HigherFrequency  DJインタビュー

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Black Dog Interview


「ブラックドッグは "ウィンストン・チャーチルの黒い犬" のように、僕が常に戦っている "鬱" のシンボルなんだ」

Torbay の自宅で、こう語り出した Ken Downie。ユニット Black Dog をスタートし、その中心人物として活動する彼は、ユニット名 Black Dog にはそれなりの意味があり、クリエーションの原動力は彼自身の心理的状態にとても関係があると話す。

「僕にとって音楽をつくるということは、鬱と機嫌との戦いなんだ。落ちこんでいる時に何かやりたいなんて思わないだろ?」と、思いにふけるように語った。

Black Dog のニュー・アルバム Silenced(ユニットのニュー・メンバー Martin とRichard Dust による共同制作)についてインタビューに応えた Ken Downie は、非常にフレンドリーであると同時に礼儀正しく、寡黙な印象さえあったが、ユニット・メンバーの Martin(後半に登場)は 、そんな彼とは正反対によく話してくれた。

「鬱に悩んでる人は結構いるけど、そういう人に必要なのは、そばにいてあげることと、話を聞いて理解しようとしてあげること。でも正直、鬱の人にやってあげられることってほとんどないし、理解することも難しいんだ。現代病の中で一番間違ったとらえ方をされてる病気を挙げるとすれば、鬱病はその中に含まれると思うよ。僕は特に自分が鬱病だからって気にしたりしないけど」

「みんな、Ken は可哀そうなヤツで、一緒に仕事するのが難しいって思ってるみたいだけど、全くそんなことないね。彼と知り合って9年、一緒に仕事を始めて2年半か3年位になるけど問題があったことは一度もないよ。僕のほうがよっぽど難しい奴なんじゃないかな」Martinはこう語った。

最新リリースされた彼らの努力の賜物 "Silenced" だが、このアルバムは、93年、エレクトロ・ミュージックの発展において重要な役割を果たした 'Bites' がリリースされた絶頂期の頃の Black Dog を彷彿とさせる作品だ。それが頭痛のタネでもあると言う。

「もちろん皆にどう受け取られるかは気にするけど、ぐずぐずしないで自分のやりたいようにやるほうがより簡単だね。'Bites II' をやってくれってずっと言われてるけど、もし本当にそれをやったら 結局、"Bites とそっくりだな"って言われるのがオチだろ?」

Martin もこれには同意している。「'Bites' みたいなトラックをつくろうとしたわけじゃないんだ。僕が考えてたのは、例えばクラブとかギグから帰って来た時に、聴きたくなるような、調度良いペースで始まってそれからゆっくりチルできるようなアルバムだったんだ。自己中心的なアプローチと言えば、確かにそうだけど、そういう方向性になっていったんだ。全てのパーツがきちんとフィットするまでお互いに作業を繰り返してね。何人かに 'Bites' のことを言われたのは不思議だったけど、今回のアルバムで目指したのは、'Bites' に回帰することではなくて、過去との間にちゃんと線引きして、新たに3人で始めるってことだったんだ」

以下は対談形式でのインタビューの模様をお伝えする
(Translation by Eri Nishikami)

Skrufff (Jonty Skrufff) : 2〜3 年前に' Unsavoury Products' がリリースされた際のメール・インタビューの中で、 "リスナーの感情的なフィードバックが必要だからこういった性質を持った作品はとても難しい"と話していらっしゃいましたが、今回のアルバムは入っていきやすいように感じるんですが。いかがですか?

Black Dog (Ken Downie) : わざと入りにくくする必要性がないだろう?

Skrufff : 今回のアルバム制作期間はどのくらいでしたか?

Black Dog (Ken Downie) : 全てまとめ上げるのに2〜3年かかって、その後悪いところを省いて、いいところを更に良くしたんだ。

Skrufff : アルバムの制作にあたって、当初から全体のビジョンは見えていたのですか?

Black Dog (Ken Downie) : アルバムを始めたときはなかったな。トラックの順番さえわからなかったからね。皆で一緒に考えたんだ。

Skrufff : トラックを制作される際は、一気にまとまったアイデアが出てくるんですか?それとも一つ一つのトラックごとですか?

Black Dog (Ken Downie) : 最近は速いね。ここ数ヶ月で30曲くらい書いたな。ブレイン・ストーミング中なんだ。

Black Dog Interview

Skrufff : 作業はどこかに皆で集まるんですか? それとも自分で全部やられるんですか?

Black Dog (Ken Downie) : 集まったこともあるけど、両方かな。Sheffield まで車で5時間もかかるからね。

Skrufff : 今もロンドンに?

Black Dog (Ken Downie) : いや、何年か前に Torbay に移ったんだ。

Skrufff : Black Dogの現在の位置付けは?

Black Dog (Ken Downie) : ん〜、インディペンデント・プロデューサーかな。"今月のアーティスト" とか踊り付きのポップではないと思うよ。ありゃヒドいからね。

Skrufff : ライブの予定はありますか?

Black Dog (Ken Downie) : 来年にはやってみたいね。

Skrufff : 現在、Black Dog 以外に動かれているプロジェクトはありますか?

Black Dog (Ken Downie) : Black Dog 周辺の活動がメインだな。Black Dog 隊(posse)って呼んでるんだけど、色んなアーティストのグループなんだ。グラフィック・アーティストやプログラマーやミュージシャンやHTMLやる奴らなんかのね。それ以外は、最近はインターネットをしてることが多いな。世界中の人とコミュニケートできて、お金もそんなにかからないからね。

Skrufff : 音楽もやりながらアート・プロジェクトもやってるってことですか?

Black Dog (Ken Downie) : そう。あと、ゲームとウエブ・サイトも。

Skrufff : Black Dogというアーティスト名はとても象徴的だと思うんです。民話の中の認識とも言えるし、不吉なことの象徴じゃないですか?このユニット名をつけられた時、イギリスの民話を読んでたんですか?

Black Dog (Ken Downie) : この名前?これは僕が常に戦ってる鬱の象徴さ。"ウィンストン・チャーチルの黒い犬" みたいにね。

Skrufff : 魔法を信じますか?

Black Dog (Ken Downie) : 勉強した事はあるよ。あと、世界の宗教も。信じてるかどうかは分からないけど調べた事はあるね。

Skrufff : 世界の現状についてどう思いますか?

Black Dog (Ken Downie) : 流動的だね。常に変化してるよな。

Skrufff : 楽観的な方ですか?

Black Dog (Ken Downie) : 人間の精神という意味ではね。世界って舞台にはいつだって悪い奴がいるけど、そういう奴らも死ぬ、そして物事は変化するんだ。人間の精神に終わりはないね。

Skrufff : アルバムのプロモーションなどで、海外には行かれないんですか?

Black Dog (Ken Downie) : プロモーションの為っていう、いかがわしい動機では行かないけど、外国を旅して楽しみたいとは思うよ。

Skrufff : DJをしてみようと思われたことはないんですか?

Black Dog (Ken Downie) : ツアーに持ってくとしたら、Punk Rock Soundsystem'だな。

Skrufff : どういった場所でプレイしてるんですか?

Black Dog (Ken Downie) : 主にクラブ・イベントだね。

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Skrufff : Kenとはいつ頃から一緒に活動なさっているのですか?

Black Dog (Martin Dust) : Kenとはもう9年か10年くらい友達なんだけど、二人とも BBS (掲示板) とパンク好きっていうのが共通点でね。前に古いモデムとか、コミュニケーションとかファイル交換とかハッキングなんかの BBS を運営してたことがあるんだけど、始めたときから Ken とはずっとその辺のことはもちろん、音楽とか色んなことについて話してたんだよね。そんな感じで連絡を取り合っているうちに、音楽とかアイデアの交換なんかも始めて、それ以来なのかな。二人の間には嫌いなものは嫌いと言うってポリシーがあったんだ。

Skrufff : それがどうして Black Dog に入ることになったんですか?

Black Dog (Martin Dust) : 僕自身ずっとレーベルをやりたいと思ってたんだ。で、ここ Sheffield でイベントをやったことがあったんだけど、デザイナーとDJを合わせて15人くらいになってさ、当時 Ken はレコード・レーベルにひどい目にあわされて、ギブアップしかけてたところだったんだ。それで、だったら一緒にこっそり何かやってみようぜって話になったんだ。

それから自分達のビジョンを理解してくれるディストリビューターを見つけてね。この理解とは、フライヤーのデザインからジャケット・デザインはもちろん、自分達の音楽的ポリシーまで理解してくれること。このプロセスだけで2年はかかったかな。それで、その過程の最後の方になって、やっぱり最初のリリースは Black Dog にしようってことになったんだ。まあ、ありきたりな言い方だけど、全ての過程はオーガニックだったし、アイデアを出し合ってただけで、結局使いもしないトラックだけでギグが500回分くらいは出来たんじゃないかな。

Skrufff : ギグ500回分って、一体どのくらいの長さなんですかね?

Black Dog (Martin Dust) : 完全なトラックとして、4〜5時間分はあったんじゃないかな。Ken にはずっと、またラップトップを持ってツアーに出ようって言っているんだけど、どうしても嫌だって言うんだよね。だから、Kraftwerkの一番最近のツアーのビデオを見せたんだ。Eメールをチェックしてるみたいに見えるとか、そういうことじゃなくて、ただ音楽をやることの自由について話をして、そこから自然に始まったんだよね。でもお互いに長いこと知り合いだったから、異常なことだとは思わなかったけど。

Skrufff : でもやっぱり所々 'Bites' 的なものを感じてしまうんですよね。

Black Dog (Martin Dust) : 全然そんなつもりで始めたんじゃなかったけどね。僕と Richard が考えてたことの一つに90bpmより速いトラックをつくるってことがあったんだ。僕が考えてたのは、例えばクラブとかギグから帰って来た時に、聴きたくなるような、調度良いペースで始まってそれからゆっくりチルできるようなアルバムだったんだ。自己中心的なアプローチと言えば、確かにそうだけど、そういう方向性になっていったんだ。全てのパーツがきちんとフィットするまでお互いに作業を繰り返してね。何人かに 'Bites' のことを言われたのは不思議だったけど、今回のアルバムで目指したのは、'Bites' に回帰することではなくて、過去との間にちゃんと線引きして、新たに3人で始めるってことだったんだ。

Skrufff : あなたにはテクノのバック・グラウンドもありますよね?

Black Dog (Martin Dust) : バンドはずっとやってたんだ。パンク・バンドから始まって、Bad Brains とか Germs とか Circle Jerksとか、ちょっと前のアメリカン・スラッシュ系にかなりハマッてはいたけど、別に、起きた途端 "やっぱり今日もこれ聴かなきゃね!" って程ではなかったし。Floyd なんかも好きだね。Floyd は全てが良い!テクノ・リスナーって視野が狭いって思われてるみたいだけど、そんなことは全くなくて、Danzig とか Misfits とかも聴けば、Derrick May も聴くのさ。

Skrufff : Phil Oakey に何回かインタビューしたことがあるんですが、そこで Gatecrasher に行かれた時の話をされていました。Gatecrasher には行かれたことがありますか?

Black Dog (Martin Dust) : Gatecrasher には一回も行ったことないよ。あそこは最悪。お客主義っていうかさ。入るのに35ポンドでしょ、で、水が3ポンドにクロークは2ポンドで、何もしてないのに入るだけでまず40ポンドかかるんだ。Sheffield のアンダー・グラウンド・シーンでの評判は最悪だね。何もかもかっさらった挙句、ローカル・シーンのサポートは全くないでしょ。あそこは、まさにパンク・シーンがしたことと同じことを繰り返そうとしていて、パンクの間違いから全く学んでない。自分で自分の首を締めているだけさ。あそこが上手く行ってないのを僕くらい嬉しく思ってる奴はいないんじゃないかな。自業自得だと思うよ。

Skrufff : Sheffield のアンダー・グラウンド・シーンは今も存在しているんですか?

Black Dog (Martin Dust) : あるよ。労働者クラブの上とか、小さなパブとか、稽古場なんかでプレーすることもあるけど、もちろんフライヤーも配れないし、宣伝も出来ない。バレたら止めさせられちゃうからね。一番最近おおっぴらにやったのは、Andy Weatherall と Dust のDJを大勢呼んだやつかな。朝5時ごろになって、ベースを下げろって警察が来てね。それにしてもAndy Weatherallが来てくれたのにはかなり感動したなあ…。で、6時にまた警察が来て、立ちションしてたら結局やめさせられちゃったけど。ま、僕達がやってるのはそんなとこかな。

Sheffield には本当の音楽好のためのシーンはもともと無いに等しかったしな。ポップ好きにはいいかも知れないけど。だからよくデトロイトと比較されるのかな。シーン的にこの二つの都市は一つのことにかけちゃってて、他に何もないから自分で何かを作り出さないとダメなんだ。だからロンドンに移るつもりがないっていうのもあるね。ぬかりなくやらなきゃだめなんだよ。僕は5,000人のただ音を聴いてるだけの人の前でプレーするより、200人の音楽好きのためにプレイしたいんだ。

Skrufff : こういったシーンはあなたのプレイにどんな影響をもたらしているのですか?

Black Dog (Martin Dust) : みんな、プレイしたいトラックをプレイしてるだけだよ。このシーンの歴史は1979年の Throbbing Gristle とか Cabaret Voltaire に似てるんだ。みんな、パンク・ミュージックををどうやってつくるかは理解してたけど、それはもっと"あの音どうやってつくってるんだ?"みたいな感じだったし、そういった疑問が、僕の音楽制作を始めるきっかけになったんだよね。うちのレーベルでリリースしてもらおうとしてる Richard H. Kirk とは、しょっちゅう連絡を取り合ってるんだけど、彼はこのシーンをつくり出したアーティストなのに、それが十分に評価されてないと思うね。Sheffield でエレクトロ系の音が流行りだしたのは彼のサウンドがきっかけだったんだよ。それまでは Kraftwerk もエレクトロも、誰も何も知らなかった場所に全てを持ってきたのが彼だったんだ。

Skrufff : 彼は現在でも Sheffield で活動してるんですか?

Black Dog (Martin Dust) : 素晴らしい音楽をつくっているよ。一年に2〜3枚のアルバムは出してるかな。彼は朝8時に起きて、全部終わるまで仕事をするっていう北部特有の働き方をするんだよね。今も忙しそうだし、有能だしね。レゲエ・ミュージックとかを買いまくってるみたいだよ。凄く良いもの出してくるよね。僕たちも、Kenによくこうやって言ってたんだ。「音楽が頭の中にあるのに諦めることなんて出来ない。だから、音をつくる以外に選択はないんだ。音楽を体の中から出せよ。それが音をつくる理由なんだ」ってね。

End of the interview

Silenced は Dust Science Limited から発売中


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