HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Luke Fair


カナダにおけるダンスミュージック・シーンを代表するパイオニアとして、第一線で活躍を続けている DJ / プロデューサー Luke Fair。「ヒット曲を出せば、DJ として有名になれる」という DJ 界の常識が少しづつ崩れつつある中、エクレクティックなトラックを選りすぐり、それをエディットし、自己流にアレンジしてプレイするという DJ スタイルを持つ彼の存在は、先日 HigherFrequency もインタビューを行った UK の Desyn Masiello と並んで、これからのダンス・ミュージック・シーンを担っていくとして熱い視線を浴びている。

また最近では、John Digweed 主宰によるレーベル Bedrock のコンピレーション・シリーズ "Original Series03"のコンパイラーにも抜擢されるなど、話題に事欠かないLuke。そんな彼が、5月3日、ゴールデンウィーク真っ只中に行われたOsamu M主宰によるパーティー Submerge に出演するため来日し、HigherFrequency もインタビューを決行、話題の"Original Series"や、最近のカナダのシーンの様子などについて訊くことが出来た。

> Interview : Matt Cotterill (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Kei Tajima (HigherFrequency) _ Photos : Mark Oxley (HigherFrequency)

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HigherFrequency (以下HRFQ) : はじめまして。まず、今日は忙しいところを有難うございます。

Luke Fair : 問題ないよ。

HRFQ : 日本は初めてではないですよね?

Luke : 一度来たことがあるよ。

HRFQ : 戻ってこられていかがですか?

Luke : すごくいいよ。前回ここに来たときは、一日しか滞在しなかったから何をすることも出来なかったんだけど、今回は2日間だから、少しでも見て回れるといいなと思ってるんだ。

HRFQ : 東京にいる間に行こうと思われている場所はありますか?

Luke : 野球を観に行きたいんだよね。もし明日のゲームのチケットが取れたらそうするかな。

HRFQ : ところで、その前回のギグの際は、Desyn Masiello と一緒にプレイされましたね。実は2ヶ月ほど前、Desyn が来日した際に、彼と会って話を伺う機会があったのですが、彼も相当の音楽の虫で、様々なジャンルのトラックを見つけ出すために、毎日相当の時間を費やしていて、そうやって見つけたトラックを今度はリエディットして、自分流にカスタマイズしてプレイしているということだったんですが、そういった点であなたと彼の DJ スタイルは非常に似ていると感じました。あなた自身、彼のスタイルと自分のスタイルにどのくらい共通点を感じますか?

Luke : そうだね。すごく似ていると思うよ。同じ曲をプレイすることも多いし、DJ スタイルもかなり似てる。だから去年の夏、彼とツアーをしたときはすごく良かったんだ。どっちが先にプレイしようが、後にプレイしようが、あまり大きな問題にはならなかったからね。そのくらい僕たちのセット・スタイルは似ているってことさ。それに、新しいサウンドをプッシュしたり、トラックを自分流にカスタマイズしているっていうところにも共通点があると思うよ。

HRFQ : DJ によるこのようなアプローチの仕方は、将来的にダンス・ミュージック・シーンにおいてメインになってくると思いますか?

Luke そうだね。もう既にメインになって来ているんじゃないかな。最近ではネット上での楽曲ダウンロードが一般的になって、ごく一部の DJ だけがエクスクルーシヴな楽曲をプレイ出来るっていう状況は崩れつつあると思うんだ。10年前なら、Sasha が他の誰にも手に入らないような楽曲をプレイすることなんて普通だったのに、最近ではエクスクルーシヴな楽曲なんてないに等しいよね。だから、トラックをリエディットしたり、人目につかないようなアンダー・グラウンドのトラックをディグしていくこと以外に、DJ として有名になっていく道はないんじゃないかな。だから、さっきも言ったように、確実にこういうやり方がメインになっていくと思うよ。

Luke Fair Interview

HRFQ : あなたはカナダにおけるダンス・ミュージック・シーンのパイオニアとして、世界レベルにまでシーンの成長を導いてきましたが、最近のシーンの状況はいかがですか?

Luke : すごくいいと思うよ。ヴァンクーヴァーやトロント、モントリオール以外ではあまりプレイしたことがないんだけどね。というのも、その3箇所がカナダ中でも一番クラブ・シーンが発達している場所だと思うんだ。特にトロントやモントリオールなんかは、北アメリカでもベストと言えるくらいで、今まで僕がプレイしたことのあるアメリカのどの都市よりも発達してるんじゃないかな。まぁ、ほとんどの全部の都市でプレイしたんだけどね。

  そんな感じで、カナダのシーンはすごくいい状況だし、僕の出身地でもあるトロントでは、ほとんど全てのジャンルで、大きいシーンが確立しているんだ。例えば大きいドラムン・ベースのシーン、大きいテクノ・シーン、プログレッシヴ・ハウス・シーン、ハウス・シーンといった感じでね。だからすごくいいと思うよ。

HRFQ : 日本のダンス・ミュージック・シーンが世界レベルで認識されるためには、どんな努力が必要だと思いますか?

Luke : 分からないな…(笑)。日本のシーンのことはあまりよく知らないんだ…というのも、ここには前に一度しか来たことがないしね。でも、Osamu Mみたいに John Digweed や Sasha といったアーティストによくプレイされてるような世界レベルの曲をリリース出来るプロデューサーの存在は、シーンを大きくするきっかけになると思うよ。

HRFQ : 先日 Bedrock から初のアーティスト・アルバムとして、Pole Folder の 'Zero Gold' がリリースされましたが、あなた自身がアーティスト・アルバムをリリースする際には、やはり Bedrock ということになるんでしょうか?

Luke : そうだね。随分昔に彼らと契約を済ませているんだけど、その契約上では絶対に Bedrock からリリースすることになってるよ(笑)。でも、アルバムをリリースするのはかなり先になりそう。僕自身も、まだフルのアーティスト・アルバムをつくって、満足してリリース出来るようなレベルには到達していないんだ。あと数年はかかりそうだよ。

HRFQ : 最近、Bedrock の original series 'The Third Installment' を手がけられましたよね。コンパイルされるにあたってどんなコンセプトがあったのでしょうか?

Luke :僕のライブ・セットを70分間に凝縮したって感じかな。アルバムの仕上がりにはすごく満足してるよ。いろいろな要素が入っているし、トラックのリエディットもたくさんしてある。ファンキーだし、メロディックだし……作品自体は数週間前に仕上がったばかりなんだけどね。リリースは確か6月20日だったかな。。

HRFQ : トラック・リストを見たのですが、知らない曲が多かったので楽しみです。さて、あなたの音楽的なバック・グラウンドについてなのですが、初めて手がけられたリミックス作品が U2 の "Silver and Gold" ということもあって、やはりロック・ミュージックの影響も多く受けられてきたのでしょうか?読者もあなたがどうやってダンス・ミュージックに傾倒して行ったのか興味があると思うのですが。

Luke : そうだね。まぁ、ほとんどの人がダンス・ミュージックにのめり込んでいくのと同じ流れだと思うんだけど、僕の場合は Derek Carter のギグだったんだ。彼はそれまで観た DJ の中でも一番ビッグなDJで、彼のセットには本当に驚かされたよ。それまで聴いてた音楽で、今も影響を受けているものと言うと…何だろう? 僕って、結構いろいろな音楽を聴いて育ってきたんだよね。ヒップ・ホップに、ロックに、インディー…ほとんど全部のジャンルを聴いてたよ。だから、はっきりアーティスト名を挙げるのが難しいんだけど…ダンス・ミュージックというくくりで言えば、Primal Scream かな。

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HRFQ : もちろん 'Screamadelica' が彼らのベスト・アルバムですよね?

Luke : 間違いないね!

HRFQ : よかったです。次に、スタジオ・セットアップについてお伺いしていきたいんですが、以前、スタジオでは Cubase をシーケンサーとして、そしてSoundforge をエディット用に使われていると話されていたのを呼んだのですが、今でも同じセットアップなんでしょうか?

Luke : その時からは変わったね。今、Soundforge は PC 用に使ってる。それに、最近マックの G4 のラップトップを買って、Cubase はその中に入ってるんだけど、エディット作業は全部 Pro tools でやってるんだ。今は外部のシンセサイザーとかは使っていなくて、全てサンプルをベースに、Reaktor 等のソフト・シンセを使って制作しているから、割とシンプルな感じだよ。

HRFQ : DJ セット・アップのほうはいかがですか?Traktor などのニュー・テクノロジーは使われていますか?

Luke : う〜ん。あんまり使わないかな。今プレイには全部CDを使っていて、もうレコードは使ってないね。普段からレコードはたくさん買ってるんだけど、買った後に全部 CD に焼いちゃうんだ。それにはいくつか理由があって…まず、そうしないとエディットが出来ないし、CD の方が移動も簡単だし。

HRFQ : 移動の件は、以前 DJ Gregory もインタビューで話していましたね。持ち運びに便利なので、彼も CD を使っていると言っていました。

Luke : DJ Gregory も最近ここに来てたの?

HRFQ : そうですね。確か2・3ヶ月前でしたよ。

Luke : そうなんだ。彼の作品大好きなんだよね。

HRFQ : 情熱的ですよね。ご本人も非常に情熱的な方でしたけど…OK、それでは、あなたの一番好きな DJ/プロデューサーは?

Luke : う〜ん…分からないな。

HRFQ : トップ5ではいかがですか?以前は Satoshi Tomie を挙げられていたと思うのですが…

Luke : そうだね。でもそれは随分前の話だから…彼のことは今でもすごくリスペクトしているんだけど、今の彼の方向性と僕がこれから向かっていく先はあまりクロスしていかないような気がするんだ。最近すごく好きなのは Sebastian Leger かな。それに、もちろん Sasha はいつでもトップ5に入るし…彼は今、新しいライブ・セットのスタイルを確立しようとしてるんだよね。それに…やっぱり Derek Carter かな。最近また彼のセットを観る機会があったんだけど、素晴らしかったんだ。彼のプレイする曲全部に感動したよ。

HRFQ : 今日はどういったセットを披露してくれるのですか?

Luke : 全体的にファンキーな感じにしたいな。初めはダーティーな感じで、次第に後半に向かってメロディックになっていく…ごく簡潔に言えばこんな感じかな!

HRFQ : ルーク、今日はいろいろとお話できて楽しかったです。ありがとうございました。最後に一つ、カナダのダンス・ミュージック・シーンについての質問をしたいと思います。以前、どこかのインタビューで、「カナダで活躍しているほとんどの若手アーティストが、カナダのダンス・ミュージック・シーンはまだ未熟だと感じているのか、積極的に自分の作品を有名な DJ やプロデューサーに送るという作業をしない」と話していらっしゃいましたね。一方あなたは、リミックス作品を John Digweed や、Pete Tong といったビッグ・ネームに送り、それがきっかけとなって彼らの注目を集め、チャンスを掴んだアーティストだと思うのですが、そのような出来事を受けて、昔と比べてシーン全体の意識も変化したと思われますか?

Luke : 随分変わったと思うよ。今はカナダにも世界中で活躍していたり、大きいレーベルから作品をリリースしているアーティストがたくさんいるからね。一般的に、カナダ人は謙遜する人種だから、数年前は、自分たちにも大きなレーベルから作品をリリース出来るチャンスがあるなんて思えなかったのかな。

もちろん僕だって初めはそういう風に感じていたさ。有名になるためには、まず小さいレーベルでリリースを重ねて、次第に上へ上へと上り詰めていかなきゃならないんだってね。でも、自分のやっていることに確信を持っていれば、そうとも限らないんだよね。だって音楽には……ちょっと決まり文句みたいに聞こえるかもしれないけど、音楽に国境はないんだ。自分を信じて努力すれば、結局はどこに住んでいるかなんて関係ないのさ。

End of the interview

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