HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Joris Voorn Schwarz

’80年代からシーンの頂点に君臨し続け、ドイツ・フランクフルトを拠点に全世界のクラブ・シーンを牽引するビッグ・レーベル Cocoon Recordings の総帥。DJ/プロデューサーとしての活動を起点に、レーベル、クラブ、ブッキング・エージェンシー、ファッション・ブランドなど自らの帝国を着実に拡大し、アーティストとしての才能は勿論、ビジネス面での類まれなる能力を発揮し功績を収めきた Sven Vath。音楽だけではなくクラブ・カルチャーそのものを創り上げてきたトップ・プロデューサーと言えるだろう。

毎夏イビザのクラブ Amnesia で開催され、毎週5000人以上ものクラウドが訪れるパーティー Cocoon IBIZA をテーマにしたミックスCDシリーズ "Sven Vath In The Mix -The Sound Of The Ninth Season" のリリースに伴い、今回日本はWOMBへ帰ってきた。フロアを埋めつくす満員のクラウドを熱狂の渦に巻き込み素晴らしい一夜を披露してくれた後日、HigherFrequency のインタビューに快く答えてくれた。イビザや日本のシーンについてやビジネスとしての考え、今後活動予定など非常に興味深く、また考えさせられるような、とても貴重な話を聞くことができた。

Interview : Midori Hayakawa (HigherFrequency), Yuki Murai (HigherFrequency) _ Translation : Yuki Murai (HigherFrequency)
Introduction : Midori Hayakawa (HigherFrequency)

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HigherFrequency (HRFQ) : 先日のWOMBでのプレイはどうでしたか?

Sven Vath : とても良かったよ。23時半からスタートしたんだけど、早いうちから人が沢山来ていて、24時になる頃にはすごくいい感じのアトモスフィアが出来上がっていたね。

HRFQ : "The Sound Of The Ninth Season" のリリースツアーで来日されたわけですが、このシリーズのコンセプトについて、また今作の内容について教えてください。

Sven Vath : このシリーズのコンセプトは、'99年から、毎年夏の6月から9月の終わりまで、僕がイビザのクラブ Amnasia でやっている Cocoon のパーティー "Cocoon Club @ Amnasia" に基づいてるんだ。去年は全部で16回イベントをやったよ。

Amnasia にはテラスとアリーナの2つのフロアがあるんだけど、最初にこの Mix アルバムのリリースについて考えた時は、イビザでの Cocoon のパーティーをひとまとめに詰め込んだもので、皆に僕自身のスタイルを知ってもらえるもの、その夏にプレイした音をピークタイムの音からアフターアワーズの音、テラスの音まで全て反映したものにしようということだったんだ。 だから、今回の "The Sound Of The Ninth Season" は、去年夏のテクノ、ハウス、ミニマル全てを含んだ、僕のフェイバリット・チューンをとりまとめた、全体像みたいなものなんだよ。

HRFQ : 毎年 Cocoon IBIZA のテーマやメインビジュアルを大変楽しみにしているのですが、あれはご自分一人で考えていらっしゃるのですか?

Sven Vath : そのシーズンのコンセプトはいつも僕が自分一人で考えてるね。アートワークから写真、衣装、メイク、スタイルといったものへのアイディアやヴィジョンをアーティストに伝えて、シーズンを通してのメインヴィジュアルや全体を通してのキャンペーンを一緒に作っていくんだ。 楽しく仕事をすること、一緒に仕事する人を愛することだね。一緒に音楽を楽しみ、ライフスタイルを作り上げ、良いものを作ること、アイデアを共有すること…それが僕の仕事のメイン・キーなんだ。

Cocoon IBIZA に関しては毎年、みんなのファンタジーを満たせるような、強力な個性のあるヴィジュアルを打ち出すんだ。シーズンの間に、みんなもこうやって(昨年のメインヴィジュアルにある、ヘルメットの形を手で再現しながら)、自分も Disco Invaders になってみたくなるような、スペシャルなメイク、スペシャルなヘアスタイルを作るわけだね(笑)。そもそもは、みんなにちょっとしたドレス・アップのアイデアを提供したいというのが僕らの狙いだよ。こういうアイデアは夜にぴったりだしね。

Cocoon のパーティーではみんなに、いつもの世界から抜け出してほしいと思ってるんだ。その一夜のミュージカル・ジャーニーを、わくわくしながら旅してほしい。ヴィジュアルは、みんなをインスパイアし、もりあげ、心を満たすためのものなんだ。

Joris Voorn Schwarz

HRFQ : もしよければ、今年はどうな風になりそうか教えていただけますか?

Sven Vath : 今年は Cocoon IBIZA 10周年のバースデイ・パーティーになるから、特定のテーマではなく、テクノとハウスをメインに音楽そのものを全面に打ち出したものにしようと思うよ。そうだな、"10 years Celebration Cocoon Techno House Nation" という感じかな。これがたぶん今年の Cocoon のテーマだね。イビザでのパーティーもこの方針でやっていくことになると思うよ。

HRFQ : クラブのクローズやアフターアワーズの禁止など、最近イビザにおいてあまりいいウワサを聞きませんが、実際のところはどうなんでしょうか?

Sven Vath : ’60年代に Bob Marly がコンサートをやって以来、イビザはヒッピーの島になって、僕や君達みたいな極楽鳥…パーティーやダンスを愛する、自由な心を持ったスピリチュアルな人たちが集まるようになったわけだね。でも一部の人々が「イビザは何をやってもいい場所」といった風に振る舞うようになってしまったんだ。これは地元スペインの文化、人々の生活を全く尊重していない姿勢だよ。地元の人々はとても寛容なのに、とうとう許されない一線を越えてしまったんだ。 一部のパーティー、一部の人々が暴走してしまった結果、事故などで島の行政サイドとしては何か対策を打たなければいけなくなった。例えばDC10がそうなんだけど、クラブとしての認可を完全には取っていないクラブもあったし、結果として、今後はアフターアワーズは許可できないということになってしまったんだ。

だけど、これは是非知っておいてほしいんだけど、僕達は去年、毎週月曜にアフターパーティーを実施したんだ。実際そんなものなんだよ(笑)。

「イビザはもう以前とは違う」だとか言いたがる人はいっぱいいるけど、確かにそれはある意味ではイエスなんだけど、別な意味ではノーだね。殆どの人たちは島の人々と文化を尊重し、パーティーを楽しむためにイビザに来ているわけだからね。

HRFQ : 全くその通りですね。 イビザの話題に戻ってしまいますが、イビザでのそういった現状を何か変えていこうと思われることは?

Sven Vath : そこに対して何かできることはないかな。僕らは今まで通りやっていこうと思うよ。今年は10周年だし、去年は今までで一番成功した年だったし、合計で10万人近い動員があったんじゃないかな。一回のパーティーにつき5000人以上入っていたし、8月頃のピークタイムには8000人くらいクラブの中にいたからね。朝6時にクローズしろと言われても、結局僕達は7時、7時半までやってたりする。みんな一晩まるごと楽しみたいから早めに来るんだよ。

時間の話といえば、スペインでの時間感覚にはたまに戸惑うことがあるよ。夏の時期、日没の時間は夜22時で、みんな夜の24時に夕食を食べるんだ。21時なんてまだ明るいからみんなビーチにいるよ。時間の経ち方が違うんだ。それで夜遊びに出る時間も遅くなるけど、僕たちはあえて早めにオープンすることにしたんだ。たまにそれに文句が出ることもあるみたいだけど、実際は効果的だったと思うよ。

HRFQ : 続いて、あなたのレーベル、Cocoon Recordings についてお聞きします。レーベルのアーティストは皆それぞれに個性的ですが、どこかに共通した Cocoon らしさのようなものを感じます。 レーベルを一緒に作り上げる仲間として、何か重視していることはありますか?

Sven Vath : もちろん僕には僕自身の音の好みがあって、Cocoon Recordings のアーティストは僕が選んでいるよ。レコードを聴いていて気になる人がいれば連絡を取るし、アーティストから送られてくるデモを聞いて連絡することもあるね。とにかく僕が選んでいるということが重要なポイントかな。Cocoon Recordings は音楽レーベルだけど、型にはまったものにはしたくないんだ。ミニマルのレーベル、ハウスのレーベルといったことではなくて、良い音をリリースしたい。もちろんダンスミュージックである必要はあるけど、エレクトロやアンビエントといったものも含めてだね。ひとつのスタイルにフォーカスせず、個性的で独自のスタイルを持ったミュージシャン、アーティストがレーベルを有機的なものにしていること、それが Cocoon のスピリットだね。

Joris Voorn Schwarz

HRFQ : 今後のリリース予定を教えていただけますか?

Sven Vath : 先日 Guy Gerbe rの 12インチ 'Timing' が出たところで、続いて Reboot の12インチ、Pig & Dan のアルバム、Jacek Sienkiewicz の12インチが出るよ。あとは Ali (Dubfire) の Mix CD と、それに Cassy も Cocoon に参加したから、彼女も Mix CD をリリースするね。Onur Ozer のリリースもあるな。

それと、ちょうど先週新しいコンピレーション・シリーズの構想ができたところで、タイトルは "Sven Vath Selected Ambient Sounds" になる予定だよ。実は僕自身がアンビエントの大ファンでトラックも作ってるんだ。このリリースで、みんなに僕がプライベートで何を聴いてるのか伝えたくってね。2枚組のCDで、僕のフェイバリットのアンビエント・トラックを収録するんだ。

HRFQ : ご自身の作ったアンビエント・トラックも収録されますか?

Sven Vath : いや、そこには入れないね。それと、このシリーズのアートワークは写真家の Andreas Gursky にお願いしようと思ってるんだ。Cocoon Recordings の新作についてはこんなところなんだけど、コンピレーションについて話したのは君たちが最初だよ!(笑) まだリリース日については決めてないけど、たぶん夏の終わりごろになるかな。どちらにしても今年中には出すよ。

HRFQ : 大変興味深いリリースになりそうですね!

Sven Vath : そうだね。テクノやハウスのプロデューサーとしてしか僕を知らない人にとっては、きっとびっくりする内容になると思うよ。

HRFQ : ところであなたは現在、プロデューサーとアーティストを両立されているわけですが、今後もこういったスタイルは変わることはないですか?

Sven Vath : 僕はまずDJとしてスタートして、アーティストになってそれを長年続けているけど、とにかく音楽シーンの中で何かをしたかったんだ。そういう気持ちがあるから大きなビジネス経営をしてるわけさ。クラブ経営、レーベル経営に関しては、若いアーティストのためのプラットフォームを作り、彼らに自己表現のためのチャンスを与えるためにやっているんだ。だから、僕は今はビジネスマンでもあるわけだね。200人以上の社員を抱えているし、クラブとレーベルの会社以外にもレストランの会社があって、3つの会社を経営しているんだ。経営者でありながら、自分でステージに立ってパフォーマンスもする…それはある意味、僕の特権だね。

一緒に仕事する良いチームがいて、音楽を作ること、人々をつなげること、新しいコンテンツを作り出すことこそが僕の情熱なんだ。それをスタッフにも伝え自分がこれまでやってきたことを共有し、若いアーティストの手助けをしたいんだ。

HRFQ : 日本のダンス・ミュージック・シーンについてはどう思われますか?

Sven Vath : うーん…それについて、僕からはあまり発言は出来ないかもしれないな。僕が最初に来日したのは‘94年だけど、その頃はあちこちでプレイしていたんだ。沖縄、仙台、名古屋、福岡、京都、札幌…国内全部の小さいクラブ、小さいパーティーでプレイしていたよ。その頃の日本のイメージは "The Elecrtonic / The Techno Nation" という感じだったね。

その後、僕の活動はあちこちに広がっていったけど、今の日本はちょっとニッチなマーケットという印象が否めないんだ。色んなスタイルの、小規模な業界が沢山あって、それが渾然一体になっている様に見える。今日本でどれだけテクノや電子音楽が発展してきたのか見てみたいけど、’01年以来 WOMB 以外の場所でプレイしたのは2回だけかな。だから日本では8〜9年間、東京でしかプレイしていないんだ。大勢のクラウドの前でプレイしていると、ともあれ東京では確かにシーンは大きくなったんだと感じるけどね。

そういえば昨日は、僕と同世代の人たちに会ったよ。僕の音楽をもう10年以上聴いている人達で、しかも未だに僕のパーティーに来てくれてるんだ。もちろん若い人たちもどんどん来ていて、若い人もテクノやハウスが好きなんだなと分かったし、そこには昔からの人もまだ居て…とてもいい兆候だと思うよ。 今、僕が言えるのはこれくらいだけど、’90年代の日本のシーンはもっとクリエイティブだったよ。僕から見れば日本のアーティストはいなくなってしまったし、レーベルもないし、新しいDJもいない。当時を思い出すと、僕のレコードケースには DJ Shufflemaster (金森 達也)、田中フミヤ、ケンイシイだとか…10枚は日本人のレコードがあったね。今は、日本人アーティストのレコードは一枚も無いんだ。

HRFQ : そうですか…。実際にはもちろんいるのですが、どうやら私達はもっと世界へ向けて発信する必要があるようですね。

Sven Vath : 「世界に向けて発信する」という点は是非みんなに気付いて欲しいよ。君達(HRFQ)なら、新しい才能ある人たちを紹介することができるんじゃないかな。そういう人たちはきっと君達のサポートを必要としていると思うね。

そうだ、昨日 Metro Juice Records のトモキ (Tomoki Tsukamoto) が10曲くらい入った新しいCDをくれたんだけど、そこから選んでリリースすることになるかもしれないな。彼の音楽はすごく好きなんだ。彼が新しくどんな音を作ったのか聴くのが楽しみだよ。あと、Susumu Yokota のエクレクティックなスタイルかな…ジャズ、ハウス、テクノ、彼はユニークだね。才能があるよ。

HRFQ : 音楽以外でも構いません、今後新たに企んでいるプロジェクトなどありますか?

Sven Vath : 今の新しいプロジェクトといえば…妻のことだね(笑)。去年結婚したんだけど、来年には子供が欲しくてね。最近イビザに家を買ったところで、庭やら色々作るんだけど、もちろん僕は日本の文化のファンだし、日本の技術のファンで…特に、トイレ技術のファンなんだ。TOTO がドイツにショールームをオープンするらしくて本当楽しみだよ。エコロジーに基づいた彼らの技術コンセプトが好きなんだ。新居のバスルームには日本の技術を…という事さ(笑)。

それと、僕は日本食の大・大・大ファンなんだ。僕の同志、Richie Hawtin は大阪で日本酒の勉強の最終工程を終えたところなんだけど、彼はベルリンにサケ・バーをオープンするつもりのようだよ。Richie に日本の文化を紹介できたことをすごく誇りに思ってるんだ。昔 Richie とカナダで共演した時、何が食べたいか聞かれて、僕が「寿司が食べたいんだけど、近くに日本食のレストランはないのか?」って答えたら、彼は「スシって何?」って言ったんだよ!(笑)。それで僕が寿司って何なのか説明する羽目になったんだ。それが今や、日本酒のスペシャリストだからね!みんなに日本の文化を紹介するのも僕の新しいプロジェクトかもしれないね。

日本の話でいえば、ドイツに尺八を輸入することも考えてるよ。ディジュリドゥとかと一緒で、あの倍音がとてもいいよね。演奏するのは本当に難しいけど是非トライしたいんだ。あとは僕のフェイバリット・フードの蕎麦についても何かやってみたい。今回も六本木ですごく美味しいお店に行ってきたよ。

HRFQ : 本日は貴重なお時間、どうもありがとうございました。



End of the interview




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