HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Oliver Ho Interview

UKのテクノシーンをリードし続けるDJ/プロデューサーであるOliver Ho。彼の精力的な活動はアーティストとしての枠だけに留まらず、META、Light & Dark、Existという3つのカラーの異なったレーベルを運営するなど、ビジネスのエリアにおいても大きな成功を収めてきた。

約5ヶ月ぶりとなる再来日を果たし、2月28日に代官山のClub Airにて開催された「World Connection - An Evening With Oliver Ho」でその圧倒的な実力を日本のクラウドに再認識をさせたOliver に、samurai.fmのHashがインタビュー。最近のテクノシーンの状況から、自らのレーベルについての事、そして日本のクラブシーンについて感じるところ等をたっぷりと語ってもらった。

> Interview & Translation & Introduction : H.Nakamura (HigherFrequency) _ Photo : Jim Champion

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HigherFrequency (以下HRFQ) : 5ヶ月ぶりに日本に戻ってきてどうですか?

Oliver Ho : とても嬉しいね。日本に来るのは大好きで、特に東京に来るのはずっと楽しみにしていたんだ。この国の人たちの音楽に対する姿勢は、イギリス人たちの姿勢とは違っていて、もっとオープンマインドな感じがするからね。例えば、色んなタイプの曲をプレイしたとしても、日本人の場合は多少の好みの違いは大目に見て、長い時間をかけてDJのプレイに付き合おうとするところがあるでしょ。でも、イギリスだとこうはいかなくて、5分で簡単に背を向けられてしまう事もよくあったりするんだ。その意味では日本のお客さんの方がもっと辛抱強いのかもしれないね。あと、前回来日した時に小さな街を訪れる機会が何回かあったんだけど、そのおかげで日本には東京以外にも色々と見るべきものがあるんだ、と言うことに気付けたんだ。

HRFQ : 現在のイギリスにおけるテクノミュージックの状況についてどう思いますか?

Oliver : 相変らずたくさんの人たちが良い音楽を作り続けているし、テクノに対する熱意も相変らず強いものがあると思う。でも、去年はある種の淘汰が行われた年で、実際にMuzikやGroovetech、Prime DistributionやIntegralといったたくさんの会社が倒産に追い込まれてしまったよね。この5年間、本当にたくさんの大きな会社が現れ、イギリスのテクノシーンから巨額の利益を上げてきた訳だけど、ちょっと急速に拡大しすぎたきらいもあって、最近ではある種のダウンサイズ現象が起きていると思うんだ。その結果、必要のないものがどんどんスクラップにされて、テクノを心から愛している人たちだけが残ったというのが今の状況じゃないかな。

HRFQ : あなたや周りにいる人たちの日本のテクノシーンについての一般的な見方はどのようなものですか?

Oliver : 日本でテクノの人気がとても高い事はみんな知っているよ。Fumiya Tanaka、DJ Shufflemaster、Ken Ishii、Takkyu Ishinoといった人たちも全世界をまたにかけてジャパニーズ・テクノを広めていっているしね。その意味で彼らは日本のダンスミュージック・シーンの大使としての役目を十分に果たしているんじゃないかな。それに日本でのテクノ人気の高さは、来日するアメリカやヨーロッパのDJたちが全員素晴らしい時間をここで経験している事からもよくわかるよね。みんな日本でのプレイが大好きなのは、明らかにヨーロッパにいる時とは違った雰囲気をひしひしと感じながらプレイする事が出来るからで、彼らにとっていつもと違うオーディエンスに向かってプレイが出来るまたとないチャンスだからだと思うんだ。あと日本のクラブでプレイしていつも驚かされるのは、技術的な面でのクオリティの高さだね。このサウンド・クオリティに対するレスペクトは、他に類を見ないくらい素晴らしいものだと思うよ。

Oliver Ho

HRFQ : 最近のDJ活動の方は如何ですか?去年やったギグの中で一番記憶に残っているものは何かありますか?

Oliver : 去年の大晦日にオランダであったイベントで、Blueprint recordsを経営しているJames Rustinと一緒に6台のターンテーブルを使ったショウをやったんだけど、その時の事が印象に残っているね。それまでは、ターンテーブルを数台組み合わせてのDJプレイに対して皮肉っぽい見方しかしていなくて、その時もあくまで実験的な試みとしてやってみたんだけど、実際にやってみるととても面白かったんだ。しかも僕らがやったのは、ただ単純に6枚のダンストラックを6台のターンテーブルでかけるような形ではなくて、アンビエントやアカペラのレコードを織り交ぜたりしながらのプレイだったから、このフォーマットの違った活用法を追求する事が出来たんじゃないかと思っている。それ以外では主にスペインやチェコ、ポルトガル、クロアチアといったヨーロッパの国々でプレイしてきたかな。あと、今度アメリカにも行く事になっているんだ。ヨーロッパ以外でプレイするのは大好きで、特にスペインはUKテクノがとても盛んなので楽しいし、アメリカやコロンビアに行くのも楽しみだね。

HRFQ : 制作面についてお伺いしますが、現在Meta、Light & Dark、Existという3つのレーベルを運営されていますね。それぞれのレーベルコンセプトやその違い、それにあなたが描いている戦略などについて教えていただけますか?

Oliver : Metaは僕が最初に設立したレーベルで、他人のレーベルから出すのがふさわしくないような音楽をリリースするためにスタートしたのがそもそもの経緯なんだ。僕の非常にパーソナルな実験的作品や、他の人がなかなか耳を傾けないようなサウンドをリリースしていくためのレーベルと言えばわかりやすいと思う。このレーベルでは、ボーカルものやファンクの影響を受けたトラック、それにアフリカやエスニックのリズムを散りばめたトラック等をリリースしているんだ。

一方のLight & Darkは、パーカッシブ的な要素がより控えめになった、あまりクラブプレイを意識していないような楽曲をリリースするためのレーベルとして捉えている。雰囲気的にはもっとダークでミニマル色が強いながらも、サウンド面により重点を置いたものが多くて、中にはアンビエントのカテゴリーにも食い込んでいくような作品もあるんだ。だからLight& Darkは、ダンスフロアーの感覚を持ちながらも、よりアブストラクトで実験的なサウンドを発表していく場と捉えてもらって良いと思う。

最後にExist。ここはマルチメディアの考え方に立ったレーベルで、例えばショート・フィルムや写真集に音楽を付けていくと言った、複数のアーティストによるコラボレーションという考え方を基本コンセプトに据えたレーベルなんだ。だから、このレーベルで扱われる楽曲は、基本的にはダンス・フロアとの関連性も求められなければ、必ずしもエレクトロニックミュージックである必要もない。あくまで妥協のない作品をリリースしていく為の道筋として捉えられているんだ。ただ、こういう活動をやっていく上での問題点は、内容が非常に「独特なこと」であるが故にマーケティングがとても難しいということ。特にレコード会社やディストリビューターと言った人たちにその価値を理解してもらうのにとても苦労をしているのも事実なんだ。だから、Existのプロジェクトは進んではいるんだけど、2年に1枚と言った感じの遅いペースの歩みになっているのが現状と言っていいかもね。

Oliver Ho

HRFQ : 今、Existはマルチメディアの要素を取り入れたもので、それぞれのリリースはいろんなメディアの可能性が追求されたものとおっしゃいましたが、どうしてこのような考え方を持つように至ったのですか?最近のオーディオCDのマーケットの落ち込みという事実はあなたのこの考え方に影響を与えましたか?それとも、あくまでクリエイティブな観点から思いついた事ですか?

Oliver :この厳しい状況は何も今に始まったことじゃないと思うし、むしろある意味では今の状況の方が多少良くなっている部分もあると思うんだ。みんなのマルチメディアに対する意識も高くなってきたと思うし、DVDフォーマット自体も、一枚のディスクの中にフルアルバムやショート・フィルムなどを収録できる、立派な音と映像のマルチ・メディアへと成長を遂げてきたわけだからね。ひょっとしたら、ダンスミュージックの売上が下がっている事実さえも、むしろ(DVD作品のような)それ以外のプロジェクトの状況が良くなってきている証拠かもしれないと思ったりもするんだ。だから今こそ、こういったマルチメディアのプロジェクトにもっとエネルギーを注いでいくべき絶好のタイミングなんじゃないかな、と思う。でも、クラブ・カルチャーやダンスミュージックにダイレクトに結びつくようなものを作りたいかと言えば決してそうではない。クラブミュージックと言うとみんなどうしてもある特定のサウンドを期待してしまうだろうし、僕はクラバーたちが家に戻った後に聞く為だけのような音楽は作りたくないと思っているからね。今のニューヨークでは、ダンスミュージックとは直接結び付いていないマルチメディアのプロジェクトが盛んになっていると聞くけど、むしろこういった形のアートにこそ僕はいつも興味を感じてしまうんだ。

HRFQ : Jeff Millsが最近「Exhibitionist」というタイトルのミックスDVDを出して、そのポテンシャルを世の中に示した事は記憶に新しいですが、これが我々の今後向かっていく方向だと思いますか?もしそうであるとすれば、あなたが自分の作品を出すときにはどのようなビジュアルを収録したいと考えていますか?

Oliver :このミックスDVDの中で彼がやった事はシンプルでとても面白いと思ったね。Coldcutがやるようなスピード感たっぷりでダイレクトな方法論とは対極的なものだったし、もっと「インスタレーション」の世界に近い、インスタレーションそのものがコンセプトになり得ているような作品だったように思うんだ。特にビデオカメラに向かって彼がDJをしている姿だけと言う、あのローファイ感は最高だったね。僕自身のことに関して言うと、いまちょっとアブストラクトな感じのショート・フィルムの制作を行っている最中なんだ。もし自分のレーベルExistで何かビジュアル・コンテンツを持った作品を出すとしたら、他の人たちと同じ土俵で競合するような作品は出したくないと考えているんだ。この手の作品にとって一番大切なのは、ハイテクで予算の高い映像を作ることではなくて、どんなアイデアを作品に盛り込むのかって事だからね。自分にとって一番大切にしているルールは「ルールを持たないって事」と「一つの方向だけに自分をプッシュしない事」、それに「限定されたプロセスに拘らない」って事かな。そうすれば他の可能性の道をふさがないで済むからね。

Oliver Ho

HRFQ : 日本にも非常に多くの才能をもったDJやアーティストがいます。にもかかわらず、彼らがヨーロッパのダンスシーンの壁を破ることがなかなか実現しないのが現状のようです。また、日本にはこれだけ大きなパーティーのシーンがあるにもかかわらずダンスミュージックのレーベルは本当に数が少なく、その理由として日本のレーベルがヨーロッパのディストリビューション会社に引っ掛かる事が少ないことがよく挙げられます。これは単に日本とヨーロッパとの間にある距離の問題から起因することだと思いますか?それとも日本人は何かダンスミュージックに大切な何かを見落としているんでしょうか?

Oliver : 僕はカッティング・エッジな音楽のシーンにおいて、ある一つの国だけが世界をリードし続けているような事は絶対にないと思っているんだ。日本にだってカッティングエッジな事をやっている人はたくさんいるはずだからね。ただ、一つだけ問題点を指摘すると、成功したアーティストとその下の層の間にとても大きなギャップがあって、「成功した日本人アーティストだけしか認知されない」という状況が出来上がっている事だと思う。これは何も日本に限っての事じゃないけどね。まぁ、その点においてアメリカやイギリスはある種ラッキーなポジションにいると思うし、やはり自分達のアーティストを輸出できるのは大きな強みだと思うんだ。ただ、他の国でもアーティストを輸出するより海外からアーティストを輸入する事に興味を持っているところは多いけど、日本では特にたくさんの外国人DJがプレイしているような気がするね。

HRFQ : やはり言語が大きな問題になっているとも思いますか?

Oliver : それも一つの大きな要素である事は間違いないだろうね。やはりもっと積極的に自分のアイデアを英語で表現できるようにならないと、なかなか自分たちを海外に売り出していくのも難しいんじゃないかな。

HRFQ : 近年CDだけでDJプレイをする人が増えてきて、これにはさすがに驚かなくなりましたが、最近ではCDケースすら持ち歩かず、ラップトップとTraktorとMP3だけで全てのセットを完結するようなDJも登場してきましたが、これに関してはどう思いますか?

Oliver : ノイズを出せる方法であれば何でも良い・・・これが僕の哲学だ。でもラップトップでのミックスが、完全に何かに取って代わってしまうような事になるのであれば反対だね。「MP3の登場はアナログの死を意味する」なんて事を聞くと、みんなヒステリックになってしまうと思うんだけど、本当にそんな事になってしまったら確かにまずいよね。まぁ、みんながPCを買うためにアナログのコレクションを完全にやめてしまう、なんて事にならない限りは大丈夫だとは思うけど。

Oliver Ho

HRFQ : あなたに大きな影響を与えたアーティストの名前を教えてください。

Oliver : 最初にテクノを作るきっかけを与えてくれたのはJeff Millsで、彼は単にアーティスト的な面からだけでなく、ビジネスセンスという面においても僕がいつも尊敬している人なんだ。そのビジネスセンスのおかげで彼のレーベルは今までずっとインディペンデントな形で運営されて来たわけだし、その意味で彼は「他人のコントロール下に置かれずにテクノレーベルを運営していく」と言うことに関して良いお手本を示してくれたと思うよ。あとその他にも、テクノと直接関係のない人たちからインスパイアを受けることもあるかな。ここ3年ほどはMiles Davisから強いインスピレーションを受けているし、特にBitch's Brewに代表されるような彼の1970年代の活動から大きな影響を受けているんだ。僕にとってMiles Davisは一番大きなインスピレーションを与えてくれる存在で、テクノの制作を止めてしまった後に、部屋に座って彼の音楽を聴き続けられるとすれば、どんなに幸せな事かと思うよ。あと、Steve Reichからも大きなインスピレーションを受けてきたね。彼はTerry RileyやPhilip Glassらと共にミニマル・クラシック・ミュージックの青写真を作り上げた人間なんだ。他にもブルースやジャズなんかが好きかな。あと、「鼓動」のような日本の伝統音楽も好きだね。彼らは一年のうちに何回かイギリスに来ているので、いつかは行ってみたいと思っているんだ。彼らのように自分のやっている事にスゴク打ち込んでいる人を見るとインスパイアされるね。

HRFQ : 読者に何かメッセージはありますか?

Oliver : ダンスミュージックが好きで、それについてもっと勉強したいと思っているのであれば、単に家で座ってダンスミュージックを聴いているだけじゃダメで、もっとオープンマインドでないといけないと言うことを理解する必要があると思う。僕もダンスミュージックは大好きだし、もちろん自分が仕事をしているのもその世界だと言うことはわかっている。でも、常により大きな全体像を見るようにしていれば、リアルで素晴らしいインスピレーションもドンドン浮かんでくるだろうし、自分のやっている事にももっと価値を見出していけると思うんだ。音楽を作っているのであれば尚更ね。まぁ、より多くの人がそういった姿勢を持つようになれば、それは音楽そのものにとってもより良い状況になっていくんじゃないかな。

End of the interview

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