HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Stewart Walker Interview

アメリカ出身で現在はベルリンに居を構える実力派ミニマリスト Stewart Walker。田中フミヤとの交流を経て過去数回に渡り来日を果たしてきた彼が、8月20日、Space Lab Yellow にて行われた田中フミヤ主宰のイベント Chaos でプレイするために、再来日を果たしてくれた。

HigherFrequency のパーティーレポートにもある通り、間違いなく今年のベスト・ライブの一つに数えられるであろう、テンションの高いライブを披露してくれた Stewart に、HigherFrequencyがインタビューを実施。ベルリンでの生活や機材のこと、それに現在休止中のレーベルPersonaの今後などについて話を聞いた。

> Interview : Laura Brown (ArcTokyo) _ Photo : Ollie Beeston _ Translation & Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency)

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HigherFrequency (HRFQ) : 最初にあなたと日本に招聘したのは田中フミヤ氏ですよね。どうやって彼と知り合うことになったのですか?

Stewart Walker : 2001年の春に、フミヤのレーベルマネージャーである Keiko から連絡があって、Chaos でプレイしないかって誘われたのが最初だったかな。それ以来、毎年夏になると来日して、東京ではリキッド・ルーム、大阪ではロケッツでプレイするようになったんだ。今年は、リキッドルームが移転してしまったこともあって、Yellow でプレイするんだけど。

HRFQ : もともとジョージア州のアトランタで生まれ育ったということで、カントリーミュージックや地元の音楽から影響を受けたことはなかったのですか?一番影響を受けたと言えば、どんな音楽だったのでしょうか?

Stewart : アトランタにいた時に、地元の音楽から影響を受けたことはなかったな。あと同じジョージア州のアセンスにあるカレッジに通っていたんだけど、そこは R.E.M や B-52 とかのホームグラウンドでね。どこに行っても彼らの音楽が耳に入ってくるものだから、なるべくなら避けて通るようにしていたんだ。今は違うところに住んでいるから、普通に彼らの音楽を聴けるようになったけど、当時はあらゆる場所で耳にするものだから、ちょっとトゥーマッチに感じていたね。

で、僕の音楽的な影響ということなんだけど、これが毎年変わるんだよね。ちょうどエレクトロニック・ミュージックを作り始めたころは、Brian Eno や Aphex Twin、Autechre、あと Juan Atkins や Robert Hood といったデトロイト系のアーティストから影響を受けていた。でも今では、好きな音楽は勿論あるんだけど、影響を受けているかって言うとそうでもなかったりするんだ。あまり自分自身の音楽に彼らのサウンドを取り込みたいとも思っていないし。だから「好きなアーティスト」という意味で言うと、去年は Elliot Smit hや Cannibal Ox、Radiohead、それにWilco なんかがいるんだけど、じゃぁ彼らのサウンドが僕の音楽の中に影響を与えているかって言うと、今のところそうでもないんだよね。

Stewart Walker Interview

HRFQ : 最近ベルリンに移ってこられましたね。ブッシュの影響下にあるアメリカ以外で過ごす日々は、何かインスピレーションを与えてくれましたか?

Stewart : ベルリンに初めて移ってきた頃は、毎日アメリカと違っているところを詳らかにしていたものだったけど、6ヶ月ぐらいするとそれも飽きてしまって、今ではただヨーロッパに住めているってことに満足している感じかな。アトランタの後に住んでいたボストンよりもここの物価は安いし、それにヨーロッパのあちこちプレイする機会も増えたし、ここでの生活は僕にとってすごくイージーなものなんだ。あと、政治的な面で言うと、アメリカの外に住んでいるからこそ、以前より一層アメリカで起こっていることにフォーカスするようになったかもしれない。僕のドイツ語はそんなに流暢じゃないし、僕が目にする殆どの英語雑誌が、カルチャー的なものよりもニュース的なものが多かったりするからね。

HRFQ : 日本とドイツでは、あなたの音楽に対する受け止められ方に違いがあったりしますか?オーディエンスの反応はどう言ったところに違いがあるのでしょうか?

Stewart : ヨーロッパの人たちは、過去15年間に渡ってずっとエレクトロニック・ミュージックに囲まれて暮らしてきたし、だから、ショウを見に出かける時にも、どんな音楽を聴きたいかがハッキリとしているんだ。で、仮にそのサウンドが彼らの期待していたものと違っていたとしても、それに合わせようとはしない。でも、僕の経験から言うと、日本人の方がもっと幅広いレンジの感性を持っていて、すばらしいショウを見に行くこと自体に喜びを感じている所がある。だから日本でプレイする時には「何かにあわせなきゃいけない」っていうプレッシャーを感じることもないし、クリエイティブな面でも自由度の高いプレイをすることが出来ると思うんだ。

HRFQ :ライブをやるときに、何か新しいテクノロジーを使ったりしていますか?

Stewart : これはちょっと面白い質問かもね。なぜなら、僕のライブ・パフォーマンスでは、いわゆる「最先端のテクノロジー」はあまり使っていないからさ。でも実際のところ、今まで使ってきた機材のいくつかがメーカーでは生産中止になってしまっていて、今将来に向けて新しいライブのセットアップを急いで計画しているところなんだ。今使っているのが壊れたら代わりになるような最近の機材の選定も含めてね。

HRFQ : ライブの時にセットアップを教えてもらってもいいですか?あなた自身、あまりラップトップを使ったパフォーマンスは好きじゃないとおっしゃっていましたが・・・

Stewart : この4年間、僕はライブの基本を Akai の MPC と EMU のサンプラーに置いてきた。僕がライブを始めた頃には、ライブをやる為のソフトウエア自体が存在していなかったこともあって、ラップトップでライブをやること自体不可能だったからなんだ。最近ではラップトップを使ったライブをよく見かけるけど、単純に各曲をプレイバックするだけの構成になっていたりするものが多いよね。でも、僕がライブを始めた理由は、パフォーマンスの最中に自分の曲を解体したりリミックスしたり出来るという点で、DJよりフレキシビリティがあると思ったからなんだ。テクノロジーが随分と進化してコンピュターも早くなってきた頃に、何回かラップトップにスイッチしようとした事もあったんだけど、その仕組みがまだ僕には魅力的に感じられないことが分かって結局やめてしまった。まぁ、今では僕のEMUも随分と旧式なものになってしまったから、サンプラーとしてコンピュターを使える可能性を探ってはいるんだけど、それもやっぱり MPC が僕にとって一番重要なものであることには変わりないだろうね。MPC が好きなのは、僕の手の動きがはっきりと見えるから。やっぱりオーディエンスがパフォーマンスをしている人間の手の動きを見ることが出来るのって大切なことでしょ。例えそれがエレクトロニック・ミュージックのライブだったとしても、ギターをプレイしているのと同じく、人間が編み出していくものだし。勿論、クラブに来ているみんながパフォーマンスの肉体的な動きを見たいと思っているわけじゃないと思うけど、何人かの人はきっとそうだと思う。しかも、今やターンテーブルからみんなが離れようとしている状況の中では、パフォーマンスが出来る能力っていうのがますます大切なものになっていくと思うんだ。

Stewart Walker Interview

HRFQ : エレクトロニック・ミュージックにおけるパフォーマンスの次なるステップは何だと思いますか?

Stewart : Ableton や Native Instruments が出てきたおかげで、今や音楽系のソフトはハードの代わりを果たせるものへと改良されてきたと思う。でも、この動きをハード・メーカーも十分認識はしているはずなのに、殆どのケースにおいて、彼らはソフトと対抗する道を選んでいない。Roland はアナログ・モデリング系の機材を開発し続けているし、Akai も10年前から同じ商品を異なったカラーで発売し続けている。いくつかの会社はビジネスから撤退することになったし、コンピューター・メーカーに買収されてしまったところもある。その意味で、確かにソフトは、パワーと携帯性における戦いには勝利してきたと思うけど、一方ではコンピューターから出てくるサウンドを制御するコントローラーに合格点を与えられるものが少ないのも事実だと僕は思うんだ。今までに僕が目にしてきたコントローラーは、殆どがプラスティックで作られたもの。すなわち、動かすことのないスタジオの中では問題ないけど、これを持って世界中をツアーすることは僕的には考えられないものばかりなんだ。その点DJミキサーはとてもシンプルでありながら、しっかりした作りになっているから良いと思うね。しかもモジュール式になっているから、壊れたら簡単に交換する事も出来るし。

HRFQ: スタジオワークでの機材について教えてもらってもいいですか?いつもどんな機材を使っているのですか?

Stewart : 僕の今のスタジオは至ってシンプルだよ。MPC をシーケンサーにして、それ以外には Microwave のXT シンセとコンピューター、それに2台のスピーカーだけ。あと、最近アナログミキサーを買ったところなんだ。もう8年くらいアナログミキサーは使っていなかったんだけど、これを使って今まで録りためていたデジタルサウンドをいじりまくって、もっとパワフルなサウンドへと仕上げられるといいなと思っている。でも、スタジオのブレーンという意味では、やっぱり Logic Audio (統合型シーケンスソフト)かな。どうやったらクールなトリックが出来るか、まだ勉強中ではあるんだけどね。

HRFQ : あなたの制作面でのプロセスについてですが、以前、時々ある言葉がテーマとして浮かんできて、それを元に作曲を行っていくことがあるとおっしゃっていましたが、いつも大体そういった感じで制作を進めていくのですか?

Stewart : 今でも自分の好きな言葉やアイデアをノートなんかに書き続けてはいるんだけど、やっぱり言葉から直接音楽を作っていくというのは難しいなぁといつも感じているんだ。だから実際には、いわゆる心象風景みたいなものからインスピレーションを得るようにもしているね。僕は、半分眠りについて半分目が覚めているような状態の時に、時々インスピレーションを与えてくれるようなイメージを頭の中で描くことが出来るんだ。でも、これはどちらかと言うと、僕が作り出したい「ムード」に関してのファクターと言えるかもね。それに、やっぱりスタジオで音やループに取り組んでいるときは、コンセプチャルになるのをやめて、エンジニア的な発想で考えるようにしないとダメなんだ。だから、自分の望むサウンドをどうやって作り出すか、どうやって上手くノブを回すか、それにもっとも大切な「曲の他の部分にそれらのサウンドがフィットしているか」といったことを中心に考えるようにしているね。

Stewart Walker Interview

HRFQ : 今はどんな作業をやっているのですか?それに対しての何かインスピレーションはありましたか?

Stewart : 今ちょうどダウンテンポ系の曲を集めたアルバムを完成させたところ。流れとしては"Stabiles" (1999年作品-Force Inc.)の延長にある作品なんだけど、こっちの方がアコースティックなドラムとオーケストレーションがより多くフィーチャーされている。アルバムのタイトルは "Grounded In Existence" で、6ヶ月以内に Persona からリリースすることになると思うよ。これは内容的にもスゴク気に入っている作品で、今までの中でも一番のお気に入りだね。今までの作品の殆どはボストン時代に書かれたもので、90年代に見られた文化的・技術的なバブルに沸き立つお祭り騒ぎと繁栄が崩壊していく過程をベースに作られたものなんだ。僕はまさにアメリカのジェネレーションXやレイブ・ムーブメントの真っ只中で成人を迎えた世代で、自分たちが世の中や経済、それにラジオから流れてくる音楽すらも変えることが出来ると信じていた。でも、2000年以降、その考えがいかに愚かだったかに気付き、相変わらず文無しのアーティストとして明日を迎え、家賃を払う方法を考えなければならないって事に気付いたというわけ。その意味で、今回のアルバムには「仕事をみつけなきゃ」みたいなサブタイトルを付ける事が出来るかもね。

HRFQ : あなたのレーベル Persona では、どのような事にフォーカスしているのでしょうか?

Stewart : Personaは僕がドイツに移ってきたときに一旦お休みにしたんだ。ドイツ語のレッスンも受けなきゃいけなかったし、週末にはたくさんのライブが入っていたから、週の間に制作する時間も少なくなってしまって。それでレーベルの運営に当てている時間を他に回す事にしたんだ。だから今は再建途中にあると言っていいかな。新しいアーティストや音楽と契約をして、レーベルとしての見た目も感覚も再構築しているって感じだよ。

HRFQ : 最近誰か新しいアーティストと契約されましたか?

Stewart : 最近では、イタリア出身の Touane というアーティストのサウンドがとても印象的だったな。最近彼もベルリンに移ってきて、Persona のリニューアルにも参加してくれているんだけど、既にアルバム2枚分の素晴らしいトラックが出来上がっているんだ。だから Persona の今後についてはとても楽観的に考えているよ。アメリカにベースおいたミニマル・テクノのレーベルという地味な形からスタートして、いずれはエレクトロニック・ミュージックの新たな方向性を示す存在になる・・・その夢を達成すべくこれからも進化していくだろうからね。

End of the interview

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