HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

Atomic Hooligan Interview

ブレイクスをベースに、テクノ、ヒップホップ、ロックといった様々なジャンルを豪快に飲み込んだ荒々しいサウンドで日本でも高い人気を誇っている Terry Ryan と Matt Welch からなるユニット Atomic Hooligan。今回の来日公演では DJ として活躍する Terry とツアー・メンバーであるビート・ボクサー Xander の2人というミニマルな編成であったにも関わらず、ageHa の巨大なステージを貫禄さえ漂う余裕のステージングで見事にロックしてくれた。

そんな以前にも増して頼もしい姿をみせてくれた Atomic Hooligan の Terry に、イベントの数日後 HigherFrequncy はインタビューを敢行。生真面目なまでに率直なブレイクスへの愛情が溢れる語り口で、待望の新作やシーンの現状について、たっぷりと話を聞かせてくれた。

> Interview : Nick Lawrence (HigherFrequency) _ Translation & Introduction : Yoshiharu Kobayashi (HigherFrequency)
Photo : Hidetomo Hirayama & Ryota Kawai

triangle

HigherFrequency (HRFQ) : こんにちは。本日はお時間をいただきまして、ありがとうございます。

Terry Ryan : かまわないよ。

HRFQ : では、早速始めさせてください。今一番ブレイクスが熱い国はどこだと思いますか?

Terry : ロシアが最高なんだ。ロシアはビッグ・パーティーにピッタリのでっかい国だし、ラッキーなことにブレイクスが好きなプロモーターもいるしさ。そういったビッグ・プロモーターがいる国ではブレイクスは結構プッシュされているから、リスナーにも受け入れられやすい気がするね。前はオーストラリアが結構よかったんだけど、今はあんまりだな。オーストラリアは Krafty Nuts の成功おかげで状況がかなりよくなったんだ。でも、結果として Krafty Nuts だけじゃなくてブレイクス全体に注目が集まり過ぎてしまってね。もちろん、それは Krafty Nuts のせいじゃないんだけどさ。カナダではブレイクスが大人気だね。もうカナダ中で人気だよ。 ドイツも今はかなりブレイクスが盛んだな。あそこには最近素晴らしいクラブ・シーンがあるから、ブレイクスがそこに上手くはまったんじゃないかと思うんだ。何年か前からドイツにはちょっと変わったブレイクスがあって、今ではスマッシュ・ハウスと呼ばれてるらしいよ。基本的にはブレイク・ビーツなんだけど、ちょっとだけテンポが速いんだ。しかし、ドイツは今本当に盛り上がっている感じがするね。イギリスもまだ凄くいい状態が続いているけど、ニュー・スクール・ブレイクス発祥地だからってことで一部の人が思ってるほど凄い状況ではないさ。そういった人たちが考えてるほど大きな流れになったことは、まだ一度もない。イギリス以外の国の人たちは、イギリスのダンス・シーンに対してかなり美化した見方をしているみたいだけど、実際はそんなにいいものでもないさ。でも、本当にブレイクスは世界中で人気が広がっていると思うな。ヒップホップとロックが全てを支配しているアメリカだけは別だけどね。

HRFQ : あなたたちのアルバム "You Are Here" について質問させてください。この作品は、Breakspoll で年間ベスト・アルバムに選ばれ、DJ Mag でもかなり好位置にランクインしましたね。こういった高い評価を得ることで、次のアルバムをつくるエネルギーが湧いてくるものですか?

Terry : 次のアルバムをつくることはいつだって考えてるさ。アルバム2枚分の契約をレコード会社と結んでいるからっていうのも大きいけど、とにかく次のものがつくりたいとも思うしね。今は70%くらいまで作業が終わったよ。ちょうど次のアルバムに使う曲のミックス・ダウンを始めたくらいのところさ。曲の傾向は前作の延長線上にあるけど、もっとシンプルになっているし、美しいものにもなっていれば嬉しいね。前のアルバムはちょっと騒がしい感じだったんだ。つくっているときは、自分たちでも凄く気に入っていたよ。今まで聴いた中で最高だし、今までつくった中でも最高だと思ってた。でも、今になって聴き返してみると、「あそこにあんなサウンド・エフェ クトいれなければよかった」って思ってしまうね。まあ、いつものことさ。次のアルバムも、前作と同じようなエネルギーを持った作品になるよ。急に方向転換して「今はカントリーにはまっているんだ」なんて言わないさ。でも、もっと精密でシンプルな、そしてたぶんもっとメロディが入った歌重視のものに仕上がると思う。

HRFQ : それは前作をつくっているときに生まれたアイデアなのですか?

Terry : そうさ。前作の方向性には合わなくて収録できなかった曲がいくつかあったんだけど、それにもう一回取り掛かって、次のアルバムに合うようにつくり直してみたんだ。

Atomic Hooligan Interview

HRFQ : あなたは主に DJ を受け持っていて、Matt はスタジオ・ワークが中心ですよね。こういった違いによって、Atomic Hooligan としてのヴィジョンがすれ違うことはあるのでしょうか?

Terry : いや、それはないね。ラッキーなことに、俺と Matt は全然違うタイプのミュージシャンだからさ。創作活動に関して言えば、俺は2日に一度くらいスタジオに来て、ドラムマシーンをいじったりしたら、次の一週間はどこかに出かけてみるようなタイプなんだ。でも Matto の方は、ずっとスタジオにいて全て仕上げるようなタイプでね。俺はあいつのやり方に敬意を払っているし、あいつも俺のやり方に敬意を払っているよ。俺はスタジオから出ていって今の音楽シーンがどんな感じかと色々聴いて回っているんだけど、あいつはできるだけアルバムがいい音に仕上がるように細部までこだわってスタジオ・ワークに専念するんだ。二人が一緒にやることでちょうどその中間でバランスが取れるから、いいコンビなんだと思う。いいユニットっていうのは、大体こういった関係なんじゃないかな。Underworld なんかは、Darren Emerson がいたときは本当に素晴らしいグループだと思ったね。彼はスタジオから飛び出して色々なことをする人なんだ。彼が DJ をしていたから、彼らならではの見方が注ぎ込まれた 'Cowgirl' や 'Rez' といった名曲が出来たんだろうね。Stanton Warriors や Plump DJs なんかも、ダンス・フロアとスタジオという2つの要素が上手く合わさることで素晴らしい音楽ができるのを理解している人たちさ。

HRFQ : 2人でやることがあなた自身にとってもプラスになっていると思いますか?

Terry : ああ、そう思うね。Matt と一緒にやっているから、独りよがりになったり、自己満足に陥らないで済むんだ。他の人の意見に耳を貸さなくて、頭でっかちな音楽をつくってる DJ や プロデューサーはたくさんいるよ。でも、2人で一緒に作業していれば、いつも違った見方を提供してくれる人がいるんだからね。例えば、Matt が2週間スタジオで作業を続けて、俺はどこか違うところに行っているとするだろう。それで俺が帰ってきたら、あいつはたくさんの曲を聴かせてくれるんだけど、俺は結構な数の曲をボツにするんだ。でも、あいつは「うん、その意見はもっともだな」と言って理解してくれる。俺たちは今、そういった感じで仕事を進めているんだ。4年くらい前だったら、Matt も俺にそんなこと言われたら気を悪くしていただろうね。でも、今は互いの考え方を信頼しているのさ。

HRFQ : あなたが色々ツアーして回ることを、Matt が羨ましがるようなことはないのですか?

Terry : あいつは本当にスタジオにこもって作業をするのが性に合ってるんだ。でも、もしあいつがまだ日本に来たことがなかったなら、今回俺が1人で日本に来るのを羨ましがっただろうな。ずっと日本に行ってみたいと思ってたらしいからさ。でも、Matt は日本に来たことがあるし、またライブをやるときに帰ってこれるからいいんだよ。最近はあいつもライブに出て、サウンド・エフェクトとかをやり始めたんだ。だけど、基本的には家に彼女といる方が好きみたいだね。最近、家も買ったばかりだしさ。スカッシュをしたり、庭の野菜を世話にしたりするのが好きなんだ。それがあいつの好きな生活スタイルなのさ。

HRFQ : 今ライブのお話が出ましたが、あなたは Fabric Live や Glastonbury で10人編成のバンドでプレイもしましたよね。そんなに大人数でツアーを回るのはどういった感じなのでしょうか?

Terry : まるで軍隊が移動してるみたいなものさ。正直言って、物凄く大変だよ。あんなにたくさんのメンバーで、同じ時間に同じ場所にいないといけないわけだからね。俺と Matt が親役になって、たくさんの子供を一列に並ばせて学校に行く前に着替えをさせようとしているようなものさ。でも、ステージに上がって、演奏をして、クラウドの反応を見ると、最終的には最高だと思えるんだ。ライブに向かっているときはいつも「もうこんなこと二度とするもんか。最低だ、やってられるかよ。俺たちだけで DJ をすることだって出来るんだ。ギャラは5倍になるし、言い争いだって何百倍も減るはずじゃないか」って思うんだよ。でも、ライブが終わると結局は「最高だ、これはやめられないぜ」って思ってしまうんだよね。あの編成でのライブは最高だし、大好きなんだ。色々と考えることはあるけど、最終的にはいつも楽しむことが出来てるよ。

HRFQ : ライブと DJ では全然違うものですか?

Terry : ああ、全くの別物だね。もちろん近いところもあるさ。でも、それもクラウドやプレイする場所次第だね。フェスティバルっていうのは演奏の間に MC が入ると観客が喜ぶような、ちょっとゆるめの雰囲気なんだ。でも、 Fabric みたいなところでやるとまた違うんだよ。あそこは凄く大きなクラブで、クラウドもただ踊りに来ているだけだからね。たぶん本当に Atomic Hooligan を観に来ている客は20%くらいしかいなくて、残りの80%は踊ることが目的で来ているはずなんだ。だから、プレイをするときはそういったことも頭に入れておかないといけないね。でも、DJ をしているときは、みんなただ踊りに来ているだけなのさ。ヴォーカリストを見に来るわけでも、すごいギター・ソロを楽しみに来ているわけでもない。ただ踊りに来ているんだよ。それがフェスティバルとクラブの大きな違いさ。

DJ をしているときは、オーディエンスも踊ったり、飲んだり、誰もがクラブですることをただしているだけなんだ。それにしても DJ っていうのは、やっていると完全にのめり込んでしまうものだね。音楽がガンガン鳴り響くところにいて、2時間ただそれだけに集中するんだからさ。DJ をしていると、全く違った人間になってしまうみたいな感じがするよ。ライブをしているときにはこういった感覚はあまり得られないんだ。ライブでは客を楽しませるパフォーマンスをしようとするし、手を振ってクラウドとコミュニケーションを取ったりするのも大事なことだからね。

HRFQ : 自分の作品をリリースするために自主レーベルを立ち上げるプロデューサーがたくさんいますが、あなたの Menu Music からは Atomic Hooligan の作品はリリースしていませんよね。なぜ Menu Music を立ち上げようと思ったのでしょうか?

Terry : 新しい音楽を送り出していきたいと思ったからさ。新しい音楽を探したり、プレイしたりするのが俺は大好きだから、まだ他の人が知らない音楽をみつけるには自分でレーベルを始めるのが一番だと考えたんだ。だから、ちょっとわがままで始めたようなものさ。それに Atomic Hooligan の曲は出さないつもりではなくて、まだ出ていないというだけなんだ。今のところ俺たちは、ニュー・アルバムをつくるのに専念しているからね。そのアルバムのためにリミックスも一つしたし、うちのレーベルと契約した Dopamine の曲のリミックスもやるつもりさ。Menu Music は自分たちのためのものじゃないんだ。ディストリビューターはそうであって欲しいと思っているみたいだけど、実際は新しい音楽を送り出していくためのものなんだよ。多くの自主レーベルが抱えている問題っていうのは、他のレーベルから出せるほどいい音楽をつくっていないのをオーナーをしているアーティストが認めたがらないということさ。それがダンス・シーン全体のクオリティを下げている一つの要素だと思う。特にブレイク・ビーツのシーンではそれを強く感じるな。どのアーティストもみんな大した出来じゃない自分の曲や友達のトラックをリリースするためにレーベルを始めるんだからさ。そんな傲慢な話はないだろう。俺たちは本当に意味のあるレーベルを立ち上げたいと思ったんだ。「こんな音楽を聴いたのは Memu Music が初めてだよ」とみんなに言ってもらえるような作品をリリースしていきたいと思ってる。自分たちの曲も将来的にはリリースしていくつもりだけど、それだけのためのレーベルにするのではなくて、まずはちゃんと地に足の着いたものとして育て上げて行きたいんだ。

Atomic Hooligan Interview

HRFQ : では、今はレーベルがたくさんあり過ぎると思いますか?

Terry : 本当に多過ぎだね。ゴミみたいな小さなレーベルを抱えたディストリビューターっていうのはたくさんいるんだ。そういったディストリビューターの存在が俺たちのレコードのセールスを落とす一番の原因だよ。今は3千枚以上のレコードを売るなんてほとんど無理に近いんだ。だって今じゃ、そこらへんにいる DJ がたった2日で覚えられる機材が置いてある自宅のスタジオで曲をつくってリリースしているんだからね。本当に大変だけど、もうかれこれ10年もそういった状況の中で続けてきたよ。前は1万枚のレコードを売っていたんだけど、今じゃ3千枚以上は相当難しいんだ。Statnton Warriors みたいなビッグ・ネームは、5万枚は売ってもおかしくないはずなのに、実際は1万枚くらいしか売っていないんだろうね。今のシーンはレコードの数が多過ぎて、リスナーも何を選んでいいのか分からなくなっているんだ。レコード・ショップに行ったら、More Fire Records とかそういう名前のレーベルが山ほどあったりしてさ…。もしかしたら実際に More Fire Records っていう名前のいいレーベルがあるかもしれないから、これは載せないほうがいいかもな(笑)とにかく、他のレーベル契約が取れないような奴やそいつの友達の曲をリリースしているどうしようもない小さなレーベルがたくさんあるということさ。そういったレーベルのせいで、1曲ごとの価値が下がってしまうんだ。レコードが溢れ過ぎてしまっている現状はよくないと思うよ。

HRFQ : 今はニュー・アルバムを制作中とのことですが、何か他に予定はありますか?

Terry : もっとツアーをするつもりなんだ。これからオーストラリアに戻るんだけど、たぶん年末にはまた日本に帰ってこれるはずさ。予定は決まってないけど、中国にもまた行くだろうね。3月にイギリスでミックス CD がリリースされたら、それに併せてツアーもするよ。バンドには新しいヴォーカリストが入るから、その新しい編成でまたライブをやるつもりさ。それに、夏にはいくつかフェスティバルにも出るんだ。ウクライナで黒海を背にして2ヶ月間もやるビーチ・フェスティバルに出演する予定だよ。実際は2ヶ月ずっとそこにいるわけじゃないけどね。去年も出たんだけど、あれは本当に楽しみだな。それからチェコでライブをやって、またカナダに3週間ぐらい行く予定になっているんだ。

HRFQ : 先の予定までしっかりと決まっているんですね。

Terry : そうだね。DJ や ライブの計画はもう12月や1月のことまで考えているんだ。だから、先の予定まで事前にしっかりと決まっていると言えるね。

HRFQ : 質問は以上です。どうもありがとうございました。

Terry : オーケー。こちらこそありがとう。

End of the interview




関連記事


関連リンク