HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

スイス&チリ出身のベテランDJ / プロデューサー Luciano が11月、 WOMB にやってきた。 Luciano は、’90年代から同郷チリの Ricardo Villalobos と共に世界のテクノ&ハウス・シーンで活躍し、現在で言うミニマル・ハウスやクリック・ハウスを世に定着させた中心人物の1人だ。ここ数年では人気レーベル Cadenza の運営や、イビザの名門クラブ DC10 の Circoloco、さらには Cocoon Ibiza といったビッグ・パーティーでもプレイをこなし、その地位を不動のものとしている。

そんな彼が昨年の Metamorphose 出演以来、約1年ぶりの来日プレイを果たし、ラテン・フレーバーあふれるトラックや硬質なミニマル・チューンで多くのオーディエンスを沸かすこととなる直前に、 HigherFrequency がインタビューを決行。自身のバック・グラウンドや、DJとプロデュース活動のスタンス、さらには彼がオーナーを務めるベルリンのカフェについてなどマニアックなエピソードも織り込みながら、非常にフレンドリーな趣で語ってくれた。

Interview : Ryo Tsutsui (HigherFrequency) _ Len Iima (HigherFrequency) _ Introduction : Masanori Matsuo (HigherFrequency)

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HRFQ : あなたがラテンミュージックとエレクトロニックミュージックを独自の視点で融合させたことは広く知られていますが、そもそもエレクトロニックに興味を持ったきっかけというのを教えてください。

Luciano : 僕はスイスで生まれて、9歳か10歳のときに母親とともにチリに移ったんだ。僕は始めはギターを弾き始めて、最初のエレクトロニックミュージックっていうか、マシーンとの出会いは僕がパンクバンドでプレイしていたときだったんだけど、あるフランスのバンドがドラマーの代わりにドラムマシーンを使っていてとても興味を持ったんだ。それが僕にとってこういう音楽への第一歩だったね。それと僕はよくスイスに父親を訪ねていたんだけど、イタリアから戻ってきていた友達が持ち帰ってきたハウスパーティーのテープを聴かせてくれたりして、実は最初はそれほど興味を持たなかったんだけど、なぜかその後に気に入ってしまって、チリに帰るときにレコードを買い込んでいったんだ。そうしてパーティーをしたり、人とともに活動したりっていうことをスタートさせたんだ。最初はたった4人でエレクトロニックミュージックを作っているっていう感じだったんだけど、そのころ Martin Dandy Jack や Ricardo Villalobos がたまにチリに遊びに来ていて、レコードなんかをいつも持ってきてくれて、それを通じてどんどんのめりこんでいったんだ。

HRFQ : あなたのDJは時としてとてもエモーショナルですが、リリースする楽曲はもっと落ち着いていて、ミニマル的な要素を多分に表現していますね。それは意識的にそうされているんですか?

Luciano : 僕が意識しているのは常に自分にとって興味深いものを作るということだね。何かの型にはめて作ったりすることはしないんだ。常に何かの感覚だったり僕自身の内面を表現していなくてはならない。それに僕は自分の作る音楽がミニマルだとは思わないよ。僕の音楽には色々なディーテールが含まれているし、むしろタイムレスな音楽だと思っている。僕はいつも10分とか15分とかの長いトラックを作るんだけど、ミニマルというよりは発展性を意識していて、一つの要素をどのように展開させるかといったことを考えている。それは例えばもっと全ての構成が短くなってくる3分、4分のポップミュージックに比べるとどうしても時間がかかるね。僕は例えば15分の尺の中にできるだけ様々な要素を入れられるように努力しているという感じだね。

HRFQ : 私は昨年イビサであなたのすさまじい影響力を目の当たりにしました。イビサはあなたにとって特別な場所となりましたか?

Luciano : ’60年代とか’70年代からイビサは地理的なロケーションも手伝ってとても特別な場所であり続けていると思う。ヨーロッパや世界中から人々がパーティーしに集まって来る場所で、そういったスピリットを今でも継続している。それがイビサが持つ、最も特別なところだと思う。それに太陽とビーチがあるとっても美しいところだし、音楽シーンもすばらしい。それにイビサでは「仕事があるから帰らなくちゃ」っていうこともないし、皆パーティーしに来てるからノリも違ってくる。そういった様々な要素がイビサを特別な場所にしていると思うよ。

HRFQ : Ricardo Villalobos とのライブユニット Narod Niki について教えてください。

Luciano : Narod Niki は Ricardo がはじめたプロジェクトで、バンドのジャムセッションみたいな感じなんだ。8人とか、大人数を一緒にしてジャムセッションをするというコンセプトなんだけど、僕らは常に個々の名前より Narod Niki のプロジェクトを前面に出して活動を展開していて、常に新しい人がプロジェクトに加われる状態を作りつつ、ちょっと秘密結社のようなノリを持ってやっているんだ。

これはすごく複雑で、皆とステージに立っている中で、自分自身が楽曲の一部分だということを強く意識して、逆に作曲しすぎないように気をつける必要が出て来るんだ。皆普段は自分ひとりで全てのパートを作り上げていくことに慣れているけど、Narod Niki では自分を1個の楽器のように捉えて、他のパートは他の人に任せる必要が出てくる。曲を仕上げるにはお互いのフィーリングを理解して、コミュニケーションをとらないといけないんだ。すごく思慮深くやらなくてはならないし、今何が起こっていて、何が足せるのか、何を引けるのかを常に考えている必要があるんだ。

僕にとっては今までで一番良かったのは Montreal Jazz Festival のときで、そのときは Carl Craig と Basic Channel から2人、Ritchie、Ricardo、Zip、Dandy Jack、と僕だったんだけど、すごく上手くいってね。4時間やったんだけど Narod Niki では常にロングセットになってしまうんだ。1時間とかでできる感じではないんだよね。

HRFQ : あなたはベルリンにあるカフェ Post26 の共同オーナーだそうですが、それは何をきっかけに始められたんですか?

Luciano : 実はすごく悪い話がきっかけになっていて、僕はベルリンでカフェの地下にスタジオを持っていて、上のカフェはトルコ人が経営していたんだけど、ある日僕がスタジオで音楽を作っていたら、音漏れでボンボンいってたみたいで、かんかんに怒った彼が包丁を持って下りてきて、僕を刺そうとしたことがあったんだ。警察や大家もくる大変な事態となってしまってね。

普通は音楽をやっていたら自分が真っ先に追い出される役回りなわけだけど、驚いたことにこのときは大家が僕らの味方をしてくれたんだ。彼女は「彼らはスーパークリエイティブな人たちなんだから、この人たちを傷つけようとするならあなたが出て行きなさい!」って感じで逆に彼を追い出してしまって、僕らに空いたカフェで何かやってみればと提案してくれたんだ。僕らはもちろんそんなお店をやった経験なんかなかったんだけど、やってみようかってことになって、インターネットカフェを作ったんだ。でも突然コーヒーを入れたり、サンドウィッチを作ったり、真下にスタジオがあるのに音楽が作れなくなってしまってね。こんなことをしたいんじゃないんだ!ってことでレコードリリースの時とか、誕生日パーティー、イベントのプレパーティーなんかの時だけ開けることにしたら、逆にそれがすごく良かったんだ。

HRFQ : あなたもコーヒーを入れていたんですか?

Luciano : そうだよ。Big Luciano っていう名前のサンドウィッチまであったんだよ!

HRFQ : あなたはベルリンでも沢山プレイをなさってますが、今のベルリンに対してどのように感じますか?

Luciano : ベルリンはエレクトロミュージックの脱出口みたいになっていると言えるね。実際世界中から沢山の人がベルリンに引っ越してきてるし、パーティーシーンも特別だしね。これはもちろんベルリンにいるアーティストたちの活動によるところもあるけど、ベルリンの壁が壊れて、東西が分かれていたのが一緒になったときに、ベルリンはお店の閉店時間に対する決まりがなかったっていうことも大きいんだよね。それに空いているビルもどこにでもあったからいつでもどこでもパーティーができるような環境にあったんだ。最初はめちゃくちゃカオスだったんだけど、そのカオス状態が多くのアートだったり、クリエイティブな人たちを生み出していったんだ。それがベルリンの原動力だったね。完全なフリーダムだったし、すごく安かったから世界中から人が集まってきたんだ。今は2万5千人程度がいると思うんだけど、5万人まではいけると思う。スペースは沢山あるし、家賃は安いし、必要なものは何だってそろってる。ただこれはすぐに変わってしまうと思う。すごい勢いで人が入って来ているからね。人が増えることはそれだけクリエィティビティの芽が増えることでもあっていいことなんだけど、多くの人が同じ街で同じことをしているという現象が起こっているし、自分がどこから来たのかっていうことだったり、何をしにきたのかをすっかり忘れちゃう人も少なからずいるしね。でもベルリンはすごい街だと思うよ。音楽、デザイン、写真、建築、全てにおいてすばらしい文化が形成されていると思う。

HRFQ : あなたの次の予定を教えてください。

Luciano : 1月、2月は次のアルバムのためにスタジオにこもることにしているよ。2ヶ月をスタジオに入るためにまるまる空けるのなんて8年ぶりなんだ。すごく楽しみだよ。

HRFQ : どのようなアルバムとなるのか、何かプランはありますか?

Luciano : いいや、どうなるかはわからない。自分の気持ちに正直に作ってみようと思っているんだ。だから30曲とか作って、ダウンテンポなものを集めるかもしれないし、ダンスミュージックを集めるかもしれない。ただ1つはっきりしているのは楽器と声を融合させたいっていうことで、そこに関しては是非いいものを作りたいって考えているんだ。

HRFQ : では最後に日本のファンに一言お願いします。

Luciano : 日本に来れてとてもうれしいよ!いつも日本に来るのは興奮するんだ。日本の文化にとても惹かれていて、しばらくいた後に離れるときには心に穴が開いたような気分になる。日本には魔法みたいな何かがあるよ!

End of the interview

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