HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

ニューヨークと東京を拠点として世界的に活躍するマルチメディア・アーティスト Alexander Gelman。MoMA やクーパー・ヒューイット国立デザイン博物館、パリのフランス国立博物館といった多くの美術館やプライベート・コレクションに作品を収蔵され、2001年には MoMA の 『あらゆる表現(メディア)において世界で最も影響力のあるアーティスト』 のリストに名を連ねた。また、イエール大学院、マサチューセッツ工科大学メディアラボなど、著名な大学での客員教授を務めている。

このような経歴を見ると、クラブ・カルチャーとはおよそ無縁のハイ・カルチャー志向のアーティストであるような印象を受けてしまうかもしれないが、Gelman がこれまでコラボレーションを行った中には、Apple社、Nike、UNIQLO、さらには Warp Record など、クオリティを保ちながらもストリート・カルチャーの先端に対して強く訴える企業の名も数多く並ぶ。さらには、2006年から東京で展開している一連のクラブイベントで、知らぬ間に彼の世界観に触れていた読者の方も多いのではないだろうか。

今回は、今週末 5月15日(土)のパーティー "GELMATICA" を控えた Alexander Gelman に、これまで中々表に現れてこなかった彼自身と音楽との関わりにフォーカスを絞ったインタビューをお送りする。

Interview : Mayuri Akama
Introduction : HigherFrequency

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-- あなたはビジュアルアーティスト、デザイナーとして知られていますが、音楽業界の中でもミステリアスな存在として位置しています。あなたの音楽的なバックグラウンドはどういったものだったか教えて下さい。

Gelman : 私が幼少の頃、私と姉は他の子供達と同様に両親にピアノを習わされました。ただそれは長く続かず、私は音楽学校から行儀の悪さや、成績の悪さで幾度か追い出されました。家庭教師の方が私には良かったようで、そちらは比較的続きましたが、結局最後はさじを投げられました。ただ私の母は、それでも私をクラシックコンサートやオペラへ連れて行きました。私もこれはエンジョイ出来、特にオルガンの Bach、Tchaikovsky のシンフォニー、ピアノの Schumann、Liszt や Grieg は大好きでした。

私の父はかなり本格的なジャズレコードコレクターで、父のかけるジャズが私の幼少の頃のサウンドトラックになっています。Louis Armstrong、Ella Fitzgerald、Duke Ellington、Glenn Miller、Count Basie、Thelonious Monk、 Charlie Parker、John Coltrane 等のクラシックやニューオリンズ系です。70年代中盤のジャズは転換期で、ロックや新しいシンセサウンドと融合した面白い時期でした。私はその頃から音楽的に目覚め、ラジオ、SF映画、TV番組等に時折使われていたスペーシーな音に興味を持ち始めました。それらは Didier Marouani、Kraftwerk、Pink Floyd、Jean Michelle Jarre、Brian Eno、Hot Butter、Georgio Moroder 等の音楽からサンプリングされたもので、情報が少ないながらも友人達とこれらのレコードやリール・トゥ・リールテープを手に入れる事に成功しました。この頃から音楽に対するマニアックな趣向が現れ始めました。

これらの音楽を探している間に、プログレロック、サイケデリックロック、フュージョンジャズ、ファンク、ヘビーメタル、パンク等にも出会い、それらの音楽にも傾倒していき、Genesis, Fripp and Eno experiments, Deodato, James Brown, Weather Report, Miles Davis, Chick Corea, Deep Purple, AC/DC や Sex Pistols 等を何度も繰り返し聴きました。 70年代は音楽的に非常に興味深い時代であったと思います。そしてディスコもありましたね!しかしその頃私はダンスミュージックに関してはあまり興味を持っていませんでした。

-- 80年代に入ってからDJを始めたのですね?

Gelman : はい。アートカレッジに入った年に初めてDJをしました。サークルに入らなくてはいけなくて、カレッジのオフィシャルDJのアシスタント枠が空いていたので申し込みました。そのオフィシャルDJは、しかしながら全くやる気がなく滅多に出て来なかったので、私が学校の大きなイベントの音楽周りの仕切りを1人でやる事になりました。丁度学校が真新しいDJ機材を買ったところで、ターンテーブル2台、リール・トゥ・リールテーププレイヤー2台、14チャンネルEQ2台、ミキサー、スピーカー、ストロボと照明器機です。

他の新入生の手伝いもあり、イベントは大成功、私も非常に楽しみ、私は一日で有名人になりました。しかし、やってみて私の音楽コレクションはダンスフロア向けでない事にも気付き、今度はもっとダンス寄りの音楽を探し始めました。80年代初期は、コマーシャルなユーロポップが大量にありましたが、それらはレコードでは中々見つからず、私はそれらをビッグリールやカセットテープで用意しました。この頃の事は霧かかったような思い出の中にあります。私は学校のサウンドルームへの鍵を持たされていましたが、ここが素晴らしい部屋だったので、ここでクラスをサボったり、女の子や男友達を連れ込んで自慢していました。 しかし、級が進むにつれ、勉強も真面目にするようになり、卒業もしないといけませんでしたので、音楽の事は一旦忘れて勉学に勤しみました。

-- では音楽にまた関わり始めたのはいつですか?

Gelman : 90年代初期に、レイブに行き始めました。同時期、NYではアンビエントラウンジも流行しており、大きなスクリーンにアブストラクトな映像や実験的な映画を投影していました。私もまたデジタルな音楽をプレイし始め、クラブやギャラリーで実験的なイベントを始めました。

ソーホーにある VOID で OBSCURE OBJECTS というレギュラーイベントを始め、そこで様々なミュージシャンやアーティストとコレボレーションを行いました。ファッションショー、パーティー、TVコマーシャル、ギャラリーインスタレーションを行い、ビデオの編集、CGアニメの制作等に関わっていきました。私の音楽とデザインに対する情熱が融合して、クリエイティブ面でも非常に多忙な時代でした。Deee-Lite のスーパーDJ Dmitri、ドラムンベースDJ Carlos Soul Slinger (Jungle Sky)、Warp Records の PLAID 等とコレボレーションをしました。他にも無名のDj、ギタリスト、ドラマー、シンガー、ダンサー等、多くのアーティストと共演しました。

90年代中盤のある日、隣に住んでいた友人のパブリシスト、Michelle が彼女のクライアントである Richie Hawtin を連れて来た事があります。彼は私に Plastikman のプロモCDを渡し、Michelle は私と Richie はミニマルという部分で共鳴しているので一緒にコラボレーションするべきだと提案してくれました。CDは素晴らしかったのですが、その頃私は音楽にまた興味を失い始めた頃で、コラボレーションは実現しませんでした。 その時の私は、こういったミニマルミュージックがその後世界を席巻するとは夢にも思っていませんでした。しかしそれは当時私がビジュアル的に展開し始めていたものでもありました。

-- 新しい GELMATICA のローンチはフル装備で臨まれているようですね?

Gelman : そうですね、4年程前に私はリタイアを決め込み暫くアジア、特に日本で過ごしたいと思い、東京にもスタジオを作りました。ここで時間的な余裕も出来、楽しみもあってまたDJを再開しました。最初に Minimal Tokyo というイベントを友人と立ち上げましたが、長くは続きませんでした。2006年のトレンドであったミニマルテクノにフォーカスした外人客の多いパーティでした。その後、よりオープンで実験的な Gelman Lounge と Gelman Pop Lounge を始め、現在はより良いフォーマット、ラインナップ、オーガニゼーションで GELMATICA をやっています。フェスティバル的な雰囲気の中で、DJ、プロデューサー、ビジュアルアーティストを一同に介して開催しています。

東京はこのようなイベントの開催には最適な場所だと思います。日本の若者は音楽に対する知識が深く、色々なジャンルの音楽に対して積極的に取り入れようとします。彼等のクリエイティブな可能性は無限に感じます。

-- 先ほどインタビューの前にお話した時に言われていましたが、東京は世界のトップDJやプロデューサーが常にクラブでプレイしていて、クオリティの高いイベントが非常に多いという事ですが、その中で GELMATICA の差別化はどのようにしていますか?

Gelman : 多くのプロモーターは集客の為に有名アーティストを招かざるを得ませんが、私の場合ラインナップを決めるのに人気の度合いで決めていません。経済的な部分から安全で結果の見え易い方法に頼ってしまうのは仕方ない事ですが、GELMATICA で招聘するアーティストは、ユニークでクリエイティブ、自分のDJランキングを気にせずに自分のジャンルの枠を越えようとしている人達です。経済的な部分は気にせずに採算度外視で自分のやりたいようにやっています。

他にも GELMATICA には、メディアアート、デザインコンポーネントといった、通常のクラビングでは見かけない部分もあり、他のハードコアなテクノイベントと比べ、クラブに行き慣れない人達でも抵抗なく参加出来る雰囲気です。もう一つ GELMATICA を他から際立たせているエレメントとしては、同時期にギャラリー、カフェ、小さなクラブ等で開催する、エキシビジョン、レセプションパーティ等の他のイベントと連動している部分です。

-- 楽しそうですね!あなたはゲストアーティスト達の名声やセレブリティに頼る事なく、ご自身の名声と経歴を重視されているので、ご自身のプロジェクトには Gelman というご自分のお名前から派生したネーミングをされているのですね?

Gelman : はい、自分の名前を使うという事は成功するにも失敗するにも、プロジェクト内で決定する事柄や結果に対して全面的な責任を持つという事です。自分の作品にサインをするようなもので、自我が強いとは思いません。正直で勇敢な部分を求められ、謙遜は存在し得ません。世間にはモニターに隠れた顔の見えない企業やプロダクトが多過ぎます。私は常に、自分の意見を自分の意見として発言し、自分の行動と結果に責任を持つ人物と関わる方を好みます。その意見が私のものと違っていたとしても、です。

-- 今週土曜日の GELMATICA が楽しみです。どういったハイライトやサプライズが用意されているのでしょう?

Gelman : 私個人は、LUSINE のライブを非常に楽しみにしています。私は彼が00年代初頭にデビューした時から作品を追っていて、彼は彼自身のキャリアの中で今とても良い時期に来ていると私は思っています。コンテンポラリー・エレクトロニック・ミュージックの中のベストアーティストの1人として成長を遂げたと言えましょう。しかし、彼の音楽がメロウだという事もあるのか、それほど世に知られてはいません。彼は通常はイベントの早い時間にラウンジ等でメロウなセットをプレイしますが、今回は遅い時間ですので私自身もどういう感じになるのか想像がつきません。どんなサプライズになるか分かりませんが、素晴らしい事は間違いないと思います!

もう1人のゲストアーティストは RAYNOLD で、ベルリン在住のテクノ、ハウスのベテランプロデューサー/DJです。彼も私の大好きなアーティストの1人です。彼のメロウでジャジーなサウンドが大好きで、彼とLUSINE の音楽はベストマッチだと自負しています。

もう1人のサプライズは、MITSUTO SUZUKI。彼は多分このラインナップの中でトップのプロのデジタルミュージックコンポーザーです。彼はDJではなく、スクウェア・エニックスの社員で、コンピューターやビデオゲームの音楽制作を生業としている方ですが、2枚のフルアルバムをリリースしており、ポピュラーなゲームミュージックを幾つも手掛けています。JIN HIYAMA と Joseph Nothing も同じようにユニークでエネルギッシュなアーティストで、2人ともそれぞれ、Kaikai Kiki の Aya Takano、Takcom AKA Takafumi Tsuchiya という専属のビジュアルアーティストを連れて来ます。Takcom は JIN HIYAMA の絵を使った映像を出すようです。 私も土曜日が楽しみです! それと、SALOON では PARY OF PARTIES という東京の人気パーティからDJを1人づつ選出して回してもらっています。 皆さん、是非遊びに来てください。

End of the interview




GELMATICA
DATE : 5月15日(土)
VENUE : UNIT
COST : Y3,500_ W/F : Y3,000

LINE UP :
LIVE :
LUSINE (GHOSTLY INTERNATIONAL)
Joseph Nothing X Aya Takano
JIN HIYAMA (BLANK RECORDS)
MITSUTO SUZUKI (SQUARE ENIX MUSIC)

DJ :
RAYNOLD (TRENTON)
GLMN


[SALOON] - PARY OF PARTIES -
LIVE : Ditch (op)

DJ :
Alex Einz (Phonika)
Aosawa (Red Box)
Pige (Organza)
Raha (Ooooze)
Salmon (WC)
Tez (Raft)

VISUAL ARTISTS :
Aya Takano (Kaikai Kiki), Tokyo
Jin Hiyama (Asian Dynasty), Tokyo
Masato Tsutsui (adsr.jp), Tokyo
Tekcom, AKA Takafumi Tsuchiya


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