HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

John Digweed


UKから世界に向けて大旋風を巻き起こした"プログレッシヴ・ハウス"の生みの親であり、ダンス・ミュージック界において多大なる影響を及ぼす力を持ちながらも、その地位と名声に驕ることなく、常に新しいエッセンスと音を探し求め、自分のDJスタイルに吸収していくハングリー精神の持ち主John Digweed。今回の3日間に渡る来日ギグでも、その天才的な音楽センスで、ダンス・ミュージックの将来を示すような素晴らしいセットを私たちに披露してくれた。

今回の来日中には、ほとんど密着状態で取材を行ってきたHRFQだが、対氏のインタビューはageHa@STUDIO COASTでのセットの前の慌ただしい時間帯に行われた。そんな限られた時間の中でのインタビューだったにもかかわらず、"プログレッシヴ・ハウス"というジャンルや、その方向性、そしてダンス・ミュージック・シーンの今後などダンス・ミュージック・ファンが本当に聞きたい&知りたい内容をじっくりと語ってもらうことが出来た。常に先を見て、シーンをひた走るパイオニアによるHRFQ渾身の6000字インタビュー、じっくりと堪能してほしい。

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> Interview : Matt Cotterill (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Kei Tajima (HigherFrequency) _ Photo : Mark Oxley (HigherFrequency)

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HigherFrequency (HRFQ) : 今日はタイトなスケジュールの中、貴重な時間を有難うございます。

John Digweed : 全然問題ないよ。

HRFQ : Kiss FMやあなた自身のラジオ・ステーション Transitionsのために、毎週かなりの量のDJセットをレコーディングされていると思うのですが、毎回フレッシュでオリジナルなミックスをするために、どんな新しい要素をセットに取り込まれようとしているのですか?

John Digweed : とりあえず、ラジオ・ショーのために新しいレコードを毎週聴いているよ。だからショーを録音するときは、自然に「よし、これで1時間のミックスをやっちゃおう」ってなることが多いかな。たまに2・3回分のショーを一週間のツアーの間に録音してしまうことだってあるんだ。こういうラジオ・ショーのおかげで、Massive Recordsや3B, Plastic Fantasticといったレーベルから送られてくる新しいレコードをいい感じで紹介できてると思う。彼らから送られてきたレコード中から、今週のベスト・トラックを選んで、ショーのためにコンパイルするんだ。ただ、その日の気分で突然気に入ってセットに取り込むようなトラックもあるね。

それに、ラジオ・ショーではフロアを盛り上げるようなトラックとか、流行りのトラックばかりをかけなきゃいけないってわけじゃない。巷のほとんどのラジオ・ステーションは"流行りのトラック"ばかりを流していると思うんだけど、例えば、僕がものすごく素晴らしいレコードに出会って、例えばそのレコードがまだ10コピーしか出回っていないとしても、是非そのトラックをショーで流したいと思うんだ。そうすればそのプロデューサーも少しは名前が知れ渡ることになって、リスナーもそのプロデューサーの作品に興味を持つことになるからね。みんなが流しているようなお決まりの"ヒット・チューン"ばかりを流しているショーより、リスナーにとって新しいプロデューサーや新しいトラックを知るきっかけになるようなショーにしたいんだ。

HRFQ : エクレクティックなショーにしたい、ということですよね。

John Digweed : もちろん。世間にはまだまだ知られていないけど、世の中には本当にすばらしい音楽がいっぱいあると思うんだ。一週間にざっと3・4時間以上はショーが録音できてしまうくらいのね。

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HRFQ : あなたが手がけられて来たリミックス・ワークのなかでも、The Musicの" Freedom Fighters"のリミックスには特に目を引かれました。というのも、かなりロックですよね。リミックス業から2年以上離れていたあなたと、Nick Muirの創作意欲を沸かせるような魅力がこの楽曲にあったということでしょうか?

John Digweed : そうだね、確かに2年以上リミックスはやってなかった。Nickと一緒にスパイダーマン・プロジェクトをやったりとか、Stark Raving Madのサウンド・トラックを担当していて、気がついたら随分長い間アーティストのリミックスをしてないよねってことになったんだ。それで、Virgin RecordのA&Rと話していたら、The Musicがニュー・アルバムをリリースしたところで、ちょうどアルバムからの1stシングルをリリースを考えているっていう話をされて。リミックスするにはぴったりだと思ったよ。もともと、オリジナルでもかなりいい楽曲だったんだ。ギターが印象的で、へヴィーで、なんだかHappy Mondaysを思わせるようなトラックだった。だからStone Rosesと、Happy Mondaysと、Chemical Brothersのアルバムを何枚か聴いて、彼らの影響をそのまま表に出すのではなくて、影響を生かしながらその上に僕らなりのエッジをきかせたトラックにするっていうかさ。 ミックスの完成もすごく早くて、実際ほとんど二日で完成させて、その後二・三日で仕上げをしたんだ。二人でジャムみたいなことをしながら完成させていったから、ミックスをつくってる時が一番楽しかったな。それにQuincy Jonesのリミックスもしたんだ。これはもうちょっとダウン・テンポで、すごくチルな感じのヴァイブのある曲なんだけどね。 来年はもう少しスタジオに入る機会を多くしたいと思ってるよ。やっぱり、サウンド・トラックなんかをやっちゃうと、どうしても半年くらいは時間をとられちゃうからね。そんなに長くこもりきりになっちゃうと、スタジオに戻りたくなくなっちゃうんだ!

HRFQ : "プログレッシヴ・ハウス"というジャンルにおいて、代表的存在であるあなたにとって、シーンの今後はどのように映っていますか?

John Digweed : "プログレッシヴ・ハウス"という言葉は大嫌いなんだ。僕にはその言葉の意味がまったく理解できない。多分、ジャーナリストにとっては12分くらいの長さのそれらしい音なら全部プログレになっちゃうんだろうね。でも実際、僕のDJセットやショーをとってみれば、エレクトロであったり、ディープ・ハウスであったり、ストレートなハウスだったりっていう要素がボーダレスに混ざり合ってると思うし、一度ジャンル的なイメージを押し付けられてしまうと、それから脱するのはすごく難しいんだ。今回リリースするFabricのコンピレーションCDにしても、通常リスナーが考える"プログレッシブ・ハウス"とは、違ったものだと思わせることの出来る作品だと思うよ。どうせまた一部のジャーナリストは「あぁ、これはプログレッシヴ・ミックスだね」って言いたがるんだろうけどね。

HRFQ : 僕たちは違いますよ!

John Digweed : 笑。今現在クラブでよくかかっているものの中にだって、本当に素晴らしい楽曲はいくつもある。特にKompaktみたいなドイツのレーベルはいい方向にシーンを引っ張っていってくれていると思うし、その他にも、本当にいい楽曲だけをリリースしているレーベルはたくさんあると思うんだ。そういうレーベルは世間で流行っているトラックのことや、どんなジャンルの音楽をリリースするかなんて全く気にしない。彼らが考えるのは、いいトラックをリリースするってことだけ。僕がなりたいのも、そういうDJなんだ。ただ、いいレコードをかけたいってこと。テクノであろうが、ディープ・ハウスであろうが、ブレイクスであろうが、僕のセットに取り込めそうなトラックならなんでも。

だから僕にとって、"プログレッシヴ・ハウス"という言葉の意味は"革新的な考え方"と、"革新的な音楽"。だからこの言葉はどんなジャンルに対しても当てはまる言葉なんだ。Danny Tenagliaはハウス・トラックをかけられるんだけど、おかしなことに僕が同じトラックをかけると、そのレコードはプログレッシヴ・ハウスのレコードに変身してしまう。何を基準にジャンル分けしてるの?って思っちゃうんだよ。

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HRFQ : ジャンル分けされるべきではないということですよね。

John Digweed : そう。でも、残念なことにジャーナリストはジャンル分けが好きなんだ。ジャンルが分かれていた方が彼らには都合がいいからね。以前Bedrockからリリースしたアルバムで…確かBrancaccio & Aisherの作品だったかな。あれは本当に誰が聴いてもハウスのアルバムなのに、プログレッシヴ・ハウスのセクションでレビューされていて、"このアルバムはBedrockがリリースした作品の中で、最もプログレッシヴ・ハウスらしくない作品だ"って書かれたんだ(笑)。プログレッシヴのセクションに入ってることこそおかしいのに!!もともとは、ハウス系のジャーナリストにサンプルを送ったのに、彼はレビューしないで、すぐプログレッシヴ系のジャーナリストに送ってしまったみたい。それこそ問題だと思うんだよ。こっちにしてみれば「君たち本当に音楽を分かってるの?Bedrockからリリースしてるからって、プログレッシヴ・トラックってわけじゃないんだよ」って感じだったよ。

HRFQ : 確かにそういった先入観は多くのDJにとっても悩みの種になっているんでしょうね。

John Digweed : 確かにレーベルという立場から言うと、ものすごく苛立たしいよ。いろいろなジャンルの音楽をリリースしているのに、それが一度ジャンル分けされると、そのイメージを壊すのは難しいからね。例えば、自分のレコードをリリースして、それをたくさんの人に聴いてほしいと思ったとしても、もし作品にそういうイメージをつけられてしまったとしたら、先入観のせいで、その曲を手にとってみて初めて、「こんな感じの曲がBedrockから出てると思わなかった!」ってことになるでしょ。だから僕はいつも「先入観を捨てて、いろいろなレーベルの音楽を聴いたほうがいいよ」って言っているんだ。

HRFQ : 続いてもジャーナリズムに関する質問ですが、11月の初めにGuardianに掲載されたAlexis Petridisによる、"Bored of the Dance"の記事は読まれましたか?

John Digweed : あぁ、読んだよ。

HRFQ : 悲しいトーンで"ダンス・ミュージックは終わった"、"今の若い子たちはクラブに行かない"などと語られているこの記事に対する、あなたの意見を聞かせてください。

John Digweed : 確かに、所々では結構いいポイントをついていると思ったよ。すべての物事に言えることだけど、一度何かが流行り始めると、ブームはシーンの中心で活動している人たちお構いなしに、その回りでどんどん大きくなっていくんだ。急にイギリスじゅうの小さな町のクラブでイベントがオーガナイズされたり、そこらじゅうでハウス・イベントが行われて、どのブッキング・オフィスも忙しくなって、どんなDJにも余るほど仕事がやってくる。でも、そのシーンに見切りがついた途端、ほとんどの人は次なる流行を求めて去っていってしまう。そうするとクラブには人が集まらなくなるし、以前は受ける仕事が山のようにあったDJにも仕事がなくなる。でも、以前からきちんとキャリアや経験を積んできたDJには、それでもまだ仕事の依頼は来るし、自分たちなりのコンセプトを守ってやってきたクラブには、まだ人が集まってくる。FabricやSankeys、Colours、Lushを見てごらんよ。ああいうクラブは、ダンス・ミュージックが大ブームになる前から存在していたし、昔も今も素晴らしいDJがプレイしていて、いつも人であふれてる。彼らは一度だって、ブームに乗っかろうとしたことはないんだ。それから、このブームによってたくさんのお金目あてのレーベルがシーンに参加してきたよ。そういうレーベルは、シーン自体にお金が落ちてこなくなった途端、他の儲かるジャンルを売り出すようになったけどね。

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HRFQ : コマーシャルは何でもつぶしてしまうんですね。

John Digweed : その通り。ああいう人たちがどういう理由でクラブ・シーンに関わっているのか聞いてみたくなるよ。僕にとって、このシーンに関わってきた一番の理由は常に音楽だった。今までにお金にならなくったて、ただ好きだからDJをしていた時期もたくさんあったし、今だって何よりDJすることをエンジョイしてる。ムーブメントが起こった時期は、たくさんの人がただお金になるからシーンに参入してきて、流行が去った途端、興味を失ってしまうんだ。

HRFQ : だからBrit Awards(イギリスの音楽番組)もダンス・ミュージックを見捨てたんですね。

John Digweed : 見捨てたね。でも正直言って今までダンス・アクト部門に上がったノミネート作品なんかを見ててもさ…(笑)。ほんとに「えー?」って感じで…あんな安っぽいダンス・ミュージックが賞を受けるのにふさわしい作品だと思われてるなら、むしろそんな賞をもらえなくてよかったよ!

HRFQ : 逆にBrit Awardsがダンス・アクト部門を番組から外したのは、彼らからの敬意と取れるかもしれませんね。

John Digweed : そうだね。ダンス・ミュージックが常にスポット・ライトを浴びるような音楽ジャンルではないっていう事実がこうして公になったことは、小さいクラブが"スーパー・クラブ"を気にせずに、彼らなりのコンセプトをもって成長しく支えになっていくと思うし、若いDJにとってもいい環境だと思うんだ。以前まで、俗に言うDJのゴールは名前を広めて、CreamやGatecrssher、Ministry of Soundみたいな大きいクラブでプレイすることだったのに、今は若いDJでも、彼ら自身のイベントをオーガナイズしたり、小さめのクラブのイベントでプレイすることが出来る。クールなイベントでプレイすることによって、クールな評判を受けることが出来るんだ。以前はCreamやGatecrasherみたいな大きいクラブに入ることさえ出来なかった人たちがね。今後はDJにとっても、そういう賞味期限の過ぎてしまったブームに関わっているより、何かクールなことに関わっていることでキャリアを築いていけるような時代になっていくと思うよ。

レコード・レーベルにとっても同じことが言えると思っていて、現在シーンで音楽をつくり続けている人たちは、ダンス・ミュージックを愛しているから音楽をつくっているような人たちばかりで、レコードが1万枚売れるか、500枚売れるかどうかなんて気にしていない。音楽をつくって、それを聴いてもらいたいからリリースしているだけなんだ。

だから、今まさにダンス・ミュージックは"変化の時"を迎えていると言えるのかもしれないね。もちろんいい方向に向かってね。お金目当ての人がシーンから一掃されて、お金が儲かろうがなかろうが、ただダンス・ミュージックを愛している人間だけが残っているわけだからさ。

HRFQ : 時間が迫ってきているので最後の質問です。さっきお話されていた"Fabric 20"ですが、どんな仕上がりになっていますか?

John Digweed : Superpitcherのトラックと、あと…あぁ、いっつもアルバムに何を入れたか分からなくなっちゃうんだよね!Infusionの"Better World"のJosh Winkリミックスに、Pete Mossのトラックと…うーん。ちょっと思い出せないな。30分前に聴いてたばかりなのに!(笑)

HRFQ : じゃあ、リリースまで待つしかないですね!

John Digweed : そうだね。でも、もうそろそろ詳細がウェブ・サイトにアップされると思うよ。ただ、このアルバムは「よし、まだリリースされてないトラックと出来上がったばかりのトラックを15曲集めてリリースするぞ!」って感じでつくったものではないよ。最近、僕がクラブで流してるトラックを入れたんだ。だからこれは手に入れるのも難しいようなトラックだけが入ってるミックスCDじゃない。ただ僕が好きで、普段Fabricでプレイしているトラックが入ってるミックスCDなんだ。僕のFabricでのセットを反映したようなCDになっていて、これは以前からやってみたかったことでもあって。だからFabric側も、もちろん僕自身もCDの仕上がりにすごく満足してるんだ。エレクトロニック・ハウスっていう表現に近いかな。

End of the interview



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