AO INOUE Interview

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既に噂を耳にしている人、そして実際に音源を手に入れている人も少なくないだろう。Audio Active と並び、日本におけるダブ隆盛の発火点となった Dry & Heavy の元ヴォーカリスト、AO INOUE が初のオリジナル・ソロ・アルバム 『Arrow』 を送り出した。驚くべきことに、このアルバムは全編インストゥルメンタルのダンス・トラック集。しかも、欧米のシーンを席巻しているベース・ミュージックを始め、彼のルーツであるレゲエやダブ、更にはテクノやハウスからの影響も雑食的に消化してみせた、強烈な一枚だ。大半のトラックにおいてヘヴィな重低音が鳴り響いているという点はもちろんだが、その音楽的な幅広さや自由度という点においても、本作は近年のポスト・ダブステップ / ベース・ミュージックとの近似性が感じられる、極めて現代的な作品だと言っていい。

 

そして、以下の対話で本人の口から詳しく語られているように、このアルバムは、AO 氏の自己再生の物語でもあり、また震災後の日本の再生への願いが込められた作品でもある。だからこそ、この 『Arrow』 に宿っているヴァイブは、まるで未来に向かって射抜かれようとしている一本の「矢」のように、どこまでも前向きで力強い。

 

 

 

 

 

interview : Yoshiharu Kobayashi

――アルバムのリリースから一週間くらい経ちましたけど、メディアやリスナーからの反応はどうですか?

 

AO INOUE : まさに今、感想が集まり始めていますね。やはり歌っていないのを意外に感じたという声もありました。でも、そういう驚きがあったことも含めて、よかったなと思っているんです。また、一年弱くらいかけたプロジェクトなので、達成感と、作業が終わってしまったことの寂しさが同居している感じもありますね。

 

 

 

――やはり世間では、AO さんはシンガーというイメージが強いわけですよね。でも、トラック制作も昔からやっていたと伺っています。

 

AO INOUE : そうですね。2003年、2004年くらいから作り始めて。ただ、どこかにプレゼンしようとかいうのは全くありませんでした。純粋に自分でやっていた DJ とかのために作っていたんです。例えば、ルーツのダブからテクノっぽい曲に行く間に3曲くらい欲しいな、とか考えながら作っていたんですよ。今回、アルバムとしてまとめる時に、歌をどうしようかな、って考えたことはあったんですけど、始めからインストで作っていたものなので、そのままにしました。

 

 

 

――Dry & Heavy のシンガーとしての活動、DJ としての活動、そしてトラック制作は、それぞれ自分の中ではどのような位置づけでやっていたんですか?

 

AO INOUE : (トラック制作を始めた)当時は、Dry & Heavy はメンバーの入れ替えがあった後で、『From Creation』 っていうアルバムを作って、なんとか体制を整えながら、もう一つ大きなステージの方に行ってみようとしていました。そっちはそっちで気合を入れてやっている状態でしたね。で、DJ は2000年過ぎくらいから始めたんですけど、DJ をやりたかったのは…… Dry & Heavy だとメンバーの数とか規模を考えても、東名阪プラス福岡、札幌、たまに沖縄っていうように、結構大きな都市での活動が多かったんです。でも、DJ なら地元のバーみたいなところも含めて、いろんな都市を周れる。もっとじかにいろんなシーンを知りたいし、それが僕にとって地に足が付いた活動なんじゃないか、と思ったんですね。

 

トラック・メイキングに関しては、本当に作りたくて作っていただけ、っていうのが正直なところで。僕、楽器は全然できないんですけど、機械いじりは昔から好きで。ちょうどそういうのと、当時機材を買ったこと、そして音楽を作りたいっていう衝動が、パッと折り合いがついた瞬間があって。そこから作り始めたんですよ。例えば、サンプラーがもう少し大きかったらやらなかったかもしれないっていうような(笑)、本当に単純な衝動だったんで。トラック・メイキングに関しては、Dry & Heavy が本職だとしたら、趣味みたいな位置づけだったと思いますね。

 

 

 

――元々トラック・メイキングは趣味としてやっていたものなのに、今回のようにまとめて発表しようと思ったきっかけは何だったんでしょうか?

 

AO INOUE : 2010年の春くらいに、今後どうしようかなと考えていたんです。自分のプライベートなことだとか、バンドの動きだとか、そういうものがあんまり上手くいかなくなった時期があったんですね。そのタイミングでこれまでの17、18年間を振り返ってみたら、かなり落ちちゃったというか。「どうしよう、これから」、「このままではいけないかもしれない」っていう精神的な旅が始まっちゃった時期があったんですよ。その時に、Dry & Heavy も辞めようと。脱退は2010年の秋くらいですね。

 

僕の音楽活動は、DJ 以外はずっとバンドだったんです。Dry & Heavy の前にもバンドをやっていましたから。で、これまで一人で作ったものってあったのかな、って振り返った時期があって。その時に、5、6年は聴いていなかった2004年のデモを聴き直してみたんですね。過去の自己検閲の記憶があったので、(当時の曲は)激しくて、怖くて、やかましいものなんだろうなというのがあったんですけど(笑)、聴いてみたら思ったよりも曲になっているなと。なので、これは 〈Beatink〉 の信頼できるスタッフに、金どうこうではなくて、自分が一人だけで作ったものがどういう風に聴こえるのか、そのインプレッションをもらいたいと思ったんですね。その感想を参考にして、これからやっていこうかな、っていう自分なりの確認みたいなものだったんです。とにかく、今まで自分がやってきたことに全く自信が無くなっちゃっていたような状況だったので。

 

けど、デモを渡してから3、4ヶ月は全くリアクションがなかったので、「まあ、そういうことだろうな」って思っていたんです。感想くらいは訊きたいけどな、と考えてはいたんですけど。そしたら、ちょうどそう思っていたところに、〈Beatink〉 から、「うちで形にしませんか?」と連絡が来たんですよ。正直、その時はすごく嬉しかったですね。Dry & Heavy も 〈Beatink〉 から日本盤を出していましたから、「ああ、またここから出せる」って。もしかしたら、こういったレーベルとお仕事できるっていうこと自体、最後のチャンスかもしれないなと思いましたし。で、それからこのプロジェクトが始まったんです。まあ、なんとも幸せな話だなというか(笑)。

 

 

 

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――アルバムを作る前は落ち込んでらっしゃったということですが、全体のサウンド、アルバムのアートワーク、それに『Arrow』というタイトルからは、とても前向きな力強さを感じました。

 

AO INOUE : 結構、(アルバムのテーマとしては、)ベタに再出発っていうのもありましたね。自分が痛い目に会わないと気付かないっていう性格もあって(笑)、ミュージシャンとしても、40歳前の男としても、2010年にガクンとなっちゃって、これからどういう風に生きていこうかな、っていうのがあったんです。あと、3月にあった震災でも、僕はかなりベタに意識が変わりました。これは、もっと全体的な問題ですけど、「この国、どうなっちゃうんだろう」とか、「日本人って一体?」とか、「自分ってどうやって生きてきたのかな?」とかを考える時期があって。でも、震災後に改めて考えた時に、やっぱり自分は音楽をやりたいと思いましたし、聴いてくれる人達が楽しんでくれたり元気になってくれたり、自分の音楽がリスナーにとって素に戻るような瞬間であってほしいなと、もっと思うようになりまして。

 

2010年の落ち込んだ状態は自分にとって大きなことだったんですけど、それからいろんな人の力を借りて、自分を再生してきた。で、震災があって、本当に考え方もベタに変わったので、もし力強さが出ているとしたら嬉しいです。2010年に Dry & Heavy を脱退するまでは、ソロでやろうと考えたことなんて一回もなかったんですけどね。だから、そういう意味でもベタに意識が変わったと思います(笑)。

 

 

 

――具体的に、『Arrow』という言葉には、どのような意味を持たせているんですか?

 

AO INOUE : 僕から見ると、原発事故後の日本の状態は……三本の矢っていう話がありますよね? 矢は一本では折れちゃうけど、三本では折れませんっていう。でも、今の日本は完璧に折れちゃったなと。それは政府がどうこうというよりも、自分を含めて日本全体で矢が折れちゃった状態だと感じたんです。それで「矢」。あとは、原発事故があった時に、「ブロークン・アロー」みたいな核兵器のトラブルを扱った映画を思い出したんですけど、あの映画で描かれている状態も、やはり矢が折れてるようなものなので、「矢」がいいかもしれないなと思ったんですね。で、その矢をどのようにデザインするかってなった時に、今回はデザイナーさんにも色々とオーダーをさせてもらって、青い鳥の羽をつけたりすることで、もっとポジティヴなイメージにしたんですよ。英語圏の知り合いの人に訊いてみても、「アロー」っていうのはすごくポジティヴな意味合いがあると言われたので。ただ原始的な武器っていう意味合いじゃなくて、希望の象徴みたいにしたいと思ったんですね。

 

 

 

――今のお話からすると、『Arrow』というタイトルには、社会的な再生と個人的な再生という二つの意味が重なっているということでしょうか?

 

AO INOUE : ああ、そうですね。僕の音楽って、歌の時もそうなんですけど、自分の中の喜怒哀楽の感情表現プラスアルファなんです。そして、その感情表現の中には、希望的観測もあるんですね。「こういう風になりたい」とか、「こうであってほしい」っていうのが、ずっとありまして。僕自身、音楽の表現とは切り離して、反原発の動きをずっとやっていたんですけど、今回、原発事故の後にすごい無力感と無常観に襲われました。でも、これは本当にここからなんとかしていくしかない、っていう気にもなったんです。それに、もちろん自分が強く生きていきたいっていうのもありますし。全く自信がないところからのスタートだったので。

 

 

 

――音楽的には、今回のアルバムは近年のベース・ミュージックとの接点を指摘する声が多いと思いますが、そういう感想に対してはどう思いますか?

 

AO INOUE : 聴いてくれている方が、ダブステップを通過した耳で新鮮に思ってくれるのなら嬉しいと思いますね。ここ数年、ベース・ミュージックっていう括りがありますけど、この言葉はいいなと思ったんです。ジャンルで分けたりするのって、何かを探す時に有効だっていうのは理解しているんですけど、ダブステップとか2ステップとか言うよりは、ベース・ミュージックっていう言葉だと、もっと大きくて自由な感じがするので。実際、最近の 〈Hyperdub〉 とか 〈Brainfeeder〉 とか、注目を浴びているレーベルって、驚くほど自由じゃないですか。そういう意味ではいい時代になってきたんじゃないかなって思います。どこのジャンルにも属さなくていいし、曲を作っている人には夢がある時代だと思いますね。僕も自分が持っているレゲエの DNA みたいのが率直に生かせると感じていますし。だから、僕はベース・ミュージックっていう言葉は、廃れないでこのまま続いて欲しいと思っているんですね。ベース・ミュージックっていうのは意識しないでも僕の中から出ちゃうんで、その中で活動できたりとか、シーンに貢献できたりとかすれば幸せだなと思います。

 

 

 

 

 

 

――ただ、他のベース・ミュージックのアーティストとの違いを敢えて挙げるとすれば、どの曲もインストなのにしっかりとテーマ性、メッセージ性があることだと思います。今回は AO さんご本人の全曲解説を読ませてもらったので、特にそのように感じたのかもしれないですけど。

 

AO INOUE : インストでトラックを作るのも、歌詞を作ったりするのと結構同じプロセスなんだな、っていう風に思っています。トラック・メイキングも、自分の喜怒哀楽、感情表現だと考えているので。フレーズとかメロディとか、ちょっとしたドラムのフィルとかにも、わりとそういうものを注入して作りました。よく言われるのは、「この曲は何を参考にしたんですか?」っていうことなんですけど、そういうタイプの青写真ってないんですよね、僕は。仕込みの作業にしても、これはたぶんバンドマンとして染みついちゃってるんですけど、ワン・ループ作ってそこから広げていくっていうよりかは、わりと始めに頭からお尻まで整然と打ち込むんです。ここはイントロで、ここはこうで、って。楽器の構成も、基本的にはドラマーがいてベーシストがいて……っていう考え方になっているのかなって。打ち込みも完全に独学なので、その中で目指したいことっていうのは、感情表現をすることと、出来る範囲で音が合っているものにすること。たまに不安になると、コード表見たりするんですけど(笑)。でも、「情感的に大丈夫だから、いいや」っていうこともあったり。

 

あとは、メッセージ性のあるものが最初から好きだっていうのもあるんですよね。元々、黒人音楽が好きで、そのメッセージ性に惹かれてたりするので。それは高校生くらいの時からそうです。ヒップホップでもそうですけど、主張やメッセージの塊じゃないですか。レゲエも同じですね。一人の人が生きている、その生き方が詰まっているなと。で、そういうものが詰まっていそうなものに、僕はどんどん傾倒していったので。

 

 

 

――なるほど。では、このアルバムは、リスナーにはフロアで大音量で聴いて踊って欲しいのか、それとも家でじっくりと聴いて、そのメッセージ性を感じ取って欲しいのか。どちらの方が強いですか?

 

AO INOUE : まあ、(アルバムのライナーに全曲)解説を付けたのは、やはり歌ってませんから、こんなことを考えながら作りましたっていうことの参考にしてもらいたいと思ったからなんです。歌は言葉を使うので、人によって受け取り方は様々だとは思うんですけど、あからさまにメッセージがあるわけですよね。でも、今回はそういうものじゃないので、歌っていないけど、こういう思いを込めましたと。

 

で、大音量かホーム・リスニングかって言うと、ミックス・ダウンの段階で、もう一回考える時期があったんです。今回は、リスニングにも対応するような、なおかつ大音量で出しても個性が出るようなミックスにというように、マスタリングのエンジニアさんにもお願いしたんですよ。ミックス・ダウンもそこに気を付けました。家で聴けないものにはしたくないなっていうのがあったんですね。特に震災以降は。聴いてくれる人の日常の中に少し邪魔させてもらえればいいかな(笑)、っていう。四六時中聴けるようなものかは自分では判断できないですけど、なるべく自分なりにはそういう音作りにしました。ちなみに、今ライヴ用に使っているダブプレートに関しては、アルバムに入っている曲でもミックスをちょっと変えてたりしていますね。

 

 

 

――では、『Arrow』 のリリース・パーティーでもある1月14日の Zettai-Mu では、そのダブプレートのサウンドがばっちり聴けるわけですね。

 

AO INOUE : はい。この間の 〈On-U〉 でも色々かけたんですよ。『Arrow』 からの曲が3、4曲あったとして、それ以外の曲は全て最近作った曲とかで。アルバムに入っていない曲が何十曲もあるので、今回もそれはライヴでかけます。フロア用にエディットしたものと、後は全て自作音源ですね。

 

 

 

――最後に今後の活動について訊かせてください。これからのリリース活動は、ソロでインストのトラックものを作っていくのが中心になるわけですか?

 

AO INOUE : そうですね、メインはそういう形にします。ただ、たとえば次回作があったとしたら、そこに歌が入るか入らないかはまだわかりませんし、必要であれば入れることもあると思います。そこも自由度を確保してやりたいなと。また、若いバンドの客演とかで、レゲエはずっと歌っているんで。歌の方は今までずっと Dry & Heavy でやっていたような、マニアックな部分を残して、黒人音楽を自分なりに継承していきたいっていうのがあるんですよ。リズム感とかグルーヴとか、自分の土着にないものは訓練して身につけていくしかない。そこは自分の中で鍛えていくことなので、表現する規模の大小とかは関係なく、これから何十年もやっていきたいですね。で、それもやりつつ、メインはソロでインストっていう。今はまだ始まったばかりですけどね。でも、Dry & Heavy の時も、幸運にも海外ツアーには何度も行けたので、ああいうことをまた出来たらいいなと思っています。

 

 

 

 

 

end of interview

 

 

 

 

 

リリース情報

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AO INOUE - 『Arrow』 (2011)
品番 : BRC-307
レーベル : Beat Records
税込価格 : Y1980 (税込)

購入はこちらから→beatkart

 

 

 

イベント情報

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ZETTAI-MU - MONTHLY GROUNDATION in TOKYO

-JACK SPARROW “Author”+ GOTH-TRAD “NEW EPOCH”+AO INOUE “ARROW” TRIPLE RELEASE PARTY-

 

Date : 2012.01.14 (Sat)

Venue : AIR

Open 22:00

DOOR : Y3,000 _ W/F : Y2,500 _ AIR MEMBERS : Y2,500

 

Line Up

JACK SPARROW (Tectonic / Author / Exodus / Outlook Festival From UK)

KURANAKA 1945 (Zettai-Mu)

GOTH-TRAD (DEEP MEDi / BACK to CHILL)

DOUBLE BARREL - SHUNYA MORI ( Jungle Roots Band ) and MITSUHIRO TOIKE ( Dry & Heavy ) -

AO INOUE (ex.DRY&HEAVY)

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