HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Paul Jackson


イギリス人プロデューサー / DJ Paul Jackson と言えば、彼の友人でもある Darren Emerson のレーベル、 Underwater から次々とリリースされたヒット・トラックの数々でシーンを騒がせたアーティストだが、そんな彼が最近、12ヶ月の沈黙を破り、Dave Seaman による Renaissance 傘下のレーベル Audio Therapy からシングルをリリースすることとなった。

ヒット・トラック "The Push" と同様に、このニュー・シングル "The Seeker" は、初めてこのトラックを聴いた Dave Seaman 曰く、「ダークでメランコリック、そして瞬時にリスナーを引き込んでしまうようなトラック」だ。

「ちょうど Renaissance からリリースするコンピレーションを作っていたみたいで、"君のトラックが大好きなんだけど、まだリリースされてないトラックってある?"って聞いてきたんだ。だから、コンピレーションがどうって言うよりも、彼がどう思うかが気になって、'The Seeker' も含んだ何曲かを送ってみたんだ。そうしたら "すごいいいトラックだね。使いたいよ!"っていうポジティヴな返事が返ってきてね」

「理由があったのか、結局そのコンピレーションには使われなかったんだけど、その後、"Audio Therapy からリリースしないか"っていう話になったんだ。始めは、今後アルバムに入れるつもりだからって断り続けていたんだけど、ずっとプッシュされ続けてね。次第に考え方が変わっていったんだ」

Paul がリリースについての考え方を変えた理由の一つとして、レーベル内で大きな構造改革があったことから、Underwater からのリリース・スケジュールが大幅に遅れたことだったと言う。

「'The Seeker' は一年前にすでに完成していて、そのタイミングで Darren にも渡してあったんだけど、レーベルの現状や彼自身の問題によって、レーベル業が上手く進まなかったようでね。かなりバッド・タイミングだと思ったよ。だって Underwater の調子はうなぎ登りだったからね。去年は何だかすごく変な年だったよ」

またその他の理由として、DJとして急激に忙しくなったことも理由の一つだと話した。

「アルバムが作りたくてしょうがなかったんだけど、DJが忙しくて、夏の間もまったくスタジオに入ることが出来なくてね。アルバムの話もなんとなく先延ばしになってしまったんだ。制作に集中出来ていれば、すでに完成していたはずなのにね。でも、時間がなかったんだ」

「昨年の夏はDJとして一番忙しい時期だったと言えると思う。驚くべきことにね。去年の今頃か、もっと前にレコードを出したのが最後だったのに、突然この忙しさだよ。まぁ、こういうものなんだろうね。ランダムなものなのさ。注目される時があれば、そうでない時もある。心配しない時ほど物事は上手くいくなのかもしれないね」

以下は対談形式でのインタビューの模様をお伝えする
(Translation by Kei Tajima)

Skrufff (Jonty Skrufff) : 前回のインタビューで、"The Push" の制作にあまり苦労はしなかったと話されていましたが、"The Seeker" も同じくらいスムーズに進みましたか?

Paul Jackson : そうだね。イントロを先に作って、"3つのパーツに分かれたトラック構成" という全体的なアイデアをもとに進めていったんだ。このトラックがアルバムの目玉になるようイメージしながらね。ただ、アイデアが浮かんでくるほど「長すぎやしないか?」とか「リスナーが退屈しないか?」とか、心配するようになって、スタートした時よりもずっと短いトラックになってしまったんだ。大きなストリングの入ったイントロ、そしてリズミカルな中盤、そしてまた大きなストリングの入ったアウトロ…という風に、3つのパートに分かれてはいるんだけどね。ただ長さを11分から9分にしたのさ。だいたいリスナーが一つのトラックを聴いていられるのはそのくらいの長さなんだ。

"The Seeker" が完成した時、聴いてすぐ気に入ってくれたのが Pete Tong でね。彼にトラックを渡したんだけど、彼はすぐさま「これは難しいトラックだね」って言ったんだ。で、このレコードを渡した次の週に彼のショー (Essential Selection)で、ラスト・トラックとしてプレイしてくれたんだけど…多分最後が一番入れやすかったと思うんだ。彼がそうしてくれたことにすごく感謝してるよ。ラジオで11分のトラックを流して、リスナーが最後まで聴いてくれることを期待するなんて出来ないからね。

Skrufff : 普段からたくさんのトラックを作って、最終的に出来のいいものをリリース用に選んでいるのですか?

Paul Jackson : 最近自宅でラップ・トップで作業するようになったから、音楽制作のアプローチが変わったんだ。以前まではスタジオで、エンジニアの Richard と一緒に曲作りをしていたからね。スタジオにレコーディングしに行って、すぐにトラックを仕上げてたんだ。時は金なり…スタジオにいる間にもお金を払ってるわけだからね。時間を気にしてわざとトラックを早く仕上げるなんてことは絶対にしなかったけど、無意識に、仕事を早く仕上げるようにしてたと思うんだ。ただ、自宅で作業すると、いろいろなこと…時には余計なものまで試してしまっている自分に気付くんだ。例えばハイ・ハットの音に何時間もこだわってしまうとかね。だからたまには時間を決めて作業することも必要かもしれないね。でもそんなにたくさんトラックは作らないよ。

Skrufff : Dave Seaman のレーベルからリリースを決められたきっかけは何でしたか?

Paul Jackson : 違ったタイプのリスナーにも聴いてもらえるいいチャンスだと思ったんだ。どうして気が変わったのか、はっきりとは分からないけど、彼が再度声を掛けてきてくれた時点で、アルバムはまだ完成していなかったし、「違ったタイプのリスナーにアピールするためにも、また違ったレーベルでトラックを出すいいタイミングかもしれない」って思えたのさ。なぜか分からないけどね。

Skrufff : 2年前にインタビューをした際に、ちょうど莫大なレコード・コレクションを処分するところだと話されていましたが…現在でもレコードを集められているのでしょうか?

Paul Jackson : 最近送られてくるレコードの数がすごく少なくなって残念なんだけど、未だにアナログは買ってるよ。便利だから、最近ではCDの方を多く使おうとしてるけどね。アナログからCDに変えようとした瞬間は、今でもはっきりと思い出せるよ…。今住んでいる家から20分ほどの場所にあるヒースロー空港から飛行機に乗ったんだけど、何があったのか帰路では、家からかなり離れた距離にある "すごく素敵な" ガットウィック空港で下ろされてね。レコードがいっぱい詰め込まれたキャスター付きのレコード・バッグと、大きなCDケースを持っていたんだけど、スイスから飛行機に乗るときに、レコード・バッグのハンドルが壊れてしまっていてね。空港から家までの道のりはまさに地獄だったよ。

さっきまで引いて歩いてたものを持って運ぶんだからね。空港から駅まで、そしてヴィクトリア駅で乗り換えて、他の電車に乗って…ほんと悪夢だった。家に着いて、バッグを置いた途端、倒れちゃったよ。それで「もうヤダ、これ以上レコードを持って歩くのはまっぴらだ」って思ったんだ。今でも20〜 30枚くらいのレコードは持ち歩いてるけど、その他は全部CDだよ。買ったレコードはコンピューターに取り込んでるんだ。Mp3 フォーマットでは今 15,000 曲くらい持ってるよ。フォーマットを変えても、音楽に対する情熱が少しも変わらないのには驚いたね。自分はレコード・ジャンキーだと思ってたのに。パッケージやすべてにおいてね。まぁ、要するに音楽は音楽ということさ。

Skrufff : 2,000 枚ほど処分したようですが、残りのレコードはキープするのですか?

Paul Jackson : そうだね。今でも 20,000 枚ほど残っていて、今もこうやって話しながらレコードを眺めてるよ。実は最近も同じことを考えてね。あるトラックを探していたんだけど、「この莫大な数のレコードを使わないでおくのはもったいないな」って思ったんだ。実際、ただ壁に沿って並んでいるだけで、あまり触る機会が無いんだ。だけど、処分する気はないね。

Skrufff : 最近はどのようなサウンドをプレイされているのですか?

Paul Jackson : その場の雰囲気に合わせた、クロス・オーバーなプレイをしてるよ。常にこういうスタイルでやってきたんだ。僕のお気に入りは、タフなハウスからテクノへと徐々にビルド・アップしていって、そこに突然ブレイクス・トラックがプレイされるようなセット。自由に回せるほど、いいセットが出来るんだ。

残念ながら、特にイギリスでは一つの音楽スタイルに偏る傾向があって、すごくもったいないと思ってるんだ。僕はすべてのオルタナティヴ・ミュージックが好きでね。ただ、DJするときにプレイするのは、僕が普段から聴いている音楽のたった10%に過ぎない。人々が知らないトラックをプレイするのか、大声で歌わせるようなトラックをプレイするかは、DJならば誰しも歩くこととなる境界線なんだ。僕は、妥協はしたくないけど、人々にアピールするようなプレイをしたい。ほとんどのトラックは、DJによってプレイされなければ、オーディエンスの耳には一生届かないようなものばかりだし、クラウドだってそういったトラックを気に入ってくれるはずなんだけど、同時に、彼らの知らない曲ばかりかけて、勝手に楽しんでもらうことを期待することはできない。だから常にバランスをとりながら、ベストを尽くすことが大事なんだ。

End of the interview

Paul Jackson の 'The Seeker' は Audio Therapy から近日発売


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