HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Inner Films 70's

70年代名画にフォーカスし、そのサントラを Ame、Prins Thomas、Maurice Fultonといった海外勢に加え、福富幸宏、Hideo Kobayashi、Tokyo Black Star、BRISA、FOOG、Shigeru Tanabu、Keigo Tanaka と気鋭から実力派まで幅広いアーティストがカバー。カバー全盛の今、数多くの作品がリリースされる中、明らかにそれらとは一線を画す本作。というのも、テック・ハウス〜ディスコ・ダブ等、世界的なダンス・ミュージックの最新潮流を見事に取り込み、"フロアでの機能性" をかつてないほどに高めているのだ。 他の追随を許さない、おそろしく硬派なこの「Inner films」。今回は Tokyo Black Star から熊野功雄、そして福富幸宏、Hideo Kobayashi と今作に参加した日本のダンス・シーンを支える豪華なアーティストに集まっていただき、気になるその中身について話を伺った。

Interview & Introduction : TS

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TS : この企画の発端は?

福富幸宏(以下 福富) : そもそも Tokyo Black Star の熊野さんありきなんですよ。

熊野功雄(以下 熊野) : 以前、別のレコード会社で "70’s" が付かないかたちでクラブ・リミックスをやったことがあって。それで今回は "70’s" をテーマにやってみようと。

TS : 70年代をフォーカスしたのは何か理由があるんですか?

熊野 : 最初はそこまでこだわっていなかったんですけど、調べてみると本当に良い映画ばかりだったんです。安っぽくなりすぎず、それでいてキャッチーな感じも出て。

TS : 福富さんと小林さんは最初この企画を聞いたとき、どんな印象を持ちました?

福富 : 単純に楽しめる仕事だなと思いましたね。プレッシャーを感じずに、好きに作るというか、こんなの出来たけどいいかな、ぐらいの感じで(笑)。

Hideo Kobayashi (以下 小林) : 確かに自由にやりましたし、みんなやってますよね。

福富 : 参加アーティストも、みんな奇をてらわずにクレイジーなことをする人ばかりだからね。

TS : 特にクレイジーだったのは誰でしょう?

熊野 : Maurice Fulton を聴いたときは、ひっくりかえりましたね。えーーって思いましたよ(笑)。

小林 : 僕も聴いていて最初にとまったのがこの曲でしたね。

TS : 『ジョーズ』のカバーですね。

熊野 : この曲は早い段階で出来上がってて。僕らが作る前にこんな曲がきちゃったもんだから、もう聴かなかったことにして作ろうってアレックスと話してて。最初に Prins Thomas の『ロッキー』があがってきて、そのあとにこの曲だったから、ちょっと面白すぎると思いましたね。

小林 : 僕は Ame の "Tubular Bells" がすごく好きですね。

熊野 : あれはドイツな感じがホントよく出てて、カッコイイですね。

福富 : "Tubular Bells" っていま彼らがやってる音と世界観がけっこうつながってるんだよね。組み合わせ的にもハマってる。でも、やっぱり一番のハマり具合は、Maurice Fulton × 『ジョーズ』かな。キャラクター的にも。Maurice のおかしさ加減と映画自体のおかしさ加減が。この映画も本来とんでも映画ですからね。

熊野 : Prins Thomas もまさかディスコ・ダブでくるとは思ってなかったんで、予想外でしたね。

福富 : 『ロッキー』や『スター・ウォーズ』って一時期ドラムンベースのチームがネタで使ってたり、いろいろバージョンがあったよね。

熊野 : そうですね、ディスコ・バージョンとかけっこうありますね。

TS : そういった別の作品があることに対しては何か意識されましたか?

福富 : あまり感じなかったですね。映画やサントラのイメージなど、アイデアの選択肢はたくさんあったので。

TS : 今回、福富さんは『ゴッドファーザー』のメインテーマを、小林さんは『マンハッタン』の主題歌でもあったジャズ/クラシックの名曲 "Rhapsody In Blue" をカバーされていますが、これらの曲を選んだ理由は?

福富 : 最初、熊野さんから映画のリストをいただいて、その中から選んだんですけど、本当は違う曲をオファーしてたんですよ(笑)。

熊野 : そうだったんですか! すみません。

福富 : いやいや、企画的に『ゴッドファーザー』はやりたい人がたくさんいるかなと思って。でも残っていたので、せっかくなので僕がやりますと。

小林 : 僕は、普通にクラブで使えるものを作ろうっていう前提があって、それを具現化できるものって感覚で選んでいたら、この曲が一番イメージが浮かんだんですよ。

TS : 個人的には、今作のなかで一番オリジナルが何なのかわからなかったのがこの曲なんですよ。一部ひっそりと面影があるだけだったので。

小林 : そうですね、言われなきゃわからないかもしれないですね。今回はオリジナルのリフを少し踏襲してるだけですから。オリジナルのラブ・ソングからかけ離れた、わかりやすくフロアとリンクした曲にしたかったので。細かい話になるんですけど、スネアの音が……。

熊野 : 細かすぎるから(笑)。

小林 : ですよね(笑)。とにかく、他の曲と比べて、混ざりたくなくて。差別化したかったんですよね。いわゆるテック・ハウスみたいな音なんだけど、スネアの音だけわかりやすく、生っぽい感じにしてみたり、他の曲とも、普段自分がやっているのとは違うアプローチをしてみたかったんです。

TS : ちなみに、みなさん制作にあたってもう一度映画を見直したりしたんですか?

小林 : 僕は知っていたので、本編を観なくてもだいたいわかりましたね。

熊野 : 僕らが担当した『地獄の黙示録』と『タクシー・ドライバー』は、ちょうど2年ぐらい前に観て、いいなと思っていたところだったんですよ。特に『タクシー・ドライバー』は僕のなかでもベスト5に入る映画で、アレックスも大好きだし。

福富 : 僕は観なかったですね。イメージだけで作りましたよ。

熊野 : 逆に、僕は福富さんの作品を聴いて『ゴッドファーザー』1〜3まで見直しましたけどね(笑)。

小林 : 福富さんの『ゴッドファーザー』は素晴らしいですよ。僕は、映画も好きなので手を出せなくて、さすが福富さんと思いましたね。

TS : 『ゴッドファーザー』は誰もが知っている曲だけに、難しい部分があったんじゃないですか?

福富 : そうですね。それもありましたけど、ただ最初からこれはオリジナルをそのまま活かした方がいいなと思って、曲自体はあまり壊さない方向、アレンジするような感覚で作っていったんですよ。もうちょっと原型をとどめなくてもいいかなと思ったんですけど、やっぱり曲が強くて残ってきましたね。

TS : ただ、曲の頭と終わりではだいぶイメージが異なる曲に仕上がっていますよね。

福富 : 驚きがあった方がいいかなと思って。意外なところから始まって、あれ『ゴッドファーザー』なんだって思いつつ、最後にまた『ゴッドファーザー』だったっけ?ていうような。

熊野 : 『ゴッドファーザー』のメロディをあれだけ上品に、洗練されたものにできるのはすごいですよ。僕の頭のなかには暴走族の轟音やトランス・バージョンとかしか浮かばなくて(笑)。

福富 : 本来、曲が良いんですよ。そういった扱いをされてしまっているだけで。

TS : さきほど小林さんも仰ってましたが、思い入れがありすぎて出来ないなんてこともやっぱりあるんですか?

熊野 : それはあるかもしれないですね。僕はスタンリー・キューブリックの作品は大好き過ぎて難しいかもしれない。

TS : スタンリー・キューブリック、『時計仕掛けのオレンジ』のテーマ“交響曲第九番”は、期待の気鋭アーティスト BRISAさんが担当されていますね。

熊野 : 映画ではボコーダーとシンセサイザーのバージョンだったじゃないですか。

福富 : ウォルター・カーロスのバージョンですよね。

熊野 : そうそう、それをどうするんだろうって思ってたんですけど、ストイックな素晴らしい作品を仕上げてくれて。

Inner Films 70's

TS : BRISAさんをはじめ、今回はその他にも Shigeru Tanabu さん、Keigo Tanaka さんといま今後期待の日本人若手アーティストも起用されていますね。

熊野 : みなさんさすがでしたね。実力がある人ばかりで。Tokyo Black Star が一番ヤバいんじゃないかって危機感を感じながら作ってました。

福富 : 僕は『地獄の黙示録』 "Ride Of The Valkyries" は良かったですよ。映画とのイメージはもちろん、アルバムの1曲目としてもすごくあってたし。今作の中でもわりと象徴的な曲だと思う。

TS : 今回、使用された映画は誰もが知っている名画ばかりですが、ちなみにみなさんどの映画がお好きですか?

熊野 : 僕は先ほども言いましたが、『時計仕掛けのオレンジ』と『タクシー・ドライバー』ですね。

TS : どちらもわりと危うい作品ですね(笑)。

熊野 : そうかも(笑)。でも、どちらもホント素晴らしいんですよ。美しい、まさに映像美、アートなんですよね。瞬間瞬間よろしくないものが映ることを許さない、それが何より素晴らしい。

小林 : そうだね。許せる、許せないを判断するその審美眼は確かにスゴいよね。

TS : それは音楽にも当てはまりそうですね。

熊野 : 一緒ですね。

小林 : 僕は『スター・ウォーズ』が好きで、ずっと観てましたね。最近いろいろとリマスタリングされて映像自体今っぽくなっちゃってますけど、僕は70年代のフィルムのときの感覚、あの修正が利かない、あのなんとも言えない世界観が好きなんですよ。

熊野 : そんなに違うんだ。

小林 : 違うんですよ。色や質感とか全部。小さいころに観ていたものとは全然。味わいがあるというか、その辺はアナログ・レコードとデジタルの違いにも通じるものがあるような気がしますけど。

TS : となると小林さんはアナログ派?

小林 : そんなこともないんですけどね(笑)。デジタルが多いですけど、もちろんアナログは好きですね。

福富:ちょうど最初観たときのタイミングもあると思うんですけど、僕も『時計仕掛けのオレンジ』ですね。高校生のときに初めて観て。

HF : 高校生が観るにはちょっと過激な映画ですよね。

福富 : そうですね、パンクですよ。当時、僕も世をすねていたというか、パンク/ニューウェーブを好んで聴いていたので、ハマりが良かったんですよね。

TS : やっぱり、いま見直すと違いますよね。

小林 : 『未知との遭遇』も好きなんですけど、あれは子供が観てもいまいちわからないですからね。ただ、いま観るとデザインが細部まで本当にカッコいいんですよ。熊野:大人になるとそういう楽しみ方があるよね。

小林 : そうそう、あとは監督のことを評価するようになったり。

福富 : あとは音楽。それでがっかりすることもけっこうあるし。

熊野 : そういう意味では、僕は『ロッキー』は最高だと思いますね。トレーニングのところとか、スゴく曲と映像があっているし、いつも頭に浮かんでくるんですよ。 小林 : それは『ロッキー1』?

熊野 : 『ロッキー』はやっぱり1でしょ。

小林 : そうですよね、だんだんコマーシャルになっていっちゃったし。

熊野 : そう、最初のロッキーは勝たないんですよね。そもそも最後まで戦うことの意味や愛を描いていた。でも回を重ねていくごとに『キン肉マン』や『北斗の拳』のような感じになっていってしまって。あとは、意外だったのが『ゴッドファーザー』。これも同じような感じなんですよ……、ってすみません。全然関係ないですね(笑)。

福富 : そういうことを聞くと見直そうかなって思いますよね。作ってるときには観なかったのに(笑)。

熊野 : でも、まだまだ良い映画はたくさんあって、今回惜しくも漏れてしまった作品がけっこうあるんですよ。

TS : となると、続編も?

熊野 : やりたいですね。70年代だけでも、もう2〜3枚作れるくらいあると思いますよ。

小林 : 僕は日本映画もやってみたいですね。

熊野 : 『ゴジラ』とかいいですね。そうなると、永遠にできますね(笑)。

小林 : 他にも、黒澤作品とか『トラック野郎』とか。

熊野 : 『トラック野郎』それってどんな曲?

小林 : “一番星ブルース”ですよ(笑)。

福富 : 懐かしいね(笑)。その中では、僕は『ゴジラ』やりたいね。もうなんとなくイメージが出来てきましたよ。あのテーマでミニマルな感じとか。

TS : 今作もありがちなカバー集ではなく、テック・ハウス〜ディスコ・ダブまで、最新の潮流が聴けるだけに、今後もぜひ期待したいですね。

熊野 : そうなんですよ、心配はしてなかったですけど、いわゆるチャラい感じの作品にはならなくて良かったし、ぜひ今後も続けていきたいですね。80年代、90年代の作品もあるし。

小林 : 僕は、このアルバムを家でも勉強だと思って聴いてますよ。この人のこの作品はどうしてこうなるのかなって一生懸命探りながら。それがすごく楽しいんですよね。みんな普段楽曲を作っている意識とは違う感覚で作ってると思うので、それぞれのエッセンスが出ていて本当に楽しい。

熊野 : そう言ってもらえると嬉しいですね。ぜひ若い人たちにも聴いて欲しいし、DJの方々にも実際使えるトラックばかりなので使って欲しい。あとは、映像とダンス・ミュージック、その世界観がより広がると思うので、まずは一度聴いてみてほしいですね。

TS : フロアライクな作品であり、アカデミックな作品でもありますからね。

熊野 : 作っている人たちも、みんな映像的な部分やストーリーがあって、聴きだすと細部まで気になると思うんですよ。

福富 : 最近のダンスミュージックってカルチュアルじゃない。快楽的なところはあるけれど、どこか孤立している感じがするので、こういった文化的なものと接点が持てることは本当にし素晴らしいことだと思いますね。

TS : 次回作も楽しみにしてます。

熊野 : ありがとうございます。次は、80年代。『フラッシュ・ダンス』とかいいですね。エレクトロな感じとか。80年代はいわゆるビルボード・ヒットと連動している部分もあって、よりエンターテインメント性が強いと思うんです。今作はわりと芸術的でしたけど、そんななかで今回のディープな人たちがどんな楽曲を作るのか、それもまた楽しみです。

福富 : 次は全員『ブレードランナー』とかでもいいですね。みんながそれぞれどんな曲を作るのかみてみたいし。

小林 : そうなるともう修行みたいな感じですね。それぞれどこまでできるんだっていう(笑)。

熊野 : いずれにせよ、一段落してまた考えます。そのときはみなさんよろしくお願いします。

End of the interview






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