HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

昨年の Metamorphose では The Critical Mass として、盟友 Henrik Schwarz、Ame の2人と共にライブまで披露した Dixon。確かなクオリティで信頼されるレーベル・INNERVISIONS を主催する一人であり、プロデューサーとしても活躍する姿は、あらゆる種類のハウスをベースとした広範なDJプレイを長く続けてきた下地から生まれたものであり、もちろんそのプレイで紡がれる世界観も非常に評価の高い才人といえるだろう。

来週に来日ギグを控える中、今回はオンラインレコードストア Juno の情報サイト Juno Plus とのインタビューを公開。昨年リリースされた2つのミックスについての話や、The Critical Mass の背景、INNERVISIONS のレーベル運営についてなど、細部に踏みいったインタビューをお届けする。

Interview : Aaron Coultate (Juno Plus)
Translation : Shogo Yuzen
Introduction : Yuki Murai (HigherFrequency)

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Dixon こと Steffen Berkhahn は新たなチャレンジを好む。これまでの12ヶ月間では冒険的要素の高いショーや、2枚の全く異なるスタイルのコンピレーション、そして、最近では長年の友人である Henrik Schwarz と Ame と共に映画のサウンドトラックを発表した。しかし、昨年10月にリリースされた彼のミックス ”Temporary Secretary” は、その全てを凌駕する作品に仕上がっている。ミックスに収録されている曲の殆どに手直しや再構築が施されており、全てが作品の方向性にマッチしたものに仕上げられているのだ。現在衰退しつつあるコマーシャルな MIX CD というものに、この作品は再度、命を吹き込んだと言えるだろう。彼は Juno Plus とのインタビューで、最近のプロジェクト、新たな趣味であるチェス、そして、彼がディープ・ハウスの復活に対し何故嫌気が差している理由を語ってくれた。

-- 2009年には “Grandfather Paradox” と “Temporary Secretary” の2枚のミックスがリリースされて、どちらも好評だったよね。内容的に言えば、この二枚は両極にあると言える位違ってると思うんだけど?

Dixon : “Temporary Secretary”は、今現在、その瞬間に僕が何を感じていたかっていう作品だね。自分の知性や知識をひけらかすために作ったようなものではないんだ。だけど、”Grandfather Paradox” は多分、それとは逆だね。これは知識をひけらかした一枚だよ(笑)。これはシリーズ化されて、第二弾が来年にリリースされる予定なんだ。第二弾は過去1世紀の間に音楽で使われた人間の声っていうのがテーマになると思う。声の入った音楽をたくさん集めて、それを一つに纏め上げるんだ。“Temporary Secretary” もシリーズものの第一弾で、2枚目はAme が担当する予定だよ。

-- この二枚は合わさっていいバランスを生み出してると思う?

Dixon : 両方やるのはいいと思うよ。そうすることで、他人と同じ道を歩くことを避けられるからね。僕は少しだけ人と違うことをするのが好きなんだ。それで、最終的には自分の好きな音楽に戻ってくればいいと思ってるからさ。



-- “Temporary Secretary” では多くの曲を雰囲気やフローに合わせるためにエディットしてたね。これはひとつの作品としてのミックスが生き残っていく上で必要不可欠だと思う?

Dixon : 絶対にね。大きなフェスティバルかクラブが絡んでない限り、それ以外の手段は思いつかないよ。このMixを作るのに2週間丸まるスタジオにこもったんだけど、14曲中10曲はパーツを加えて、他の4曲は原曲をいじっただけなんだ。例えば、Fever Rayの ”If I Had A Heart” は、原曲が手を加える余地を沢山残してくれていたから、パーツを加える必要がなかったんだ。“Temporary Secretary” は10月にリリースされたけど、実際に制作に取り掛かったのは3月で、納品したのが5月。だから、この作品がリリースされる時にはすっかり古くなってるのがわかったんだよ。DJ達はみんな新曲のミックスを毎週のように配信してるしね。だから、みんなに買ってもらう理由が必要だった。今はもう音楽やミックスをオンラインで無料ダウンロードするのが当たり前になってる。そういうものから一線を置いた、ユニークな作品にしたかったんだ。

-- 今回のミックスは君のDJプレイを反映してる?それとももっと家で聞くようなタイプのものを意識した?

Dixon : このミックスは、僕がクラブでプレイしているのとは違うものだね。僕がアーティストとして、もしくはレーベルオーナーとして作品をリリースする時は、その作品の用途を考えるんだ。もしそれが12インチのレコードなら、クラブに適したものじゃないといけない。だけど、CDは家やヘッドフォンで、日曜の午後に聞けるようなものじゃないといけない。だから僕はクラブ向けのものをCDではリリースしないんだよ。僕は週のうち2,3日はDJをしているし、スタジオにも何度か入る。仕事場では Innervisions 用の音楽を聴いてるから、ハウス・ミュージックは僕の回りに十分にあるんだよ(笑)。だから、何か違うものを聴くって大事なことだと思うんだ。

-- 今でも最初にDJを始めたころと同じようなスリルを感じる?

Dixon : 同じじゃないね。全く違うと思う。1991年にDJを始めた頃は常に、初めての経験から生まれるスリルがあったんだ。初めてのクラブでのプレイ、初めて地元以外の場所でプレイした時、初めての海外、フェスティバル…色んな 「初めて」 があったけど、今はそれをやりつくしてしまったし、そこから生まれるスリルっていうのはなくなってしまったね。だけど、今は全く違うスリルを感じてるよ。もし勇気があれば、他のDJがピークタイムには絶対プレイしないような曲をプレイできることに気が付いたんだ。このリスクを背負うスリルを結構感じてるね。

-- Henrik と Ame との The Critical Mass はどうやって実現したの?

Dixon : あれは2009年度のコラボレーションだったから、一応もう終了してるよ。あのコラボレーションには特にこれといった定義なんてなかったんだけど、自分一人では出来ないことをみんなでやってたって感じかな。グループだからこそ生まれる動力があるんだ。みんながお互いを高め合うからね。だけど、よくこういうコラボレーションについて、 「私はあのアーティストもこのアーティストも好きだから、彼らが一緒に何かやるなら絶対良いに決まってる。」 っていう風に考える人はいるよね?でもそれは必ずしもそうじゃないんだ。ただ違いが生まれるってだけなんだよ。

-- The Critical Mass のショーに対しては良い反応が返ってきた?

Dixon : イエスとノーの両方だね。僕達のやってたことは即興的要素も大きくて、すごくクラブ向けだったんだ。だから600人のオーディエンスに対してはうまくいったんだよ。クラブではみんな我慢強いからね。でも大きなフェスティバルに参加すると違ったね。自分がパフォーマンスしてるステージ以外にも同時進行で6つぐらい他のステージでプレイしてるDJがいる。そして、そこにいる人間は600人なんかじゃなく、6000人とかなんだ。だから、自分の好みじゃないものは見ずに他に行っちゃうんだ。待たずに他のステージに行っちゃうんだよ。初めて The Critical Mass としてプレイしたフェスティバルは Detroit electronic music conference だったんだけど、その時にもっと音が大きくかつ正確じゃないといけない事に気づいた。ショーの結果に全く満足できなくて、結局、全部をプログラムし直したんだ。それからは、フェスティバルでのショーもかなり良くなったよ。

-- 今はどんなことをしてるの?

Dixon : Henrik と Ame と一緒に曲の制作をやってるね。丁度、面白い映画のサウンドトラックが出来上がったところなんだ。5日間で仕上げて、「いいね。よし、クラブ・ミュージック作りに戻ろう」って感じだった(笑)。この映画のプロジェクトはマンハイムの Time Warp Festival がスポンサーなんだ。この Time Warp っていうのは一週間続く大きいレイヴで、カルチャー・イベントでもある。僕達は "The Chambers of Cagliari" (『カリガリ博士』) っていう、1920年に作られたドイツ映画のサウンドトラックをライブでプレイするんだ。この映画は世界初のホラー・ムービーで、ものすごくアーティスティックな表現が使われてる。このプロジェクトのツアーもあるよ。4、5個のショーのスケジュールが既に決まってる。今回は、1920年代を表現するっていうのがテーマなんだ。当時、サイレント映画を上映してる時は誰かが映画館でピアノを演奏してたでしょ?それのピアノを使わないバージョンって感じだね!



-- ディープ・ハウスを何年にも渡ってプレイしている人間として、過去18ヶ月のディープ・ハウスの大量リリースや、それをメディアが過剰に取り上げていることについてはどう思ってる?

Dixon : 正直うんざりだね。1991年に僕がDJを始めた頃は、ハウス・ミュージックにも色んなものがあったんだ。バリエーションが無いとだめだと思う。ディープ・ハウスばっかりが溢れかえってしまったら、もう聴く気が失せちゃうよ。2月の Innvervisions での新しいリリースにはきっと驚くと思うよ?全く違う方向に行ってるからね。

-- 毎年この時期には Secret Weapons のコンピレーション・シリーズをリリースしてるけど、今年もリリースする?

Dixon : そうだね。それが次の Innvervisions のリリースになるよ。内容はすごくクールなものになる。Kashmir やLarry Heard、そして、まだ言えないけど、他にもアーティスト何人かのトラックを収録する契約をしたんだ。全部を明かしちゃったら驚きが無いから、そのアーティストが誰かは秘密にしておくよ!

-- Innervisionsでは所属しているアーティストの内4人がレーベルを運営してるんでしょ?

Dixon : 実は今は3人なんだ。僕と Ame の2人だね。前に一緒に仕事していた Matthias は音楽以外の仕事をするために抜けたんだ。

-- レーベルからリリースする曲を決める時のプロセスはどういう感じなの?全員がそれを気に入らなきゃリリースしないのかな?意見が割れたトラックとかってあった?

Dixon : 何年間かは僕がA&Rをやってたんだ。今は僕と Ame の Kristian の二人に決定権があって、僕達二人が同意すればリリースが進行するんだ。1年に6,7作品しかレーベルからはリリースしないから、それぞれのリリースについてしっかり考える時間がある。曲を聴いて、契約して、その一週間後にはリリースするようなレーベルもあるよね。でも数ヶ月たって、聞き飽きた頃に「もうこれ別に好きじゃないや」って言い出す。そういうのは好きじゃないんだ。あと、予定以外のレコードは1年間で1作か2作ぐらいしかリリースしないから、実は契約のプロセスはあんまり存在しないんだよ。もし新しいアーティストを毎年リリースしてたら、色々な議論をしなくてはいけないのは想像できるよね。何故このトラックで、何故このプロデューサーで、何故今なのか…とかね。去年はその新しいアーティストが Culoe (De Song) だった。だからすごく大切にするようにしてるよ。

-- Tobia Rapp がベルリンのテクノシーンについて書いた本の出版にも関わってるよね?なんであの本を流通させようと思ったの?

Dixon : あの本は特別なケースだったね。あの本を読んだ時にベルリンの音楽シーンについて語られたものの中で一番良いと思って、翻訳することにした。本の出版はすごく楽しかったよ。Innervisions から12インチのレコードをリリースするのとは全然ワケが違ったからね。来年はDVDを出そうかと思ってるけど、まだその話をするには時期が早すぎるね。

-- 少し本について聞かせてもらうね。あの本は良い反応を得てたみたいだけど、こんな風にシーンをベルリンの歴史の一部として書籍化することは大事だったと思う?

Dixon : もちろん。ベルリンが街として築き上げてきた歴史自体にもすごいものはあるよ。もちろん壁の崩壊然りね。でも過去6、7年でベルリンで起こったことも同じ位すごいことなんだ。ベルリンはそのボーダーを広げて、人々に影響を与えるような街になった。 今ロンドンに行けば、丁度3年前ぐらいのベルリンみたいに感じるよ。別にこの本は 「これが地球上で一番良い音楽だ」 っていう話をしているわけでもないし、音楽についての話も最後の方まで全然出てこないんだ。社会的背景、クラブや街の成り立ち、そして、人々についてがメインなんだ。

-- Dixon にとって2010年はどんな年になると思う?

Dixon : プライベートとビジネスを良いバランスで保ちたいね。今までみたいにがむしゃらに働くわけじゃなく、リラックスする勇気を持とうと思ってる。他には、アートにも関わって、自分の知識を広げようとしてるんだ。何年も音楽の知識だけを積み上げてきたから、他のものからインスパイアされるのは良いことだね。後は、チェスで遊ぶ時間を作ってる。

-- Henrikと?

Dixon : いや、Marcus Worgull とだよ。彼は本当に良いチェス・プレイヤーなんだ!

End of the interview





【Dixon Japan Tour Info】

2010/1/29 (Fri) ELECTRIC CIRCUS @ Precious Hall, Sapporo

2010/1/30 (Sat) INNERVISIONS presents The Grandfather Paradox @ AIR, Tokyo





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