HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Nick Warren Interview


20年以上のキャリアを持つDJとして、また Way Out West 名義でのプロデューサー活動を通して、ダンス・ミュージック・シーンにおいてトップ・クラスの位置をキープし続けるアーティスト、Nick Warren。特にプログレッシヴ・ハウス・ファンの間では、そのダークな世界観とタフなベースライン、美しいメロディーとスピード感が同居するセット・スタイルが絶対的な支持を得ている彼、今年8月には、そんな彼の人気を示すように、イギリスの Global Underground がリリースする代表的コンピレーション GU シリーズにも、コンパイラーとして最多である6作品目を飾る "GU #28 Shanghai" をリリースし、常にハングリー精神を持ち続ける "現役" な仕事ぶりを披露してくれた。

日本には約3年ぶりの来日となった彼、「もしや、日本嫌い?」といった疑問も飛び交う中、HigherFrequency は、プレイ前の Nick Warren とのインタビューに成功。気になる本音に加え、"GU #28 Shanghai" などについて訊いた。

> Interview : Matt Cotterill (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Kei Tajima (HigherFrequency)

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HigherFrequency (HRFQ) : 今日はお時間を有難うございます。確か以前来日されたのは3年前でしたよね?

Nick Warren : そうだね。ずいぶん前だよ。

HRFQ : ずいぶん前ですね。

Nick : 本当は去年プレイしに来る予定だったんだけど、Way Out West のライブの方が忙しくて、DJギグをかなりキャンセルしなくちゃならなかったんだ。そりゃあ、頭にきたさ。 WOMB は世界中でも一番のお気に入りだからね。素晴らしいクラブだよ。ここでDJするのが大好きなんだ。

HRFQ : どうしてこんなに長い間来日しないのか、少し心配してしまいましたよ。

Nick : ん〜そうだね。この3年の間、本当は2回来る予定だったんだけど、2回とも Way Out West のライブとギグが重なっていて、ライブを優先しなくちゃならなかったんだ。

HRFQ : じゃあ「スシが嫌いだから」とか、そういう理由ではないんですね?

Nick : 違う違う(笑)

HRFQ : それでは #28 Shanghai の話をしていきましょう。本作は、Global Underground の28作目で、あなたの GU 作品としては、なんと6作目になるわけですが、Kosmos Epsilon や Derek Howells 、James Holden といった新鋭アーティストの作品が多く含まれていて、すごくインターナショナルな雰囲気が感じられる作品ですね。しかも、同時にものすごくカッティング・エッジで、プログレッシヴ(前衛的)な感じもするのですが…

Nick : こういった若いアーティストを選んだ理由には、僕が音楽をつくり始めた時のことを思って、考えたことがあったからなんだ。Way Out West としてトラックをつくって、アルバムの契約をして、制作費をもらってスタジオに入って…ってことが今の時代では全くなくなってしまったんだ。今の若いアーティストにそういう待遇はないんだよ。レコード会社は若いアーティストとアルバムの契約をしないしね。シングル1〜2枚をつくるための少量のお金なら渡すかもしれないけど。でも、「ここに30ポンドあるから、アルバムをつくって来い」っていう感じにはならないんだ。世界中をツアーして回ってると、自宅で楽曲制作をしてるような若いアーティストから、たくさんの素晴らしい音楽を受け取るんだ。だから、そういう若者が集まれるような場をつくりたかったのさ。

HRFQ : 若いアーティストのショーケースという感じですね。

Nick : そうなんだ。その通り。

HRFQ : 新しいサウンドがシーンに入ってくると共に、エレクトロやアシッド・ハウス、初期のアナログ・サウンドなどに人々の注目が集まって、それとは対照的に、プログレッシヴ・ハウスに対するバッシングが激しくなっていますが、これに対してどのような意見をお持ちですか?

Nick : 僕にとっては、「裸の王様」みたいな感じさ。みんな「すごくいいよね!」って口を揃えて言うけど、実際はほとんどが同じような音なのさ。エレクトロ・シーン全体があまり進化していないしね。確かに、たくさんのプログレッシヴ・ハウス系の DJ が、エレクトロ系の音をセットに取り込んでいて、すごくブームになっているし、それに、今夜僕がプレイするレコードも、ほとんどが少しエレクトロ色のあるトラックではあるんだ。でも実際は、プログレッシヴ・テクノって感じで、太いベース・ラインと、アナログ・サウンドは入るけど、アップ・リフティングで、ざっくりとしてて、すごく力強いサウンドなんだ。僕はそういった雰囲気の音をプレイし続けてきたからね。エネルギーの感じられるトラックじゃないとダメなんだ。10分も古いヤマハのシンセだけ聴き続けるなんて退屈だよ。進化しないとダメなんだ。

もちろん中にはいい音楽もあるけど、探す努力をしなくちゃいけない。それに、最近ではファイル・シェアが普及して、一線のDJたちは全員同じ音楽をシェアしているような状態になっていてね。新しい音楽が送られてきては、AIM みたいなものを通してシェアしてるんだ。その結果、シーンがものすごくつまらないものになってしまったというわけさ。だから僕は新しい音楽を探そうと努力してるんだ。プロデューサーたちと直に話して、自分にあったものがないか訊いたりね。しかも、僕は今 Hope Recordings の A&R として働いていて、この数ヶ月ですでに15曲くらい契約していて、来年はいいトラックが毎月リリースされていく予定だよ。その中にはかなりヤバいトラックが含まれてるんだ。

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HRFQ : 素晴らしい。ミックスの中には Hardfloor の12年前のトラックが含まれていますが、興味深い選曲ですね。

Nick : そうだね。このトラックを入れることによって、あることを証明したかったんだ。12年が経過しても、色あせないトラックがあるってことをね。最近は、ほとんどのダンス・ミュージックが一ヵ月後には時代遅れになってしまう。ビッグ・スター的存在のバンドはもういないんだ。Orbital も、KLF も、Prodigy も、Underworld も今の時代には存在しない。多くの人にレコードを買いたいと思わせるようなバンドが存在しないのさ。そういった現象がまったくみられなくなってしまった。これってすごく危険な状況だと思うんだ。だって、音楽をつくっている人はいるのに、多くの人がそれに気付いていないってことだからね。ただその理由は、長い時間をかけて良いトラックをつくることをしなくなったからなんだ。最近のプロデューサーの中には、仕事から帰ってきて夜に曲作りをして、一週間後にはトラックを仕上げてしまうっていう人が多い。だからあまり中身がないトラックになってしまうんだ。そういうことがあって、今回 Hardfloor のトラックを入れたのさ。12年経った今でもかっこいいと思えるトラックだからね。

今回のミックスは Brothers in Ryhthm や Kylie (Minogue) との仕事で知られる Alan Bremner というプロデューサーとの共同制作で、彼にはエンジニアとしても仕事をしてもらったんだけど、彼が本当に素晴らしくてね。Hardfloor のトラックからKosmos のトラック までのミックスを5分にまとめてくれたんだ。だからこのアルバムに関するほめ言葉は素直に全部受け取れないんだ。ほとんどが Alan のおかげでもあるからね。

HRFQ : デジタル・ダウンロードについての質問ですが、以前と比べて、最近では何枚くらいレコードを買われているのですか?

Nick : 今でもかなり大量に買ってるよ。バカみたいにね(笑)。絶対にプレイしないようなレコードだって気に入ればたくさん買ってしまうんだ。ドラムン・ベースだって、ダウン・テンポだって、ディープ・ハウスだって、気に入れば何でも買ってしまう。今でも、レコードには月に 1000 ポンドくらい使ってるよ。レコードのせいで、僕の家の床は曲がりかけてるんだ(笑)。だから買うのを止めないといけないんだけどね…リタイアしたらかなり大掛かりな焚き火ができそうだよ。レコードの焚き火がね!

HRFQ : 何度も尋ねられた質問かもしれませんが、リタイアについて考えられたことはありますか?

Nick : 全く考えていないんだ。だから今でもこうして続けてるのさ。今でもこの仕事が好きなんだ。「サウンドトラック制作に移行する」って言う方が簡単なのかもしれないけど、まだこの先のことについては全く考えてないんだ。だからDJに飽きて、満足な仕事が出来ていないと思ったら、ストップすることになるんだろうね。例えば John Digweed みたいなすごくしっかりしてるタイプの人間は、きちんと人生プランを立てていて、彼が30年後に何をしているかも分かってるような感じだけど、僕は来週何をしてるかも分からないような人間なんだ。子供の頃からそんな感じだったからね。それが変わるとは思えないな。

HRFQ : 最新のプログレッシヴ・ハウス・トラックには、エレクトロではなく、'90年代中盤の DJ Duke や Armand Van Helden といったアーティストに代表されるハード・ハウスに影響されたものが多くありますが、そういったトラックに対してどのように思われますか?

Nick : いいと思うよ。だけど実際、リヴァイヴァル系のサウンドにはあまり興味がないんだ。ブレイクス・シーンも同じさ。僕のところには、昔のトラックをリメイクしたようなブレイクスのトラックが毎週送られて来るんだ。後ろを振り返るより、新しいサウンドをつくるべきだと思うんだよね。プロデューサーとして自分を売り込むのは大事なことなのに、最近のプロデューサーには、そういう動きをしている人が少ないと思う。彼らの多くが一週間ごとに曲をつくって、その日暮らしで何とか繋いでるんだ。だから同じことの繰り返しさ。中身のある、15年後にもなお評価されるような音楽をつくるには、時間がかかるんだ。一週間じゃ無理だよ。

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HRFQ : Way Out West としての今後の活動にはどんなものがありますか?

Nick : 今年はずっと Way Out West のリリース・ツアーに出ていたんだけど、またスタジオに入るよ。実はもう入ってるんだ。別の新しいプロジェクトとしてね。Way Out West ではあるんだけど、その新しいプロジェクト名は "Tales of The Rabbit Monk (和訳すると "ウサギ僧のお話" ) " なんだ。

HRFQ : すごい名前ですね!

Nick : 基本的にはサイケデリック・ハウスのプロジェクトでね。Tangerine Dream みたいにトリッピーなんだけど、ベースラインはしっかりしてる音で、一曲が15分くらいの長さなんだ。完璧に自己マンなプロジェクトだけど、このおかげでまたスタジオに入るのが楽しみに思えるようになったよ。まだ曲をつくり始めたばかりなんだけど、古い Cure の音源からビートをたくさんサンプリングしてるんだ。おかしなことに、彼らの音は今でもファンキーに聴こえるんだよね。

HRFQ : Jody や Damon もそのプロジェクトに参加しているのですか?

Nick : Damon は Cocteau Twins の Liz Fraser と結婚していて、彼らは今一緒に Liz のアルバムを作っているんだ。Damon の娘と Jody の娘、僕の娘はみんな一緒の学校に行ってるから、毎朝顔を合わせていて、学校の校庭で話し合って制作のプランニングをしてるんだ。だから来年には彼らも関わってくれることになると思うよ。

HRFQ : Nick、今日はお話できて光栄でした。3年以上あなたを待ち続けたファンにメッセージをいただけますでしょうか?

Nick : 日本のクラウドは素晴らしいし、特にこのクラブは素晴らしいと思うよ。こんなすごいライティング見たことないしね。だから、日本のシーンに何も悪いところはないのさ!

End of the interview

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