ダブステップ・コミュニティから愛されたシンガー
70年代から活躍するスコットランドのシンガー Mae McKenna を母に持つ Jamie の初リリースは、トラッド・ソング ‘Wayfaring Stranger’ のカヴァー・ヴァージョン(07年発表 / 図1)。D'Angelo や Usher といった90年代R&Bを愛する Jamie のスムースでソウルフルなヴォーカルを幾重にも織り重ねた同曲は、彼のシンガーとしての力量を十二分に証明していたと言っていい。そして、やはり注目すべきは、そのシングルに Burial のリミックスが収録されていたことだろう。そう、元々はロンドンのオープンマイク・ナイトにギターを片手に飛び入りするようなシンガー・ソングライターだった Jamie だが、その声はダブステップのコミュニティでも広く愛されていたのである。実際、前述の Burial を始め、Ramadanman ('Night Air' など。/ 図2) や Hudson Mohawke ('Lady Luck' など。/ 図3) も彼にリミックスを提供。中でも Ramadanman は、Jamie の声をサンプリングした ‘The Woon’(図4) というオリジナル・トラックを発表するほどの入れ込みようだった。
そして、そのようなダブステップ・シーンからの反響を受けて、Jamie のプロダクション・スタイルにも変化が現れる。特に ‘Wayfaring Stranger’ の Burial リミックスには大きな刺激を受けたらしく、それに触発される形でエレクトロニックなサウンドへとシフトしていったのだ。よくイギリスのプレスからは、「James Blake はダブステップから歌へとシフトし、Jamie Woon は歌からダブステップへとシフトしている。そして、今の両者はちょうど同じ場所にいる」と言われているが、その指摘はおおよそ間違ってはいないだろう。ただ、両者のアルバムを聴いた現時点で一言付け加えておきたいことがあるとすれば、「James Blake と Jamie Woon は近い場所にいる。ただし、Jamie Woon は James Blake のポップ・ヴァージョンだ」ということだろうか。
ダブステップを消化した美しきダーク・ポップ “Mirrorwriting” いずれにしても、Jamie Woon のファースト・アルバム “Mirrorwriting” (図5) は素晴らしい作品だ。‘Wayfaring Stranger’ 以降、3年以上もニュー・マテリアルを発表していなかった Jamie だが、やはり Burial からの影響を自分なりに消化するためには、それくらいの時間が必要だったということだろう(実際、アルバムのクレジットには、音楽的な刺激を与えてくれたことへの感謝の意を示すために Burial の名前が載っている)。とは言え、このアルバムでも、楽曲の主役が Jamie のソウルフルな歌声であるという点は、以前と変わりない。しかし、そこにダブステップを自分なりに消化した、ダークで空間の多いエレクトロニック・サウンドが寄り添うことで、彼の曲が持つセンチメンタルな雰囲気が増幅されるようになっている。暗い夜道を一人ポツンと歩きながら聴くとハマりそうな、美しきダーク・ポップ。果たして、これが今のイギリスでどれだけ多くの人に共有されることになるのか、興味深く見守っていたい。