

HRFQ : 多くのファンがいる今は以前より楽曲作りも難しく感じますか?

Tim Deluxe : いいや、プロデュースするのは難しくないよ。今の方が知識があるし、作業のスピードも昔と比べると断然速いからね。

HRFQ : 楽曲作りについてはもう学ぶことはないと?

Tim Deluxe : いや、今でも学んではいるけど、昔と同じ調子ではないよね。実際はっきり言うのは難しいんだ。年月を重ねるごとに作業が簡単になっていくのはもちろんだけど、プレッシャーは必ずそこにあるんだ。でも何がプレッシャーなんだ?ってことだよね。誰がプレッシャーをかけてるのか?それは自分のエゴなんだ。本当は、ただスタジオに入って、自分の好きなことをやればいいのさ。だから最終的には僕もそうしたよ。スタジオに入って「もうどうにでもなれ!」って思ったんだ。音楽が以前よりディープだろうと、テッキーだろうと、気楽で楽しいものというより、少し落ち着いたものだからどうだって言うんだ?正直でいることが一番だと思ったのさ。

その時ちょうど Bob Dylan の本を読んでいてね。その中で彼が「大事なのは正直でいることだ」って言ってたんだ。もし本物のアーティストになりたいなら、それが多少骨の折れることであっても、自分の気持ちをストレートに表現しなきゃならない。すべては正直になって自分の気持ちをさらけ出すことだってね。人と話していても、その人がウソをついてるかどうかなんてすぐ分かっちゃうだろう?音楽だって同じだと思うんだ。曲を聴いていたとして、その曲にそういう正直さがないとしたら、他の曲と同じような魅力をその曲に感じることはないんじゃないかな。

HRFQ : 分かりました。今日はありがとうございました。

Tim Deluxe : 問題ないよ。ありがとう。

End of the interview

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