HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

James Zabiela

パリは今までずっと音楽の真の核心部分よりも、その輝きやお金を重視してきた街であった。 ロックンロールやジャズはパリで今までずっと流行の中心であったが、テクノに関しては3、4カ所のアンダーグラウンドの場所を除いてはあまり盛んではない。パリでのナイトライフはクラブで良い音楽をかけることよりも、モデルやファッション性の高い人がクラブにいることの方が重要なのだ。

彼がフランス初のスーパースターDJという座に登り詰めてから20年、Laurent Garnier は今も変わらず彼の出身地の話をしていても、クラブカルチャーでのセレブについての話をしても、ダンス・カルチャーで最もしっかりと自分の意見を発信しているアーティストの一人である。

アメリカの最も有名なセレブの一人である Paris Hilton について質問すると彼はこのように答えた。
「パリス・ヒルトン?彼女はもっともふざけた存在だと思うよ。一体何様のつもりなんだよ?ただ金を持ってるだけのパーティーガールじゃないか。」

「マラソンセット(最近では最低でも6時間のセット)をプレイすることでも有名な彼は、古いジャズからヒップホップ、デトロイトテクノまで幅広いスタイルをカバーしていることでもその名を馳せている。彼の新しいアルバムである "Tales Of A Kleptomaniac" はまさにそのアプローチで作り上げられている。

あるサイトによれば kleptomania という言葉を「押さえきれない窃盗に対する衝動」と定義しているが、彼も自分自身を地球上最大の keptomania なDJと呼んでいる。彼はネガティブな意味を含むであろうタイトルをこのように説明した。 「kleptomania は病理学の言葉だから、物語っていう意味の tale っていう言葉と繋げたんだ。tale っていうのは、Fairy tale、おとぎ話を思い浮かべるからすごく良い言葉だと思う。だから kleptomania の視点からおとぎ話を聞かせているような感じなんだ。」

では彼は実際に十代の頃に万引きなどをしたことはあるのだろうか?

「いや、お店で盗んだことはないよ。そんなに悪い子じゃなかったからね。他に馬鹿なことはたくさんやったけど、盗みはやらなかった。」

16歳の時にフランス大使館でウェイターになるためにフランスからイギリスへと移住した彼は最終的に、1986年、アシッドハウスのブームと共にマンチェスターに落ち着いた。そして、DJ Pedro として Hacienda にてスターDJの一人となった彼は、国民兵役のためにフランスへと戻った。 20年後の今も彼は親英派ではあるが、英国のメディアから受けている彼の新しいアルバムに対する評価には失望しているようだ。

「先週フランスのジャーナリストにこのことを話してたんだけど、今までフランス、オーストラリア、ベルギー、オランダと世界中の国からインタビューを受けてきたのに、イギリスでは3、4個のサイトのインタビューしかやったことが無いんだよ。アルバムが理解できないからか、雑誌の人達は僕と話そうともしないんだよ。
そのフランスのジャーナリストは僕にこう言ったんだ。
『NMEのトップ編集者を見てごらん。彼らはみんな若くて The Stooges さえ聞いたことが無いんだ。』

きっとこれはハウスやテクノでも言えることだろうけど、その音楽のルーツも知らないで僕のアルバムがシーンから外れてるなんて言えないはずだろ?別に僕のアルバムが好きじゃないっていうのはわかるけど、僕のアルバムを理解できないっていうのはただダンスミュージックに関する知識が足りないだけだと思うんだ。音楽ジャーナリストだったら音楽について知っておかなきゃいけないのは当たり前だろ?

一方でこのアルバムはドイツやフランスでは素晴らしい評価を得ているよ。 ただイギリスだけでは半分から冷たい反応を受けているんだ。半分はすごく気に入ってくれてるんだけど、半分は理解していないんだ。彼らの理解できるキャパシティーを超えてしまっているんだろうね。もしかしたらイギリスには色んな音楽が溢れ返りすぎていているのかもね。彼らは音楽をカテゴリー分けするのが大好きなんだ。だけど僕のアルバムはどのカテゴリーにもはまらないから理解できないんだろうね。悪いけど、僕はみんなのやってることをやるつもりはないんだ。」

Interview & Introduction : Jonty Skrufff (Skrufff.com)
Translation : Shogo Yuzen

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Skrufff (Jonty Skrufff) : アルバムの話をするけど、君は完璧主義者なのかな?

L.G (Laurent Garnier) : 音楽に対して完全に満足することはないね。だからレコード会社の人間が「もう黙ってアルバムを渡しなさい。これでいいから、もう手を加えなくていいから。」って言ってくれないと作業が終わらないんだよ。アルバムの80%は去年できたんだけど、プレスする二日前にトラックを差し替えたんだよ。差し替えたトラックには満足しているけど、きっとまた聞き直した時には「あ?、もっとベースが大きければ良かった」なんて言い出すんだ。制作に集中すればするほど満足はいかなくなるね。

だけど、それは良い事だと思うよ。個人的に音楽を聞く時は音楽が僕にくれる喜びや新鮮な気持ちを重視してる。だから曲を聞いてる時に「このハイハットはいいかな?エフェクトはいい感じかな?ラジオでかけてもらうのに短かすぎるかな?長過ぎるかな?テレビで流すのには適切かな?」なんてことは考えないんだ。僕にとって重要なのは音楽なんだ。それを他人が気に入るかどうかは別としてね。だから僕は色んなスタイルの音楽をリリースするんだよ。一番僕が気にするのは、『僕はトラックに対して正直かつ真摯的に接しているかな?それとも嘘をついてお金を稼ごうと思ってるだけだろうか?』ってことなんだ。

Skrufff : 変わったタイトルだけど、Tales of a Kleptomaniac (盗み依存症の物語)っていうタイトルを付けたのは何故だったの?

L.G : 基本的に変わったタイトルが好きなんだ。前回のアルバムも "Cloud Making Machine" っていうタイトルだったしね。DJをやってて不思議なのは、人の曲を少しずつかけて自分が誰かを表現しているってことだと思うんだ。でも自分自身の作品をリリースする時は自分の環境や世界を取り込んで、自分自身を作り直すんだよ。だからDJ達は世界一の盗人なんだ。音楽を作る人ならきっと同じだと思う。どんなバンドでも少なからず誰かに影響を受けているからね。僕は簡単に自分のトラックがどこから影響を受けているのか言えるよ。別にパクってるわけじゃないよ。物を捨ててしまうのは良くないでしょ?リサイクルと一緒だよ。

Skrufff : 音楽に飽きてしまったような時期はあった?

L.G : 僕は色んなプロジェクトを行うことができたから恵まれていたと思う。例えば、制作を始めたことはいいステップだった。"Cloud Making Machine" を作った時は多くの人がアルバムを理解しなかったけど、僕には方向性がはっきり見えていたんだ。映画やダンサー向けの音楽を作りたいとずっと思っていたんだけど、あのアルバムがきっかけになってその機会も得られたしね。あれがあったから、今ではフランスで最も有名な二人の振り付け師と一緒に仕事ができているんだ。今は来年に公開される映画に向けての音楽を作っている。本当に幸運だよ。金稼ぎのためにライブをやりまくって他の事に手が付かないような状況に追い込まれたこともないしね。そのお陰でいつもプレイしたいっていう願望があったし、DJをやってフロアを盛り上げたいっていう気持ちを忘れずにいられたんだ。人に向けてプレイするっていうのはある種ドラッグみたいなんだ。だから僕はそんな気持ちを忘れないでいたい。いつまでも楽しいものであって欲しいんだ。

Skrufff : 最近のインタビューで10年前にみんなテクノを消えて行くって思ってたことを指摘してたよね?

L.G : うん。今リリースされているテクノのレコードの量を考えると笑えるよね。ドイツではテクノはどこにでもあるし、フランスにはニューレイヴがある。誰も20年後にここまでテクノが反映してるなんて想像もしなかったけど、テクノは未だに健在だよ。

James Zabiela

Skrufff : 表面的には君のキャリアはトントン拍子に進んで行っているように見えるけど、大きな間違い犯したり、後悔するほどのチャンスを逃してしまったことはあった?

L.G : シリアスさが足りないから、リリースしなければ良かったって思ってるトラックは何曲かあるよ。そういうのは僕のキャリアの初期の頃に多いかな?後は Michel Jarre と一緒に仕事をしたのは大きな間違いだったかな。彼はあまりいい人ではなかったから、あれはやるべきではなかったと思ってる。良かったのはあのプロジェクトはリリースされなかったってことだね。僕は F Com でリリースしたものや、他のアルバムに対して後悔していることはないんだよ。だってリリースした時に最低限、僕はその音楽に対して正直な気持ちで取り組んで、納得の上でリリースしたことは事実だからね。大きな失敗は今言われてもすぐには思いつかないかな。

もちろんみんな過ちは犯すものだよね。でも人は失敗から学ぶことができるから、それは良い事だと思うんだよ。僕は率直に話すから、時に厄介者扱いされるかも知れない。だけど、最終的に僕は未来の子供達に正直であって欲しいから僕自身が正直でいようとしてるだけなんだ。僕は悪魔に魂を売ったことはないと思ってる。だけど、商業的な連中をパーティーをやったことはあるよね。だけど、その中で10人か20人ぐらいの心を開くことができればそれで十分だと思ってる。

Skrufff : VIP/セレブのパーティーについてはどう思ってる?よくプレイそういう場でプレイするのかな?

L.G : いや、絶対にしないね。フットボールプレイヤーの Thierry Henry に彼と一緒にプレイして欲しいって言われたこともあったけど、断ったんだ。だって僕はそこに言ってどうすればいい?僕は音楽を通してストーリーを伝えるのが好きなんだ。だからその場所で自分が本当にやりたいことをやっている姿っていうのを想像できなかったんだよ。自分を表現したいから、お金のために何かをやったことはない。いつも音楽が好きだからやってるんだ。

もし、有名な誰かが長い間僕に注目してくれていて、そこにそれなりのストーリーがあるなら僕はプレイしたいと思う。だけど、そうじゃない場合は嫌だね。カンヌ映画祭でプレイして欲しいって頼まれたこともあるけどそれも断ったよ。

Skrufff : 毎週何千枚もの作品がリリースされているけど、一般的に基準はどうなのかな?

L.G : 毎週何千枚もの作品が手元に届くけど、それらの多くはすごく良いよ。驚くのはクオリティーの低いトラックっていうのはほぼ完全に無くなったことだね。もちろんたまにすごくダサいものもあるけど、それでも上手くプロデュースされてると思うんだ。別に商業的な音楽に対して反対はしてないんだよ。ただ僕のやるべき音楽じゃないし、それを養護するつもりもなければ、別に嫌な音楽だとも思ってない。面白いのはテクノロジーで音楽の全体的なレベルがぐんと上がったことだね。

今はいいトラックが沢山あるから、選ぶのが難しいぐらいだよ。今届いてる曲は全部15年前ならかけていたと思うけど、今はそれが出来ない。本当にベストなものを選ぶんだ。

Skrufff : 何千ものリリースの中で注目を集めようとしている新人のプロデューサー達に何かアドバイスはあるかな?

L.G : (ため息)、その答えはないね。僕も同じ状況なんだ。たまに僕はリリースしないトラックをDJをやってる仲の良い友達20人に送って、感想を聴かせてもらうんだ。でも20曲の内15曲は変えた方がいいって言われるんだ。だからその質問に対して良い答えは無いんだよ。先週も友達にトラックを送ったばかりだけど、一人は「キックが小さい」って言うし、別の人は「ブレイクのクレイジーさが足りない」って言うんだ。だけどその一方で3人目の友達が「ブレイクは最高だけど、ブレイクの後の声はもっとクレイジーにした方がいい」って言うんだ。

もし、みんなの意見を聞き入れていたらきっと自分の音楽をリリースすることはできあにだろうね。だから僕が人に言ってあげられることと言えば自分が作る曲にベストを尽くして、他のアーティストの意見はそんなに聴きすぎない方がいいってことかな。だから自分のやりたいことをやれば良い。もし自分の近所の人を満足させられなくても、そのご近所さんのご近所さんは気に入るかも知れない。全員を喜ばせることなんて出来ないし、そうしようとすべきでもない。それは大きな間違いになるからね。

自分が満足できる音楽を作るんだ。別にそれは新鮮でなくても新しくなくたって良い。ただいい曲だったらいいんだよ。それがいい音楽って評価されるものかって?僕にはわからないけど、僕から人に言えることって言えばこれぐらいだよ。音楽にレシピなんてないからね。

End of the interview


Laurent Garnier のアルバム "Tales Of A Kleptomaniac" は F Communication Records より発売中。



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