HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Clark

2001年Warpからリリースされたデビューアルバム "Body Riddle" でシーンに衝撃を与えて以来、続けて2008年制作の "Turning Dragon" もスマッシュヒットを記録し、エレクトロ / アブストラクト界の奇才としての立ち位置をすっかり自分のものとしたClark。ポスト Aphex Twin とも称される、変幻自在・先読み不可能にして底辺に確かに流れる一種のキャッチーさすら感じる万華鏡のようなサウンドは、間違いなく Warp の本潮流を確実に継承していると言えるだろう。

4月の来日で Hudson Mohawke, Tim Exile らレーベルの期待のホープ達と共に繰り広げられたショーケースからわずか半年強、electraglide presents Warp20 (Tokyo) で再び日本へ帰還することとなった彼の貴重なインタビューをお伝えする。こちらは本年6月にリリースされた最新アルバム "Totems Flare" に伴うインタビューだが、ときにシーンへの皮肉やどぎついジョークも入り混じる回答から、奇才の素顔を感じ取ってほしい。

Interview provided by Warp
Introduction : Yuki Murai (HigherFrequency)
Translation : Shogo Yuzen

triangle

-- 一作目のアルバム "Body Riddle", セカンドの "Turning Dragon" と来て、今回の "Totems Flare" で3部作が完成するそうですが、この3枚のアルバムはそれぞれが全く違う仕上がりになってますね。この3部作という構想は、それぞれのアルバムの中でどんな風に表現されているんですか?

Clark : これは三部作だって思いついたのは "Totems Flare" が仕上がってからだった。"Totems Flare" のいくつかのリフやアイデアは "Body Riddle" を作り始めた頃からあったんだけど、バッチリハマる要素やひらめきが無かったから、どう着地させればいいのかわからなかったんだ。 だけど、"Turning Dragon" を作り終えたときに気持ちの準備が出来た。そして、それを実現させるための新たなエネルギーを発見したんだよ。あのアルバムは制作に時間もかかったし、他の2作にも大きな影響を与えてる。だから3部作だって考えるのが自然だと思うんだ。 ずっと頭に残るような曲のフックやメロディーを、リリースしないで何年間も自分の中に留めておくのが好きなんだ。作品に重みが増すからね。いい曲は手放したくない。曲を手放すまでに、曲と過ごす時間がたくさん必要なんだ。だから、曲を手放してリリースする時は自分の子供を養子に送るみたいな気分なんだ。その子を見たり、話を聞いたりなんて、ちょっと気がすすまないだろ?

-- "Turning Dragon" はミニマルなフィーリングを持ったテクノ・アルバムでしたが、"Totems Flare" には色々な音の要素が入ってますね。何故このように変化したんですか?

Clark : ごめん、その意見には同意できないな。"Turning Dragon" はミニマル・テクノとはぜんぜん違うと思うよ!それってジョークかい?でも、どちらかと言うと僕は "Totems Flare" が好きかな。ハードなんだけどすごく繊細な作品になってると思うんだ。

"Totems Flare" と "Turning Dragon" はいい感じにぶつかり合ってるんだ。 "Totems Flare" が "Turning Dragon" を柱に縛り付けて、自分を負かそうとした "Turning Dragon" をムチで打とうとしてる。もしくは、繊細に耳元で囁いて "Turning Dragon" を眠らせようとしてるっていう感じかな…そうすれば自分が注目を独り占め出来るからね。
このアルバム("Totems Flare")はもう何度も何度も聴いてるよ。いつもなら、制作が終わるまでは自分のアルバムを繰り返し聞くんだけど、終わった途端に聴きたくなくなるんだ。だけど、このアルバムはもうすでに何ヶ月も聞き続けてる。止められないんだよ。しばらく新しい曲を作ってないのもきっとこのせいなんだ。こんなことって僕にとってすごく珍しいんだよ。音楽作りを休んでることなんて過去10年ぐらい無かったからね。

休みを取って、普通の人に戻るのもいいもんだよ。外に出て、トースターを買って、マーマイト(イギリスの酵母ペースト)を探したりするんだ。後は、何時間もかけて最高のロースト・ポテトの調理法を考えたりね。そして、心の中に、水溜りのさざなみみたいな感じじゃなくて、迫り来るような波を起こすために、たくさん緑茶やコーヒーを飲む。それから、うまく言葉にはできないんだけど、何か思いついてはそれにワクワクしたりするんだ。あとは、家を出たところにすぐカフェがあるから、そこに友達と入って、日差しや木の陰を眺めたりもするよ。でも実際問題、『休む』 って難しいよね…。
それって普通なこと?多分そうだよね。だけどもう結構飽きてきちゃったんだ。後、数日もすればおかしくなりそうな位暇になるんだろうな。音楽を作ることが僕にとっては休暇だし、それがなかったら何もできないただの廃人になっちゃうよ。

ほら、僕にインタビューするとこんな内容になるんだよ。聞くに堪えない独り言に、道化師の心の内側。だけど、君達が聞かせてって言ったんだから仕方ないよね?(笑)

"Totems Flare" は他の作品に比べてポップな傾向があると思う。でも無意識だったんだよ。あんまりマーケットの要求に過剰に応えるのは好きじゃないからね。例えば 「10曲シングルが欲しいんだ。全曲、歌ものっぽい感じで、スーパーとかでかかっててもいけるようなの頼むよ。」 みたいに、アーティストに要求するレーベルがあるのも想像できるよ。業界に染まった可哀想なアーティストは 「OK、いいね。30歳で引退できるなら何でもお望みどおりやるよ。」 なんて答えちゃうんだろうね。だけど Warp はそんなことをアーティストに言うようなレーベルじゃないんだ。そんなことしたら曲の面白い突出が全部なくなって、ただなめらかなだけになっちゃうからね。そんなことをするぐらいならスーパーの自社ブランドのシャンプーのロゴでもデザインしてた方がいいんじゃないの?
でも 'Voodoo' や 'Talis'、それと 'Garden' はいい例だけど、何かの偶然で、ポップな要素がずる賢い子猫みたいに突然自分のひざの上に乗ってくることがある。撫でて欲しそうに喉を鳴らしてね。僕は絶対それを無視したりできないんだよ!

-- "Totems Flare" には様々な雰囲気が表現されてますよね。その上、場合によっては一曲の中で雰囲気が変化したり。時にはポップに傾くこともあれば、ジャズ、ヒップホップにまで角度を変える…あれは意図的にやったものなんですか?

Clark : 自分に影響を与える音楽を選ぶなんて、天気をコントロールしようとしてるようなものだし、それを説明するなんて、夢の中で見てほとんど覚えてない人の物まねをしようとするのと一緒だよ。幻を追いかけてるみたいなもんさ。特に現代のメディア氾濫の中ではね。すぐに Youtube で何かを見られるし、何かに浸ったと思ったらすぐにまた別のものに乗り換えられる…それは慌しい生き方だけど、同時にすごく怠け者で簡単なことばかりをしている生き方なんだ。すぐには目に触れたりしないような影響を自分の中に取り込むことが難しくなってる時代だと思う。僕は昔の音楽を聴くのが好きだけどね。ジャズやフリーキーでアバンギャルドな音楽を聴くのが好きだね。そして、いつも目を離せない Converge の素晴らしい音楽ももちろん好きだよ。このくらいのレベルのものを常にリサーチして、自分の中に取り入れるっていうのは結構大変な作業だよ。あとは、Time Travel の音楽も必要不可欠だね。

Clark

-- 今あなたはベルリンに住んでいますが、それがあなたの音楽やインスピレーションに与える影響はありますか?

Clark : どうなんだろうね?ここはコーヒーは美味しいけど、ソーセージはあんまり熱々じゃないよ。そして、
"Bio(有機食品)" はまやかしさ。だからここ3年はハルミ・チーズのケバブと、ニンジンジュースばっかりだな。この食生活は僕の音楽の作り方に大きく影響を及ぼしてるよ。ハルミを食べればサスペンション・コードの可能性がわかるし、ハイ・ハットの低音部分がわかるようになるんだ。そして、すごく気分が落ち着くんだ。イビサのゲイ・バーでオナニーの見せ合いをしてるみたいにね。 そして、ソーセージを食べるとメジャー・キーでアップ・ビートなものばかり作りたくなる。アップ・ビートになりすぎることもあるよ。トランスに近い幸福感っていうのかな…

…まあ、ちょっと冗談が過ぎちゃったけど、要するに、僕が今イギリスとの境目に住んでたって、作る音楽は何一つ変わらないだろうってことだよ。

-- Warp は非常に折衷主義なレーベルですが、あなたはその中でも特別な位置にいるように感じます。IDMでもなければ、テクノでもなく、ポップでもなければヒップホップでもない。この立ち居地は心地いいですか?

Clark : 心地良いよ。ただ、他の人達は困惑してるみたいだけどね。みんなが作りたがるような、平均点を超えてるだけのジャンルの音楽は作りたくなかったんだ。だから僕はまだ誰もが発見していない隙間にいることを選んだんだ。僕にとってはその方が満足できるからね。ジャンルの枠から一歩もはみ出ないことをやれば、短期間で成功できるし、MySpace にも良いプロフィールを載せられるようにはなるよ。だけど、僕はそれじゃ満足できないんだ。シーンで認められることなんかをモチベーションにして音楽を作ってたら、化けの皮がはがれた時にみんなに飽きられるだけなんだよ。その時そこにあるのは、たくさんの人たちが日々変わり続けるルールに併せて音楽を作って、ちょっと違うことをすると「ユニーク」だと評価されるような世界だ。

例を挙げると、「違うんだよ。アイツは自分のサウンドを持ってるんだよ。だって、32小節に一回ズレてるハイハットを直さないんだぜ?」 みたいな感じだよ。このクソみたいなシーンは間違いなくいい笑いを提供してるけどね(笑)。ただ僕が言いたいのは、このルールを徹底的に壊さなきゃ、結局一人ひとりが創り出すものを制限してしまうだけだと思うんだよ。ちょっとの間、そのルールに飽きるまで"おしゃべり"してみたりはするよ?だけど、そこからは全然違う角度に飛んでいくんだ。新しい道を探してね。そして、僕は【全部のルールを知っている】んだ。

-- あなたは大量にリリースするタイプのアーティストではありませんが、既に新しい曲が沢山出来上がっているようですし、すごくクリエイティブですよね。今回の "Totems Flare" のトラックリストはどうやって決めたんですか?

Clark : ものすごく時間がかかったよ!トラックの順番は考えられる限りパターンを組みあせて何度も何度も聴いたんだ。だけど、今は完璧だね。きっと何度聴いても耐え抜けるだけの力を持ってると思う。完全にバランスがとられた作品なんだ。曲間の空きも、ミリ秒までこだわったよ。でも、恥ずかしいことに僕もMP3に魂を売ってしまったんだ。プレイリストを作るのが簡単になりすぎたよね。昔は一本、一本テープを作って最後の最後まで聴かないとどうなってるかわからなかったから、ものすごい時間がかかったんだ。特に、あの早送りしかなかった頃のウォークマンで聴くとね。誰かあれ覚えてる?あの頃はデモ曲のコレクションを作るのにもロマンがあったんだ。すごく時間をかけて作ったし、テープが延びたりしてないかをチェックしたりね。昔はテープデッキを持ってたんだけど、そのデッキで録音中にうっかり Dolby をオンにしたりオフにしたりすると、クリック音やすごく高い音の雑音が入ったんだ。だから、特別な人のためにコンピレーションを作ってる時なんかはすごくイライラしたんだけど、逆にみんなをイライラさせるには良い方法だったよね。

-- 曲の中で生楽器を使うことがありますよね。完全に電子音だけで曲を作らないというのは重要なことですか?

Clark : 絶対に大事なことだね。今、デジタル・ツールを使うのに本当に飽き飽きしてるんだ。またコンピューターで曲を作るのに戻る日が来ることはわかってるんだけど、オシレーターとかツマミ、サンプラー、そして、僕がずっとこだわってるパーカッションがあるから、パソコンを使う気になれないんだよ。僕はあんまりパソコンのスクリーンを見て曲を作らないんだよ。昔の midi ハックが好きなんだ。自分の手で作業するテクニックが上がれば上がるほど、自分の目よりもフェーダーや指でドラムをプログラミングしたくなってくるんだ。正しい方程式を使えばギターの音をシンセの音に変えることもできるし、それをドラムの音に変えることだってできるんだよ。コンピューターの画面で新しいプラグインのプリセットをいじってるよりは、一日掛けてマイクの位置を探してる方が僕はいいんだ。もちろんコンピューターの方ができることは多いよ。だけど、僕はもう端から端まで使い切っちゃった感じがするんだ。だから昔のテクノロジーで新しい道を開いて、リベンジしたいんだ。

-- あなたはMySpaceで、今回のアルバムはC90のテープで録音されると書いていましたが、テープ形式を好んで使われるんですか?

Clark : うん。昔から大好きなんだ。 "Body Riddle" でもバルブは一切使わずに、テープと篭ったコンバーターの付いた昔のサンプラーの温かみを大切にしたんだ。リール・トゥー・リールを使うのがファッショナブルとされてるみたいだけど、違うよ。最近色んなLPのタイトルで突然取り上げられるようになったけどね。僕が思うに(Warp のレーベルメイトの)Bibio は、テープの匠だよ。アナログ界のオビ・ワン・ケノービみたいなものだね。Bibio にとって、テープは命の次に大事なものなんだ。もし彼の親友が追いかけっこをしてて、足にひどい怪我を負ったとしても、それを自分の Nagra に録音することができたら、すごくハッピー。そんな人だよ。彼は中部出身で、朝ごはんに炭を食べてた育ったんだよ!なんて言えばいいんだろうね。『由緒正しき労働階級のいじめっ子』って感じ?

-- このアルバムではいたるところで「侵食」されたような音がありますよね。こんな風に音が風化して聞こえるのはテープの関係もあってなんですか?

Clark : 全てが全て機材によるものじゃないよ。機材は人がバルブやマグネット、ボルテージを通して感情を注がない限り、心を持たないからね。そうすることで機材も心を持つんだ。だけど、それでも僕の知る限り、機材は人間の奴隷に過ぎないよ。まだ人間のやることを反映してるだけだね。これが良いことなのか悪いことなのかは今の僕の知識では語れないよ。僕は深層心理の中に根付いている昔の説得力のある記憶の音が好きなんだ。トラックの流れは心地よくて、懐かしい。そして、ゆっくりになって徐々にミステリアスな領域に踏み込んで、また大きな喜びに戻ってくる。たったの4分間でこれをやるんだ。これは人間と一緒だよ。感情っていうのは仕切りの中に簡単に固定して留められるものじゃない。理論なんてなく、混ざり合うものなんだ。もしアルバムがそれを反映していないなら、僕はなぜか満足できないんだ。だから時間を掛けて音を流し続けるんだ。深層心理にあるビジョンこそが、前に進める手段だからね。

-- このアルバムの曲でライブはやりますか?どんな機材のセットアップを使いますか?

Clark : ハードウェア・サンプラー、ギター・ペダル、スピーキング・シンセ・ボックス、ムーグ、もしかしたらボコーダーも使うかも。もしFの鍵盤を直すことができたらね。すごく古いし、ぼろぼろなんだ。だけど、ステージにはすごくいいよ。昔の Korg の機材はいつだって最高だね。 僕の友達の Flat-E の Matt もすごくいいAV機材のセットアップを作り上げてるよ。彼のLPのジャケットを完璧に反映した感じだね。僕もストロボがほしいよ!そして、自分で使えるようになりたいね。僕は500人のお客さんがぎっしり詰まった小さいサイズのクラブの方が好きなんだ。低い天井に、爆音のサウンド・システム、そして、パーティー大好きな連中が集まってるのが好きなんだよ。「安い酒=みんなが楽しい」だと思ってるからね。

-- "Totems Flare" でこの3部作が完成して、いよいよ次のステップを目指す時ですよね。次のステップはどんなものになるかもう決まっていますか?それはどんな音になりますか?

Clark : 50,0000000000000000000000人ぐらいの人が同時に爪を噛む感じかな?

End of the interview





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