90年代末から Klang Elektronik にて "Farben" 名義での活動をスタートし、以来ベルリンを拠点として活躍中のアーティスト Jan Jelinek。Cyan・Yellow・Magenta・Black の「色」EPシリーズ をはじめ、その後 ~Scapeなどから発表された Jan Jelinek 名義での独特なサンプリングを駆使した傑作 "Loop- finding-jazz-records" などを通し、その作品を高く評価されてきた。2010年11月、しばらく停止中だった Farben 名義の作品を自身のレーベル Faitiche から発表。2月末に同名義としては初となる来日ライブを決行したことも記憶に新しいが、今回、わずか2ヶ月程度の短いスパンとなる5月に、Jan Jelinek としての再来日が決定した。
Faitiche から Jan Jelinek とのコラボ作品を発表しているヴィブラフォン奏者 Masayoshi Fujita との共演も注目をあつめる中、2月のツアー後にベルリン現地でインタビューを行った。
Introduction : HigherFrequency
Interview : Märi Inoue
――2月末に待望のJapan Tourをされましたね。この時の感想をお聞かせ下さい。
Jan Jelinek : はい。京都のMETROでは、満員ではなかったけれどライブの後とても感動して、自分自身のプレイにも満足しました。東京のUNITは…沢山の人がいたこともあって、ステージも大きかったし、オーディエンスと僕との距離もちょっと離れていたから、自分では良かったかどうかあまり分からないです。でも、オーディエンスはきっと楽しんでくれただろうと願いたいです。それにUNITは、過去数回プレイをしたこともあって大好きなクラブだし、特にサウンドシステムは素晴らしいと思います。
――そこで聞きたかったのですが、Farbenとして活動をスタートした後、あなたは Jan Jerinek として活動されていますね。でも今回はまた Farben名義で復活されていますね。あなた自身、過去にベクトルを向けるという体制を取られています。何故、また再復活しようと試みたのでしょうか?
Jan Jelinek : 数年前に、Farben時代のリズミカルな楽曲の活動にまた興味を持ち始めて、それから内密に Farben の楽曲を作り始めていたんです。実際、色んな人から Farben の再開について聞かれてたこともあったし、それで自分自身でもFarbenとして再リリースを考えるようになりました。Farbenとしては、恐らくこれは良い機会だと思うタイミングが重なったので、再スタートすることに決めたんです。因みに、UNITでの反響はなにか聞いていますか??
―― Twitterや facebook、親しい友人を通じて聞いたことですが、UNITでのプレイはとても良かった・・・と。あなたの楽曲は90年代を代表するミニマルの元祖だと誰もが高く批評しているし、あなたの楽曲を愛してやまない人がたくさん居るから、その楽曲が甦って、しかも生で聞けて大満足であったと。
→ [Party Report : CABARET at UNIT, Tokyo (2011.02.26)]
Jan Jelinek : それなら良かった。実は毎回思うことは、自分のプレイのあと、小さな反省点はいつもあるし、自分としてはどちらかというととてもネガティブなほうなので、毎回つい厳しく自分のプレイを評価してしまうんです。特に大きな意味は無いんですが…。でもUNITでもオーディエンスが盛り上がっていたと聞いて安心しました。
―― 日本のオーディエンスはどうでしたか?ヨーロッパのオーディエンスとの違いは見受けられましたか?
Jan Jelinek : ヨーロッパのオーディエンスとの違いについてはそこまで分かりません。でも、日本のオーディエンスは北と南で大きく違うと思いました。過去に札幌でプレイをしたことがあって、その時、プレイの後オーディエンスはとても静かだったのが印象的でした。そこでプレイをしたことがある他のアーティストも同じことを言っていました。一方、京都や大阪のオーディエンスはもっとワイルドというか感情を外に出していたというか…。
―― なんとなく日本人の私もそう思う節はあります(笑)。UNITでのプレイの際、あなたは四角いモジュラーシンセのような機材を使用していましたね。それは何だったのでしょうか?自作ですか?
Jan Jelinek : あれは自作ではなくて、ベルリンの Schneiders-Buero (http://schneidersbuero.de/) というモジュラー機材を扱うお店で買えます。ただし、プロ向けの機材で、数百ユーロから何万ユーロととても高いので、コストパフォーマンスは正直…。一度ハマったら色々集めたりとお金がかかるから、個人での購入はオススメ出来ないです…。あと、いつも私が使っている機材は Time Safari という名前の、そこまで特別なものではないですよ。
Farbenのライブでもこれらの機材を使っていますが、Farbenの音はとても「ベーシック」であるように心掛けています。クラブミュージックにおいても同じで、ベーシックな音が好きなんです。沢山エフェクトを使うというのが好きではなく、ほんの少しのイコライザーとフィルターだけを使います。僕は「ピュア」な音が好きなんです。僕は此処数年、Jan Jerinek と Farben では同じ機材を使っていますが、Jan Jerinekのライブの時はもう少し違うモジュラーシンセも取り入れたりします。
―― 今度は Farben とJan Jerinekとしての名義、どちらをメインに活動されていく予定ですか?
Jan Jelinek : どちらもです。どちらも好きだから。4月には Farbenとして数回プレイする予定だし、5月の日本ツアーの時は、Jan Jerinek として来日します。今回共演する Masayoshi Fujita (http://www.myspace.com/elfog) というアコースティックミュージシャンとプレイするときは、いつも Jan Jerinek としてのプレイです。他には、僕、Andrew Pekler、Hanno Leichtmann というトリオでパフォーミングすることもあるし、5人のパフォーマーと一緒にプレイすることもあります。僕は色々実験的に、色んなアーティストと試してプレイすることが好きなので、特に「これ」と決めたパフォーマンス体系は取っていないんです。
―― Farben としてリリースされた数々の楽曲はもはや、世界中のテクノファンを虜にし、今も尚、愛され続けています。これを踏まえて、あなたの中で Farben としての活動を振り返り思い出のエピソード、思い出の楽曲などをお聞かせ下さい。
Jan Jelinek : いや、これと言って無いんです。楽曲制作は大半がスタジオワークだから、淡々と作業をするだけです。ただ、いつも曲を作る時はプロセスを大事にしています。サンプリングを作って、このマシーンで試したらどうなるかとそのソースを大事に筋道を辿って、結果に行き着く感じです。そして、最後に仕上がった楽曲を聞き、5~6分で数カ所補正するだけという感じです。つまり、ただレコーディングしてその結果を求めるだけの作業です。
早く仕上がる曲ほどうまく行くもので、日中作って、その日の夕方には曲は出来上がっているというのが良いケースです。結局いつも10時間くらいスタジオにこもって作業することになるけど、僕はあまり長くスタジオに居続けて、曲の修正をし過ぎたりするのが好きじゃないんです。
―― 先月末に行われた 日本ツアーLIVE、"Cabaret @ UNIT" では、Jan Jelinek 名義でリリースをしているレーベル ~scape のオーナー、Barbara Preisinger との共演でしたね。実は先日、彼女にもインタビューをしたのですが、あなたが ~scapeからリリースをスタートした当時の話を語ってくれました。どのような経緯でリリースが決まったのでしょうか?
Jan Jelinek : 確か10年前、(~scapeの共同オーナーである)Stefan (Pole) が~scapeからリリースしないかと提案してくれて。当時彼らはまだ Kit Clayton というアーティストの曲しかリリースをしていなかったので、僕は~scapeからリリースをした2人目のアーティストとなりました。当時僕とStefanとは、クラブで偶然何度か会っていました。
―― 5月に再来日されますね。現在、日本は地震の後に残された諸問題として原発問題が上がっていますが、来日にするにあたって何か情報はありますか?意見をお聞かせ下さい。
Jan Jelinek : 良い質問をありがとう。僕自身も不安でいます。日本についてのニュースを見る限り、見るたびに情報が違っている気がします。時に安全というし、時に危険だと…。もちろん自分のライブツアーとしては訪問したい思いがあります。現状では来日する予定です。
・5/20 (fri) 大阪 nu things JAJOUKA http://www.nu-things.com/
・5/21 (sat) 京都 法然院 http://www.nightcruising.jp/
・5/22 (sun) 金沢21世紀美術館 http://www.kanazawa21.jp/
・5/27 (fri) 江ノ島 Oppa-la http://oppala.exblog.jp/
・5/28 (sat) 東京 落合Soup http://ochiaisoup.web.fc2.com/
――京都はお寺でプレイされるんですね。
Jan Jelinek : 京都のオーガナイザーがお寺での公演を決めてくれました。過去にも何人かそこでプレイをしたそうですが、僕も今回の京都での公演をとても楽しみにしていて、特に共演するMasayoshi Fujitaのプレイはインストウルメンタルだし、京都の風情ともとてもマッチして、静かで神聖な雰囲気になると思います。
(※2010年、Jan Jelinekのレーベル・Faiticheより、Masayoshi Fujita & Jan Jelinek 名義で共作アルバムをリリース)
―― あなたは90年代を代表するテクノシーンきってのアーティストですが、その中でもあなたが最も触発されたアーティストがいましたら、是非教えてください。
Jan Jelinek : たくさんい過ぎます。僕はエレクトロニックミュージック以外にも本当に色んな種類の音楽を聴いているし、色んなところから影響されて僕自身の楽曲が作られています。ただ、これだけは言えるというのが、僕は大抵自分の音楽を聞いているのが大半だということですね。ほぼ一日中、ノンストップでスタジオワークなので、色んな音楽を聞く暇がないというか… (笑)
―― そうなんですね。でも時に、クラブへ行ったりはしますか?
Jan Jelinek : そうですね、たまにですね。10年前はよくクラブへ出向きましたが、ここ数年はクラブミュージックというものにそこまで興味が持てなくなったんです。これはあまりよくないことだと思いますが…。恐らく、エレクトロクラッシュがブームになった時、僕は本当にこういった音楽が理解できず、好きではなかったので、クラブへ出向かなくなったんだと思います。それにもう、僕は現在40歳ですし、すでに過去20年間クラブへ行っていた訳で…それ以上に他のことに興味を持ったし、僕はロックも本当に大好きだからロックコンサートに行くこともあるし、バーへもよく出向きます。
―― 音楽的なバックグラウンドについて教えてください。ジャズやソウルをよく好んで聴いていたとのことですが、そうした音楽との出会いから、エレクトロニック・ミュージックとの出会いまでを教えてください。
Jan Jelinek : そうですね。当時、実は僕はエレクトロミュージックが大嫌いだったんです。ティーンエイジャーの時はガレージパンクが好きだったので、バンドでベースをやっていたんです。その時、エレクトロニック・ミュージックをやっている友達がドラムマシーンを貸してくれて、それを元にコンピュータゲームで遊んだりしていました。それが最初に興味を持ったきっかけでした。僕はアシッド・サウンドが大嫌いだったんですが、ある時、友達に連れられてハウスパーティに行くことがあり、その時、ハウスミュージックにはソウルミュージックと同じエッセンスがあると感じたんです。ハウスミュージックのほうがよりベーシックというか、ピュアだなと。それで僕はハウスミュージックの虜になり、エレクトロニック・ミュージックを始めたんです。先にも言いましたが、僕はピュアな音…プリミティブで、レトロな音が好きです。
―― Farbenの曲を聴くといつも思うのですが、リズム隊の組み合わせがとても優秀なハウスミュージックにきこえます。キック、スネア、ハットが全てベストなポジションで鳴っていてそのグルーヴが渦を巻いているような・・・。ハウスミュージックの影響を感じます。
Jan Jelinek : もちろん影響を受けています。ハウスミュージックは世界で一番といってもいいほど大好きな音楽です。家では聞かないけど、バーやクラブで聞くなら一番だと思います。今ではコンテンポラリー・ハウスミュージックと呼ばれていますが、80~90年代の楽曲に特に一番影響を受けていると思います。
―― Farben 復活ライブは日本以外の国でもされたのでしょうか。今後の活動など決まっていることがあったら教えてください。
Jan Jelinek : はい。6月にバルセロナの "sonar weekend museum for natural science" というフェスティバル(※ Sonar Festival で行われるパーティーの一つ)に出ます。スタッフの人からフェスティバルの要素に相応しいように、鳥のさえずりの音を集めて曲にして欲しいと依頼を受け、僕はそれらマテリアルを自分で集めてモジュラーシステムに取り入れて、編集している最中なんです。3月から4月にかけては、club transmediale(CTM)への出演や、日本人のヴォーカルアーティスト・ダモ鈴木と一緒に Festsaal Kreuzberg でプレイしたり、ベルリンでは結構多く活動してきました。日本ツアー、そしてバルセロナでの公演を終えたら少し休息しようかとも思っています。
―― ありがとうございました。
interview end --
これだけのヒット曲の数々を生み出し、一躍エレクトロニックミュージックの仲間入りをした Farben (Jan Jerinek)であるが、自分のプレイに対して妥協を許さず、よりピュアでベーシックな音を求めて探求を続ける姿勢は本当に学ぶところが多い。日本でのツアーが無事成功し、固定の形態を取らない彼のアトラクティブなライブは今後も必見だ。
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