HigherFrequency  DJインタビュー

ENGLISH INTERVIEW

トルコ出身のビジュアル・アーティスト Ali M. Demirel。核工学と建築学を学んだ後、ご存知「テクノ科学者」の異名を持つトップ・アーティスト Richie Hawtin との出会いをきっかけに Minus の数々のビデオを制作。また Minus 専属としてツアーに同行し、ビジュアルライブを披露。概念的基礎を持ち、構造組成がなされている彼の映像スタイルはミニマルで、見ている者を独特の世界観に引き込んでしまう。’08年3月に開催された WOMB MOBILE PROJECT CLUB PHAZON で彼のVJを体感し、心を掴まれた者も多いのではないだろうか。そんな Ali M. Demirel にインタビューを決行。HigherFrequency では初となるビジュアル・アーティストへのインタビューとあって、音と映像の融合に対する素直な疑問や Richie Hawtin との深い関係性について、また M_nus の10周年を記念したワールド・ツアー "Contakt" ファイナル・ショウケースとしてまもなく開催される WOMBADVENTURE への意気込みなど、貴重な話を訊くことができた。

Interview & Introduction : Midori Hayakawa (HigherFrequency) _ Translation : Yuki Murai (HigherFrequency)

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HigherFrequency (HRFQ) : 核工学と建築学を学んでいたとありますが、そこからどのような経緯を経てアーティストという今のあなたがあるのですか?

Ali M. Demirel : 大学では、現代物理学に興味があったので核工学を学んだのだけど、後になって、自分は視覚的に物事を考えるほうだと気づいて、視覚的なデザインをやったほうがより満足できるように思えたから、建築学を学ぶことにしたんだ。 学校を出てからは建築についてはなにもやってないんだけど、別な形での視覚的なデザインをしているし、そっちのほうがより自分らしく、実験的にできているんじゃないかと思うよ。 

HRFQ : 影響を受けたアーティストは誰ですか?

Ali M. Demirel : 色んな方面でそれぞれ違った影響を受けたから、名前を挙げるのは難しいな。最近では、ヴィジュアル方面では杉本博司、音楽で言えばAlva Noto からインスパイアされてるよ。

HRFQ : あなたの音楽歴をお教えいただけますか?

Ali M. Demirel : 父の持ってたクラシックのコレクションを聴いて育ったよ、主にベートーベンとかね。十代の頃でも、ポップ・ミュージックを集めたりすることはなかったな。 その後、Stockhausen (Karlheinz Stockhausen) とか、Cage (John Cage)、Berio (Luciano Berio) みたいな実験音楽が好きになったね。

HRFQ : あなたの映像作品からは抽象的な、有無、生死にも通ずる独特の世界を感じるのですが、これは音から生み出された世界観なのですか?それとも元々このような世界観をお持ちなのですか?

Ali M. Demirel : 実際のところ、僕の作品はいつも強力なコンセプトに基づいて作られてるよ。音楽がまず一番最初のアイデアを与えてくれるけど、それを僕自身の映像哲学にのっとって組み立てていくんだ。

HRFQ : ライブの前にはアーティストと入念な打ち合わせなどするのですか?また具体的にどのような形で打ち合わせるのですか?

Ali M. Demirel : 僕はRichie HawtinとMinusのアーティスト達としかライブをやらないので、彼らの音楽やライブの仕方は十分よく解ってるんだ。だからこそ、僕もスペシャルなヴィジュアル・セットを一緒にやることができるんだよ。

HRFQ : 差し支えなければ、使っている機材など教えていただけますか?

Ali M. Demirel : 僕の機材はソフトウェア・ベースだね。ミュージック・ビデオの場合は、Final Cut Proで編集をして、Adobe After Effectsでコンポジットする。ライブ・パフォーマンスの時は、Quartz Composer と Processing を映像生成に使って、VDMXでミックスとパフォーマンスをするよ。

HRFQ : PV制作などとは違い、VJはリアル・タイムで行われるわけですが、ものすごいスピードの音の変化、グルーヴをどのように捕らえて映像を写し出しているのですか?

Ali M. Demirel : 僕は、形・色・動きの全要素、組み合わせが可能なようにデザインをしてるんだ。例えばロックのショーみたいに、どの順番で何曲やるかが判っているような場合とは違って、音楽が「ライブ」である以上、僕もいつ、どこで音の雰囲気が変わるかは知りようがないわけだから、僕も即興で映像の要素を構築していくんだ。全部プランニング済みのショーみたいに、全ての雰囲気を掴むことはできないとはいえ、その不確定な部分こそがエキサイティングだし、皆もそう感じてると思いたいな。 ショーのたびに、音と映像が完璧に調和してる特別な瞬間があって、あるお客なんて「全てはこの特別な瞬間のためだ!」って言ってくれたよ。

HRFQ : VJをする際に様々な映像集などを用意していると思うのですが、その素材となるもの一つ一つも音からインスピレーションを受けて作ったものなのですか?

Ali M. Demirel : 最近のセットには実はいわゆる”映像”は全然入れていなくて、あれは全部コンピュータが生成した抽象的なイメージなんだ。 以前は、(アンドレイ・)タルコフスキーの「ストーカー」と、(ノーマン・)マクラーレンがバッハの曲に合わせて作った短編の実験映画からの映像を使ってたね。マクラーレンはミニマル・アブストラクトな映像を作る上で一番インスピレーションを受けたし、ミニマル・テクノとの相性はパーフェクトだよ!「ストーカー」はまた全然違って、映像が持ってるオーラが強烈で病的だから、僕がライブを一緒にやる音楽と合わせるとすごく妙な雰囲気が出てきて、いままで行ったことも感じたこともないような、予想外の世界に連れてってくれるよ!

HRFQ : 普段の生活の中では、あなたの作品に繋がるインスピレーションを何から受けますか?

Ali M. Demirel : スパゲティ・ウェスタン(訳注:’60〜’70年代、イタリア等で低予算で撮影された西部劇)かな。

HRFQ : 今回一緒にパフォーマンスすることとなる Richie Hawtin との出会いについて詳しく教えていただけますか?またあなたからみた Richie Hawtin はどのような存在ですか?

Ali M. Demirel : ’01年にニューヨークに住んでいた頃、Plastikman プロジェクトにものすごくインスパイアされてね。曲につけたい映像のアイデアがあって、まさにこれだと思ったから、それを Richie に送ったんだ。それが実は最初のミュージック・ビデオ作品になったんだけどね。 その後、「気に入った」って返事が返ってきて、会うことになって、それ以来一緒に仕事をしてるよ! この話と彼の音楽性からもわかると思うけど、Richie はすごくオープンマインドで、クリエイティブで賢くて、それにすごくクールでフレンドリーな人だね。

HRFQ : Richie Hawtin のDJセットであなたのVJを初めて体感した時、まさに音と映像のシンクロナイズを感じたのですが、あなたと Richie Hawtin の間にある”理解”とはどういうものですか?

Ali M. Demirel : 僕達はアーティスティックな面での好みや目指してるものが、すごく似ているんだ。出会って一緒に仕事をするよりも前から、彼はミュージシャン、僕はビデオ・アーティストとしてではあったけど、同じようなことをやっていたから、いざ一緒にやってみたら映像と音が自然と調和したわけさ!

HRFQ : 音と映像(視覚と聴覚)の融合についてあなたの意見をお聞かせ下さい。

Ali M. Demirel : 映像と音楽は同時に存在しているものだと思ってるよ。イメージは音なしでは存在せず、音はイメージなしでは存在しないといった感じでね。 恐らくこれは僕が学んでた現代物理学からの影響だと思うけど、協調させるってことはすなわち、共存する要素を見つけるということに尽きると思うんだ。

HRFQ : 今後の活動予定を教えていただけますか?

Ali M. Demirel : Richie Hawtin と僕は、ライブ・パフォーマンスを新しいテクノロジーで更に次のレベルまで押し上げようと頑張ってる。 毎年パフォーマンスは向上していってるし、それをやっていくのはすごく楽しいよ!

HRFQ : '07年4月に開催された Club Phazon M_nus Special でのプレイの際、確か日本の風景写真を使っていた記憶があるのですが、今回のWOMBADVENTUREでも日本を意識したパフォーマンスなどお考えなのですか?また、これまでに何度か日本に来ていると思いますが、日本の印象をお聞かせ下さい。

Ali M. Demirel : そう、あれは日本向けに特別にデザインしたものだったよ。その時が初来日だったんだ。 僕を早い段階で日本に連れてきて、僕に日本からの映像的なインスピレーションを集めさせて、準備するっていうのはRichieのアイデアだったんだけど、最終的にすごくいい結果になったと思うな。 世界中たくさんの場所でパフォーマンスを行なってきたけど、日本の文化には一番インスピレーションを受けたし、それに、見てきた中では一番オープンで感情溢れるクラウドだね。 日本では僕自身のベスト・ライブ・アクトもあったし…。 僕達はお互いから多くのことを学び、与え合うことができると思う。日本に行って、パフォーマンスをするのはいつでも最高にワクワクするよ!

HRFQ : それではWOMBADVENTUREであなたを心待ちにしている日本のファンのみんなにメッセージをお願いします!

Ali M. Demirel : 12月、東京でのMinus CONTAKT ショーに向けて、しっかり準備しておいて!;] 

End of the interview


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