HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Stephane K Interview

NYを拠点に活動するプロデューサー、リミキサー、DJであるStephane Kが、アジアツアーの一環として来日し、又しても長時間に及ぶマラソンセットを日本のファンの前で披露してくれた。パートナーであるJohn Creamerと共に制作した数々の作品が、John DigweedやSatoshi Tomiie、Danny Tenagliaと言ったトップDJたちにこぞってプレイされ、2002年にはあのBedrockからミックスCDをリリースするなど、世界中のクラブシーンから熱い視線を浴び続けてきたStephane K。ラップトップを駆使してグルービーなトラックを矢継ぎ早に繰り出す彼のDJセットは、単純にトライバル・ハウスとかプログレッシブ・ハウスと言ったジャンルだけに括る事の出来ないものとして知られ、オリジナリティ溢れたStephane Kワールドとして幅広い層から支持されている。

そんな彼にHigherFrequencyが独占インタビューを試み、日本のクラブシーンに対する彼の思いや、ニューヨークの現状、そして自らの音楽制作などについて話を聞くことが出来た。

> Interview & Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency) : Photo : Jim Champion

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HigherFrequency (以下HRFQ) : 2月末に行われたParks & Wilsonのイベントでのライブ・パフォーマンス以来の来日と言う事になりますが、Airでのプレイはこれで何回目になりますか?

Stephane K : 4回目になります。最初は自分の曲だけで1時間のライブをやって、2回目以降、ラップトップを使ったDJをやってきました。最初は音楽制作に専念する為にあまり積極的にはDJをやっていなかったんですけど、ちょうどその頃から増やし始めた感じですね。

HRFQ : 来日するDJの多くがAirのサウンド・システムを非常に高く評価をしていますが、その点についてはどの様に思われますか?

Stephane : それ程大きなサイズではないクラブなんだけど、音が上から下までしっかりバランス良く出ていますよね。まぁ、他にもっと大きなスピーカーシステムを積んでいるところも都内にはありますけど、騒音の問題とかキチンと出せていなかったりしますからね。その点Airの音は音量的にはそれ程大きくないかもしれないけど、上から下までしっかり出ているって感じで。特に低音はかなり好きですよ。キックの余韻と言うか、あのサウンドを日本のクラブで耳にする事はなかなか難しいんじゃないでしょうか。

HRFQ : つい先日インドネシアのEmbassyなんかでもプレイをされていましたが、今回の来日はアジアツアーの一環と言う事になるんでしょうか?

Stephane : そうですね。今月(4月)は台湾、インドネシア、マレーシア、大阪でプレイしてきて、あとイタリアでもプレイしました。

HRFQ : そのアジアですけれども、最近、シンガポールのZoukとCentroが揃ってマレーシアに進出したり、あと、台湾や韓国のシーンなんかも盛り上がってきていて、日本のシーンもウカウカしていられないじゃないかと思うのですが・・・

Steaphane : まだ大丈夫ですよ(笑)。やっぱりDeepな曲よりは、テンポが速くてイケイケ風な曲が主流みたいだし・・・まだ(歴史も日本に比べて浅いので)耳が肥えていると言うお客さんはそれ程多くはないと思いますよ。

Stephane K

HRFQ : 韓国も最近では日本での集客を食ってしまうほどの成功を収めたパーティーも幾つかあったようなんですが、韓国でプレイされた事はありますか?

Stephane : ないんですよ。でも、かつて一回オファーを受けた事はあったんですけど、その時に丁度SARSがはやっていて(笑)。でも機会があれば行きたいですね。

HRFQ : さて、前回はライブセット、今回はDJセットと言う形でフライヤーには打ち出されている訳なんですが、特にこの二つのセットに大きな違いはあるのですか?

Stephane : たまに自分の曲だけで1時間プレイしたりする事はありますけど、余り厳密な違いはありません。でも。DJに関してもアナログ盤を使わずにラップトップでやっているので、基本的にはどれもDJセットと言う考え方になるでしょうね。

HRFQ : 使われているシーケンサーはTraktorですか?

Stephane : 最近はLive (Ableton)です。クロスフェーダー付きのMIDIコントローラーが出ていたり、テンポも簡単に変えることが出来たりしますからね。

HRFQ : やっぱりサンプルとかをリアルタイムでLIVEに取り込んで、その場で加工したりもしたりするんですか?

Stephane : 違う曲の頭だけをループして持ってきて、その上にアカペラを乗っけたりとかはしますね。やはりTraktorとFinal Scratchを使っている人たちの方が圧倒的に多いとは思うんですが、Traktorではこう言った複雑な事は出来ないんで、僕はLIVEを使うようにしています。噂ではFrancois KがLIVEを使ってパフォーマンスをしたとか言われてますし、後、何人かテクノのDJの人でLIVEを使っている人はいるでしょうけど、僕のやっているジャンルでは僕だけでしょうね。

HRFQ : 前回は7時間で、今回は8時間と言う事ですが、長時間プレイされる時のメンタルな秘訣とかって何かありますか?時間はわりとサッと過ぎてしまう感じですか?

Stephane : 途中で2〜3回、「長くて辛いなぁ」なんて事が頭をよぎる事はあるんですけど、それ以外は集中してプレイしていますね。むしろ、「次の曲を何にしようか」とか「どう展開を持っていこうか」など考える事が一杯あるので、あんまりそう言う事を考えている時間がないと言った方がいいかもしれませんね。

Stephane K

HRFQ : 実際のプレイの準備はどうされているのですか?殆どのプロモ盤はアナログとかCDと来ると思うのですが、それをあらかじめパソコンの中に取り込まれておく感じですか?

Stephane : うちに来るプロモやCD、それに買ったレコードなど、気に入ったものは全て録音するようにしています。

HRFQ : それって結構大変な作業ですよね。だいたい週の間に何曲くらい落とされたりしているんですか?

Stephane : 一回やっちゃうと一生使えるんで・・・落とす曲の数は、多いときで2〜30曲くらいで、少ないときは5曲くらいって感じですかね。

HRFQ : 制作活動についての話に移りたいと思いますが、確か以前のインタビューで使っているホスト・シーケンサーはデジタル・パフォーマーだと聞きましたが、ビートを作られる時の実際の制作工程と言うか手順を教えていただいてもいいですか?

Stephane : 最近はDJをやる為にパソコンにたくさんの曲が入っているじゃないですか。だから自分の曲を作っているときに、自分の持っている曲の全てを作っている曲と同じテンポで聞けるので、とても役に立っています。特にサンプリングが楽ですね。勿論加工しますけど(笑)。

HRFQ : 何かお勧めのプラグインとかソフト・シンセとかってありますか?

Stephane : あります!CS80ですね。あとOddity。ソフトシンセの割には音がダーティーで好きですね。

SG: 最近のProgressive系の音だと、FM系のシンセ音源なんかが多用されていたりしますが、こちらはどうですか?

Stephane : FM音源は余り使わないですね。FM7は少しだけ触った事がありますけど。まぁ、その曲にハマる音が出来るのであれば、アナログ音源でもFM音源でも特にこだわりは無いですね。

HRFQ : さてNYのハウスシーンについてですが、やはり状況は厳しい感じが続いているのでしょうか?

Stephane : やっぱりヨーロッパ勢に押されていて、NYだけで頑張っている人って殆どいないですね。ヨーロッパのDJの方がお客さんも入るし・・・

Stephane K

HRFQ : やはりNYローカルのDJがNYのクラブで回せる機会は、数年前に比べると確実に減っている感じですか?

Stephane : 機会自体は減っていないんですけど、昔は一人のDJが10時間、12時間やるのが当たり前だったじゃないですか。それに対して、今ではヨーロッパ・スタイルが主流になりつつあって、一人の持ち時間が2〜3時間と短くなってきているのは確かですね。

HRFQ : 何か新しいハコがオープンするとかって言う話も聞こえてこないですか?

Stephane : あります。Crow Barと言うシカゴとマイアミにある割と有名なクラブがNYブランチを28丁目、丁度昔Twiloがあった辺りに出店すると言う話がありますね。で、そのTwiloのあった場所ですけど、今はSpritと言う新しいクラブに改装されていて、フロアも以前に比べて2倍近くになったりしているんですけど、スピーカーは僕の背よりちょっとデカイくらいものしか置いてないんですよ。なんかサウナとかレストラン、リラクゼーション・スペースとか言った音と関係ないところに死ぬほどお金を使っているみたいで・・・。愛着のある場所なので期待はしていたんですけど、ハコとしてはちょっとイマイチって感じですね。

HRFQ : 最近、Remixのギャラなんかも随分と下がってきているなんて記事がある新聞に載っていたりしたんですが、その辺りはどうですか?

Stephane : ホントそうですよ。レーベルとかもたくさんつぶれているし、Eight BallもStrictlyもHooj Choonsも無くなりましたしね。だから別にレーベルがケチっている訳ではなくて、単にお金が払えないって事だけだと思うんですよ。僕のところに来るオファーなんかも昔の半分以下の金額ですからね。

HRFQ : そう言った環境の中で、音楽制作だけでやっていくと言うのはStephaneさんにとってもやはり大変な事なのでしょうか?日本で頑張って音を作っている人たちの中には、「とりあえずStephaneさんの位置まで辿り着ければ道が開ける」と思って頑張っている人も多いと思いますが・・・

Stephane : 僕とJohn Creamerが一緒にやるようになって、名前がドーンと上がっていった瞬間にマーケットがズドーンって落ちちゃって(笑)。2,3年前に有名になっていればもっと良い生活が出来たのかもしれないけど・・・今、世界的に売れてないじゃないですか。昔はレーベルもイニシャル(初回出荷)5,000枚とか言っていましたけど、今では1,000枚とか2,000枚のレベルだし。だから今出てくる新人ってスゴイ大変だと思いますよ。

HRFQ : やっぱりDJ・音楽制作・ライブという3つのトライアングルが無いとなかなか厳しいと言ったところなんでしょうか ?

Stephane : 自分の曲ってどんどんコピーされていくじゃないですか。でも自分のパフォーマンスってコピーしようが無いわけで、まぁ、昔バンドマンだった事もあって、最初はライブからスタートして徐々にDJの割合を増やしていっていると言う感じですね。

Stephane K

HRFQ : 以前のインタビューで、「そろそろ日本でレーベルでもやろうかなぁ」とおっしゃっていたと思うのですが、最近ではOsamu MやOMB、Hattoriなどを筆頭にクオリティの高い音を作る日本人プロデューサーが増えてきていますよね。Stephaneさんが先頭に立って彼らと一緒に「日本人発信・日本人レーベル」って言うものを作るような考えはありますか?

Stephane : やりたいですよ〜。日本の住所で日本のレコードをバンバン出すようなレーベルをやってみたいですね。

HRFQ : 実際に我々も欧米を相手に活動している中で、どうしても「日本人」と言う事だけでフィルターがかかってしまうような場面もあるような気がするのですが?

Stephane : やはり人種の壁みたいなものってアメリカには存在していると思います。ヨーロッパだとあまりそう言った意識はないのかもしれませんけどね。残念ながら(そう言ったフィルターは)多少はあるでしょうね。

HRFQ : と言う事は日本人が海外でドーンとブレイクするためには、他の国の連中よりクオリティの高いものをぶつけなきゃいけないって感じですか?

Stephane : そうですね。後、言葉ですね。言葉の壁とアジアの壁っていうのはどうしてもあると思います。

HRFQ : 同じ日本人と言う事では、先輩としてSatoshi Tomiieさんがいらっしゃいますが、何か普段アドバイスを受けたりされますか?

Stephane : 「彼みたいになりたい」と言うと変かもしれませんけど、彼はもう10年も第一線にいるわけじゃないですか。僕もそれが目標ですね。アドバイスとしては、これからはもっとライブとかパフォーマンスとか、人にコピーされないような自分のものをやったほうが良いんじゃないかと言うアドバイスは受けた事があります。彼はいつも雑誌とかにもたくさん僕の名前を乗せてくれたり、色んなサポートをしてくれるので、ホント大感謝って感じです。

HRFQ : さて、今回のツアータイトルは2月に出されたシングルのタイトル「Forget The World」から取ったものですが、元々この曲で使われているジム・モリソン(The Doorsのヴォーカリスト)のサンプルを使おうと思ったきっかけは何だったんですか?

Stephane : むかしDeeper Rekordsってあったじゃないですか。あれは元々そこのJonathanからもらったサンプルだったんですよ。でも、話題になっていないだけで、あのネタで1枚か2枚は作品が出ているはずですよ。

Stephane K

HRFQ :今後のJohn Creamerとのプロジェクトはどのような予定になっていますか?作品のリリースとかがあれば教えていただきたいのですが?

Stephane : あります!スゴイ一杯あります。6〜7曲は出てきますね。最近Johnと新しくNYでレーベルを始めたんですよ。名前は「New York Love」って言うんですけど。

HRFQ : Pipelineとは別に?

Stephane : 別ですね。PipelineはSatellite Recordsと一緒にやっていたレーベルなんですけど、もう1年前くらいから活動をしていないんですよ。ですからNew York Loveは全く新しいレーベルになりますね。3週間後(5月中旬)には1枚目がリリースされる事になっていて、その後も1ヶ月か2ヶ月おきに作品を出していくことになると思います。それとは別に日本でも自分のレーベルをやろうとは思っていますけどね。そっちでは、日本の才能をもっと発掘して、大和魂みたいなノリでいけるといいなと思っています。

HRFQ : BedrockからStephaneさんとJohn Creamerのコンピレーションが出たときは、日本人として単純に嬉しかったのですが、実際にはどんな感想をもたれましたか?

Stephane : あのコンピレーションって、ジャケットに僕とJohnの写真が使われていたじゃないですか。あれで顔が一気に売れたって感じで嬉しかったですよ(笑)。ただ、Bedrockの音って僕らの普段やっている音とちょっと違うし、実際に選曲をしている時にBedrockから80枚くらいアナログが送ってこられて、いかにも使わなければいけないような雰囲気だったんですけど、結局1枚も使わなかったんですよ。だから彼らからしてみると多少の違和感はあったかもしれないですね。セールス的には結構よかったみたいなので、結果的には満足しているみたいでしたけど。

HRFQ : 今後ミックスCDなどの予定はありますか?

Stephane : あります。今、マネージャーのところにオファーが色々と来ているところですので、今年中にもう1枚出せたら良いなぁと思ってます。

HRFQ : 最近のお勧めのトラックは何かありますか?

Stephane : この間のマイアミでプロモ盤でもらったPeace Divisionの"Blacklight Sleaze"ですね。まだ出ていないかもしれませんけど。

HRFQ : 最後に何か日本のファンにメッセージをお願いします。

Stephane : 年をとってもクラブにいけるようなシーンを作って欲しいと思います。NYだと40代、50代の人もいっぱい遊びに来ていますからね。

End of the interview

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