HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Avus Interview

初期の作品から Midset Recordings、 Silver Planet などの人気レーベルで活躍し、’04年にリリースしたBorder Community からのシングル ‘Real’ によって一躍その名を世界に知らしめた Avus。その後は Ali Wells 率いる Perc Trax や、ドイツの名門レーベル Klang Elektronik などから次々とスマッシュ・ヒット作を出し、世界中のDJやリスナーから絶大な支持を受けている注目のミニマル系アーティストだ。

そんな彼が、Perc Trax の主宰者であり Avus ともいとこ関係にある Ali Wells と共に来日。旬なミニマル・トラックで大いにフロアを盛り上げていく貫禄あるプレイを披露してくれる直前に、デビュー当時のエピソードや James Holden との関係、また今後のリリース予定のことなどについて、 HigherFrequency が話を聞いた。

> Interview : Nick Lawrence (HigherFrequency) _ Translation by Kei Tajima (HigherFrequency) _ Introduction by Masanori Matsuo (HigherFrequency)

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HigherFrequency (HRFQ) : Discogs(アーティストのデータベース・サイト)に、あなたが始めて作品をリリースしたのは ’95年だと書いてありましたが、これは本当ですか?

Avus : いいや、実際はそれより遅かったよ。以前も Discogs で Rod Stewart の作品にドラマーとしてクレジットされていたことがあったんだけど、当時僕はまだ産まれてもいなかったんだ。要するに、完璧に信頼できるデータベースじゃないのさ。僕の初めてのリリースは’01年か’02年に Midset からリリースした ‘A Dark Purpose’ で、このトラックは僕が2番目に作った曲なんだ。

HRFQ : ではあなたが初めて作ったトラックはお披露目されていないんですか?

Avus : 初めて作ったトラックは ‘This Dark’ というタイトルで、Wilfred Owen の詩がサンプルとして使われているんだ。正直ちょっと自惚れた感じのトラックではあるんだけど、今でもたまに DJ Tool として使ったりするよ。ただこのトラックを表に出すつもりはないな。どのプロデューサーにも初期の頃に作った恥ずかしい作品っていくつかあると思うんだ。

HRFQ : あなたは楽曲制作を始める以前から DJ として活動されていましたが、楽曲作りを始めたきっかけは何だったのでしょうか?

Avus : 僕は大学を出てから、きちんとした仕事に就いたんだ。何をするにしても、常にメインとなる仕事は持っていたいと思っていたからね。それに、週に3〜4回 DJ をしながらフルタイムの仕事と楽曲制作を両立させることは出来ないと感じ始めていたんだ。僕が一番避けたかったのは、フルタイムの DJ になること。僕にとって DJ は趣味でなきゃいけなかったんだ。楽曲制作はいつでも自分の好きな時に出来るよね。夜中に起きて、コンピューターをつければその場で数時間楽曲作りが出来る。そういう方が普通の生活をしている僕にはフィットしたんだ。ただ、スタジオでハッとして起きたら7時で、会社に行かなきゃならない…なんてことも時々あるから、ちょっと熱中しすぎかもしれないけどね。 それに、僕がプロデュースを始めた頃には既にDJ としての経験があったから、次のステージにステップ・アップしたかったというのも理由の一つかな。前から自分で音楽をつくってみたいと思ってたしね。実際に曲作りを始めたのは、僕がコンピューターを買って、James Holden が彼の持っていたソフトウェアを全部貸してくれて、使い方を教えてくれたからなんだ。既に使い方を知っている人が「これは Buzz っていう素晴らしいソフトウェアなんだけど、すごく使えるし、フリーなんだ。使ってみなよ」って言ってくれるとすごく助かるんだよね。

HRFQ : James とは楽曲制作を始める前からの仲なんですか?

Avus : 彼は当時Oxford大学で勉強していて、僕はオックスフォードにある Oxford Brookes っていう大学で勉強していてね。僕は地元のラジオ・ショーを担当していて、そこで働いていた友達を介して James がデモを送ってきたんだ。これは彼の ‘Horizons’ が出来るより前の話だけど、ラジオで彼の送ってくる曲を流していて、彼はすごくいい奴だから自然と友達になったのさ。

HRFQ : Perc は、あなたのまたいとこだそうですが、親戚に同じ業界の人がいると何かと役に立つものですか?

Avus : そうだね。特に Alistair (Perc) はレーベル業に携わっているからなおさらさ。自分の曲をプレイしてくれる人がいて、お互いに励まし合えるってだけじゃなく、僕も過去に経験したけど、レーベルとの複雑な問題に直面した時に、契約書をチェックしてもらったり、アドバイスをくれる知識を持った人がいると助かるんだ。彼には絶対的な信頼を置いているし、もし彼が悪いことをすれば、僕の母親に言いつければいいのさ(笑)彼とはずっとお互いを助け合っていて、Alistair の初めてのリリースは ‘A Dark Purpose’ のリミックス盤だったんだ。トラックがリリースされた後、彼が曲を気に入ってたのを知ってたから、パーツをあげたのさ。もちろんその逆に、Alistair も彼のレーベル Perc Trax から作品をリリースしてくれたし、彼自身と一緒に、僕のことも積極的に宣伝してくれるんだ。

HRFQ : 先ほど仕事の話をされていましたが、現在でも音楽以外の仕事を続けれらているんですか?

Avus : イギリスのメルセデス・ベンツのヘッド・オフィスでマーケティングを担当してるんだ。僕はこういった2重の生活が好きでね。昼はスーツを着て、僕が週末に日本に来て DJしてることも知らない人たちと一緒に仕事するなんて、ちょっとスパイみたいな感じだよね。もう一つ人格があるみたいでさ。いい息抜きにもなるよね。大きな会社で長い時間仕事をしていると、プレッシャーを感じることがあるんだ。だからそれを逃れるためには音楽がパーフェクトってわけ。何日か休みを取ってスタジオで音楽制作に没頭すればいいんだから。

Avus Interview

HRFQ : あなたの楽曲には Bill Hicks (アメリカのコメディアン) の声をサンプルしたものがありますね…

Avus : そうなんだ。でもそのサンプルが許可されてるとは思えないから、それについてはあまり話さないようにしていてね。面白い話なんだけど、僕は以前 Poodle っていうロンドンのテック・ハウス系レーベルでトラックをリリースしていたことがあったんだ。その Poodle を運営していたオーナーはグリーン党(政治団体)に所属している政治家でね。僕は大学で政治を専攻したんだけど、僕がトラックに面白いタイトルを付けて、それとまったく関係のないような楽曲を作っていたから、彼はいつも面白がっていてね。「それだけレコードを売ってるんだから、何かメッセージを発するべきなんじゃないの?」 って彼に言われたんだ。当時はちょうど George Bush が力を付け始めていた時で、たくさんの権力を持った人々が自分たちが信じるもの、自分たちが正しいと思うことのみをベースに決断を下しているような気がしていてね。Bill Hicks は僕の大好きなコメディアンで、彼はいつも“自分が信じていることは、結局自分自身だけが信じていることであって、私たちは常にそれを覚えてなきゃならない”って説明するんだけど、僕はその瞬間が大好きだったんだ。自分が信じることなんて、自分の成長過程で脳に刻み込まれただけのものであって、それをベースにすべての行動を起こしていたら、一概にその判断が正しいとは言えなくなってくるよね。だから、もし僕が発することの出来る、幅広い意味を持つ当たり障りのないメッセージがあるとすれば、それだと思ったのさ。でも、例え僕が Bill Hicks を大好きでも、僕が彼の声をサンプルしたことを、彼が快く思うかは分からないからね。

HRFQ : あなたは音楽というものを真剣に捉えられていますか?

Avus : 音楽そのものについてはすごく真剣だよ。以前から…特にラジオ・ショーをやってる時なんかはかなり厳しかったね。ミニマルがまだ流行る前から聴きこんでいて、3回以上サンプルが使われているトラックはダサすぎて聴けなかった。でもその他の部分は純粋に楽しみながらやってるよ。例えば、僕の作品の “Thank You” リストは誰よりも長い。そこは思いっきり楽しむパートだと思ってるからね。あと、今回の日本でのギグみたいに、自分にとって冒険だと思うギグなら何でもやるんだ。だから音楽についてはものすごく真剣。でも、プロダクション以外のことについては楽しむことや人と会うことを優先に考えたアプローチをしてるんだ。

HRFQ : あなたのトラックは今までに James Holden の “Balance” や Dave Seaman の “GU”に収録されてきました。いつかご自分でもミックスCDをリリースしたいと思われますか?

Avus : どうだろうな。もし誰かに頼まれたらやるかもしれない。それもまた冒険の一つだからね。ただ、今はミックスをウェブサイトやラジオ局に送るのが楽しくて、毎週土曜の午後に1時間半くらいのミックスを作って、誰かに送ってるんだ。ミックスCD って、誰もが出来るような、他のミックスCDとあまり変わり映えしない、僕にしてみれば売れるはずのない作品を作ることも出来てしまうし、反対に時間をたっぷりかけて、情熱をつぎ込んで作ることも出来ると思うんだ。 この間 James がリリースした ”At The Control” なんかは、ものすごく複雑で賢い素晴らしいミックスCDだと思うよ。ただ、やり方を間違えると、”Involver” のように、一つ一つの楽曲の良さを殺してしまうようなミックスにすることも簡単なんだ。でも、上手くやれば、James みたいに、僕が考えるに今までリリースされたミックスCDの中でも一番の出来だった “At The Control”のような作品を作ることも出来る。そのためには、相当集中しなければならないし、僕にはそういった時間がないのさ。それに、僕は彼のように賢くない。物事には才能のある人に任せておく方がいいこともあるんだ。

HRFQ : Barbarella から作品をリリースする予定だそうですが、発売はいつですか?

Avus : もうすぐだよ。Barbarella はカジュアルなレーベルだからまだ正式な詳細は決まってないんだ。’Taken’ というトラックで、その DJ Tool が僕の myspace のページで試聴できるよ。‘Sear Interceptor’っていう曲は僕にしては結構ハードな曲でね。今回の作品は両曲とも結構ハードかもしれないけど。‘Taken’ はかなりデトロイトっぽい感じだよ。デトロイトが大好きだからね。本当は今年の末にリリースの予定だったんだけど、彼ら(Barbarella) は、僕みたいな感じでビジネスに関してはかなりスローなんだ。

HRFQ : それ以外の作品でリリースが予定されているものがあれば教えてください。

Avus : あるよ。ここで言うのが初めてなんだけど、Border Community からリリースがあるんだ。そのうちの一曲はまだ名前を決めてないんだけど、もう一つのトラック名は‘Spanker’ って名前でね。‘Spanker’ は仕上げてから結構経っていて、Acid Tool ヴァージョンもあるんだ。‘Spanker’ は僕が今までにつくった曲の中でも一番ハードな作品だと思う。このトラックは、Richie Hawtin の Time Warp でのセットを DVD で観ていて、その後にすぐスタジオに入って作ったものなんだ。この曲を James に渡した時、彼の口から出てきたのは、「君にこんな曲を作る勇気があるとは知らなかったな!」って言われたんだ。この曲が僕の通常の作品よりどのくらいハードだったか想像がつくよね? かなりバラエティーに富んだ EP になると思うよ。だって名前の付いてないトラックの方は通常の Border Community らしいスムースな感じで、‘Spanker’はかなりハードなんだ。中には驚く人もいるだろうね。でも、Border Community のコンセプトはそのクオリティーで人を驚かせるというところにあるし、また違った方法で人を驚かすことが出来るのって素晴らしいと思うんだ。以前 ’Real’をリリースした時も、驚いた人はいたと思うんだ。あの曲はそれ以前の曲よりもっとディープな感じだったからね。

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